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第6話「コミケ部活動中」

「では、今日のコミケ部活動内容は、副部長のユキから」

「とりあえず部員を勧誘して勧誘して勧誘してきてください。以上」

「……部員って俺達三人だけ?」

 素朴な浅井の質問に悠緋と優希はさすがに姉弟だけあって、見事なシンクロで首を振った。もちろん縦に。

 大丈夫なのか、この部活。既に沈みかかった泥舟のような気がしてならないのだが。

 現状に文句を言っても状況が改善するわけでもないので、仕方なしにコミケ部の旗とポスターを装備して、特別棟から出陣する。

 浅井の担当は、一学年の教室がある階。すなわちA棟及びB棟全部になる。悠緋が校門前を担当し、優希に至ってはこの青ヶ島学園全ての敷地を周らなければならない。

 適当に廊下をうろついていると丁度教室から出てくる男子生徒を見掛け、

「よう、小林じゃないか。久し振り」

 あたかも知り合いのように爽やかに話しかける浅井だが、小林と呼んで話しかけた男子生徒は今までに話したことも無ければ見たこともない。本当に小林なのかもわからない。

 声を掛けられた男子生徒は明らかにうさんくさそうな顔をしている。いや、別にセールとかじゃない。

「え〜と……誰だっけ? それに俺は杉田なんだけど」

「ほら幼稚園の時一緒に遊んだだろ?」

「さて?」

 思いっきり怪訝そうな表情を向けてくる。まあそれもそうなのだろうが。

 怪しまれていることなんてどこ吹く風で浅井は、コミケ部のチラシを手渡す。杉田も場の空気からか、なぜかすんなり受け取ってしまう。

「……コミケ部? ってまさかコミュニケーション部か?」

「ああ、そうだけど」

 コミケ部の正式名称を聞いた途端に、杉田の顔が曇り。突然辺りをはばかり始める。

「どうした?」

「いや……実はな俺の兄貴がここを去年卒業したんだが、兄貴に一つ忠告された事があって」

「どんな?」

「それが、コミュニケーション部には近付くなって」

 微妙な空気が流れ、沈黙してしまう。一体、この部活は過去にどんな活動を行ったというのか、兄が弟にそんな忠告を残して行くとは。

 杉田は浅井を憐れむような視線を投げ掛け、立ち去って行く。何だろうこの敗北感。

 とりあえず、勧誘の前にするべき事があるようだ。浅井はブレザーのポケットから携帯電話を取り出すとアドレス帳を開き河瀬優希の携帯に電話をかける。

 三回ほどの呼び出し音が鳴り、繋がった。

「もしもし」

「ユキ、正直に答えろ一体コミケ部は何をやらかした?」

 受話器の向こう側で、珍しく優希が溜め息を漏らす。

「意外と速かったね、犠牲者の弟でもいたのかな」

「犠牲者って……穏やかなじゃないな」

「本当に聞きたいの?」

「ああ」

 それでも優希はあまり話したくないのか、中々切り出そうとしない。さすがに心配になって来た浅井は、罪になるような事でもやったのだろうかと心配になる。

「実は、去年映画を撮影したんだよ」

 語り始めた優希の声は重く沈んでいた。

 優希の話を要約するとこうである。

 去年の学園祭に向けてコミケ部は映画を作ることになった。その映画の内容とは地球外生命体が来襲するという話だったのだが、有志で集まった出演者がどうせやるなら意外性があった方が良いと言い出し、意外性をとことん追求した結果。何故か地球の全人類の命運を掛けたてフルマラソンで戦うことになり、スタッフ全員でフルマラソンの距離を二往復したとか。

「……」

「正直言って、あまり良い思い出ではないよね。途中で何人か倒れちゃうし」

「何も、馬鹿正直にフルマラソンをしなくたって……」

「僕もそう思ったんだけどね、杉田って三年生がリアリズムは大切だとか言い出して。それに先輩が乗り気だったからね」

 何故か優希は姉の悠緋のことを姉と言わずに、先輩と言っている。だから、優希が先輩と言った時は、悠緋を指しているのが浅井には自然と分かる。

「悠緋さんが? 何でまた」

「その頃、丁度マラソンを題材にしたアニメを見ていたからだと思う」

 ふと高宮の人は外見だけじゃ人は分からないという言葉を思い出す。確かにその通りだ。外見だけでは、悠緋が実はオタクと呼ばれる部類に入るという事を必ずと言って良いほど分かるはずもないだろう。

 世間一般的にオタクのイメージはバンダナにシャツをジーパンに入れるというのが定着しているし。

「何となく分かったよ。そんなアホな事を続けていたんだな」

「うん。今言ったのはあくまで、代表的な例だから」

「なあ、俺は絶対入部しないと駄目なのか?」

「うん」

「……拒否件は?」

「あるよ」

「身の危険を感じたら速攻で辞めるからな」

「わかってるよ」

 通話を切って携帯をブレザーのポケットにねじ込む。しかし、何がコミュニケーション部には近付くなだ。結局元凶は杉田兄じゃないか。

 気を取り直して浅井は勧誘を再開したものの、成果は一向に上がらない。しかし、それも当然だと浅井は思う。自分だっていきなり見ず知らずの奴にコミケ部なんて訳の分からない部活の勧誘をされたら入らないだろうから。

 少し休憩しようかと思い一年二組に入って自分の席に座り、窓の外に視線を移す。一年二組の窓からは校門が見え、悠緋が下校してく新入生にコミケ部のチラシを配っていのをぼんやり眺めていたら、突然視界が真っ暗になる。

「だ〜れだ?」

 恋人同士がよくやっている、あれだ。誰かが後ろに居て両手で目を塞いでいる。

「え〜と……」

 ───誰だろう? 恋人はもちろん仲の良い女友達なんていないし、唯一の可能性は。

「永山……さん?」

「はっずれ─」

 視界が開け、光が戻ってくる。目の前には一人の少女が立っていた。

 腰まである長い黒髪に均整の取れた顔立ち。そして、眠たいそうな印象を受ける瞳で、真っ直ぐに見つめてくる。

「だれ……だっけ?」

「私のことは良いとして面白い部活動の勧誘行ってるんでしょう? 私もその部活に入部しようかな」

 微笑んだ少女は、どことなく舞依と同じ雰囲気を持っていた。

「辞めといた方が良いと思うけどな」

「誠之は入るんでしょ?」

 まだ入ると決めた訳ではない。言うならば仮入部中だと反論したかったが浅井は自分の少女が自分の名前を知っている事に驚き出来なかった。

「君は誰? このクラス?」

「私の事は莉遠りおんとでも呼んで」

 莉遠の満面の笑みに浅井は内心ドキっとした。恋心とか言うのではなくて、少女の笑い方が舞依にそっくりだったからである。

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