序章:ここはどこ?02
俺の問いかけに勇者一行は身体を震わせる。それはやっぱり暗黙のルールでボスからの逃走は出来ないんじゃないかと思って、声をかけたが予想以上に効果があったようだ。勇者とその仲間は目配せして意思を確認しているようだ。よくわからんが夢の中でも誰かに殺されるような目には合いたくはない。ってか戦うなんて無理だし。
「・・・。」
声をかけずに勇者一行を見据える。こういう時、下手に声をかけると逆効果だったりする。玉砕覚悟で挑まれるのも御免被りたい。そんなことを思っていると勇者一行に動きがあった。
「輝かしい閃光よ!輝光」
勇者タツヤが手を振り上げたと思ったら広間に閃光が広がる。勇者たちの姿はホワイトアウトしてしまう。同時に女の声も響く。
「爆砕せよ!瀑布」
魔法使いコスのヒマリが唱えた呪文が響くと同時に爆音とその余波の爆風が巻き起こる。思わず目を閉じる。というか眩しくて開けることが出来ないぞ!轟音と爆風が収まり目が慣れるまで数分かかってしまったが、ゆっくり目を開けると目の前には10mを超えるほどの大穴が開いており、巻き起こる砂埃で周囲の状況がよくわからない。こんな大穴が開くなんて・・・どれだけのホコリが舞い上がってるんだろう。
「埃を巻き上げるだけか、くだらん。」
つい、そんなことを呟くが脇汗ぐっしょりだよ、チクショー!戦ってたら瞬殺だったな、俺が。命拾いしたぜ。チビらなくてよかっ・・・ぐっしょりだった。くそ、勇者め!二度と来るな。あっ!そういえば副官さんは?もしかして殺られた・・・??
「ふ、副官・・さん・・?」
「はい、魔王様。此方に控えております。」
あっ、無事だったんですね。やっぱり副官というだけあってお強いんでしょうね。・・・いやいや、仮にも俺は魔王なんだからきっと相当に強いはずだ。うん、そうに違いないな。
「この大穴は魔王さまが?」
「ん?いや、勇者が逃げる際に目くらましで使った魔法だよ。」
「そうでしたか、では後ほど塞いでおきます。」
「あ、あぁ。よろしく頼む。それから色々と聞きたいこともあるんだけど構わないかな?」
「私でお答え出来るものなら。」
「着替えはあるかな?」
少しパンツが湿ってるが、仕方ない。目の前で大爆発が起きたんだ。そりゃージュンジュワーってなるわ。とりあえず何事もなかったかのように振舞おう。俺はじっと俺のほうを見ていた副官さんは特に気にした様子もなく答えてくれた。
「では床の方も清掃いたしますので、寝室までご案内します。」
あれー?バレてるやん。何でわかったんだ?湯気でも出てたか?
濡れた下着がいい感じに冷たくなった頃に寝室へと到着した。ようやく着替えられると思ったらテキパキと執事姿の副官さんが俺のローブを脱がせにかかる。いやん、大胆。っておもらしして着替えまでさせてもらうのはいくらなんでも羞恥プレイが過ぎる。頭がフリーズしていると、下着にまで手をかけそうになっている副官さんを慌てて止める。
「しかし、お拭きいたしませんと。」
え?オプションでもないのにそんなプレイまで?って違う!そんな店じゃないし!美人な副官さんにそんなことされたら項垂れてたもんがそそり立つわ!
「だ、大丈夫。それは自分でやるから。ちょっと出ていてもらえるかな。」
「わかりました、御用があればお呼び下さい。」
そう言い残し部屋を後にする。扉を閉めながらも最敬礼している姿は一流の執事だ。そんな美人の一流執事の副官さんに拭いてもらったら理性が保てん。俺の判断はきっと間違っていないはずだ。うん。
程なくして着替えも終わり、とりあえずベッドに腰を下ろしそのまま倒れるように横になる。夢にしてはリアルだ。これだけリアルなら起きたらきっとオネショしてるな。良い年してオネショ・・・。トホホ。にしてもリアルだなぁ。調度品も細部まで意匠が凝らされていてとても高いだろうことは学のない俺にも分かる。ベッドの柔らかさもこれまで味わったことがないような気持ちよさだ。夢っていうのは自分が体験したことの整理をするために脳が見せているんじゃなかったのか。正直、こんな調度品や最高の寝心地のこのベッドなんか俺は知らない。妄想を体験しているんだろうか?こういうことは副官さんに聞いてもわからないんだろうな。
ふと、窓から外でも見ようかと近づく。そこに映ったのは皺くちゃの顔のジジイだ。頭には2本の立派な牛のような角が生えていた。な、なんだコレ!うわぁ、魔王というくらいだから角くらいあるか。魔王か、これが魔王?ただのシワシワジジイやん。若者4人でぶん殴っていい相手じゃないやん。それにしても全然俺に似てない。そこだけ見てると自分じゃないって気がして仕方ないな。顔を触りながらシワの様子を観察し同じようにシワシワになった手を見る。枯れ枝のような指によく聞けば嗄れた声は実際の自分と似ても似つかない。
「副官さん!副官さーーん!!」
「はい、ここに。」
「うひゃい!」
すぐ後ろから声がして思わず変な悲鳴が上がる。いつの間に部屋の中に・・・。心臓に悪いよ全く。今じじいなんだから、気をつけてもらわないと。魔王の死因が驚いてのショック死なんて哀れすぎる。そんな俺の気持ちなんて我関せずで、控えている。
「えっと・・・聞きたいんだけど・・・俺、年寄りになっているんだけど。」
「はい。」
「何でだか分かる?」
「長く生きてきたからです。」
あぁ、そうでしょうね!そんなこと俺も分かるわい。なんて言えば通じるんだろう。もともと俺はじじいじゃないんだよ!そんなこと信じられないだろうな、俺もジジイになっていることを信じられん。うーん。
そんな俺を見てか、副官さんはその執事服の内ポケットから封筒を取り出す。
「魔王様、これをお預かりしています。」
「これは?」
「封筒です。」
「いや、誰から?」
「??、魔王様からです。」
「魔王?他にも魔王がいる?」
「いえ、私が知る魔王様はあなた様一人です。」
んー要領を得ないな。つまり、俺からの手紙ってことか?
「俺が俺に宛てた手紙?」
「はい、その通りです。」
その通りだって。というか、俺にはそんな記憶はないわけで・・・読むしかないよな。