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第5話「その名はコミケ部」

 気まずい雰囲気の中家に帰宅し、夕食を食べリビングでくつろいではいたが、互いの部屋に戻るまで、どこかぎこちなかった。

 部屋に戻りベットに横になった浅井は考え事で頭が一杯になり、睡魔は訪れない。気がつくと、カーテンの向こうが明るくなり始めている。

 ベットから上半身だけを起こして、カーテンを開けると朝日が差し込み眩しい。

 時計に目をやるとピッタリ六時だ。家から学校までは歩いても二十分も掛からないので、起きて学校に行くのは早過ぎる時間帯だ。

 早過ぎるとは思うが、浅井は学校の制服に袖を通す。

 まだ舞依とは会いたくない。もう少し互いに時間が必要だから。

 静かに自分の部屋を出て忍び足で、玄関に向かい音を立てずにドアを開け外に出ると、またゆっくりとドアを閉め鍵を掛ける。

 春の朝日に向かって、一日を乗り切れるだけの気合いを入れて通学路を歩き始めた。

 新鮮な朝だった。いつもは優希と一緒に登校するので一人というのは随分久しぶりに思える。優希には悪いがたまには一人もいいかもしれない。

 校門の近くに設置されている時計を見ると六時十五分を指している。案の定かなり早く到着してしまった。

 校庭の方角からは運動部の声が聞こえてくる。

 上履きに履き変え、何段もの階段を上り、自分のクラスである一年二組に向かう。

 途中で図書館に行けば良かったと後悔しながら、一年二組の教室に入ると、意外なことに先客がいた。

 その先客は教室のドアが開く音にも、隣の席の浅井が席に座っても、何の反応も示さず、黒板を見ていた。

「おはよう、随分早いんだな」

 無視されるのを覚悟で声を掛けてみたが、牛乳瓶のフタのような眼鏡をした生徒は浅井を見る。が、やはり返事は返してこない。

 しばらく、沈黙が続いたが、突然牛乳瓶のフタのような眼鏡をした生徒の肩がピクッと跳ね上がる。

「……電話」

 それだけを言い残して立ち去り、それからHRの時間まで戻っては来なかった。

 結局会話をできたのは、この朝の時間だけだった。学校が始まってからの休み時間は、後ろの席の國御坂や雪夏と話をしたり、昼休みは弁当を持ってきてなかったので、國御坂と雪夏。それに雪夏が親しくなった女子生徒の四人で食べた。

 六時間目の授業に、掃除。HRが終わり、高校生活の二日目を生き抜いた浅井は、一つの感想を持っていた。それはユキのことだ。今日は朝早く登校した為に、一度も顔を合せていない。今まで仲の良かったのに、学年が変わりクラスが変わってみると、会話をすることもなくなる。今まではそんなことがあるのかな。くらいにしか思わなかっただが、自分で体験するとそれがよくわかる。

 確かに学校生活において、クラスが変わるのは、結構大きいことなのかもしれない。

「浅井じゃないか」

 後ろから高宮が追いついて来て、浅井の肩を叩く。立ち止まるのは面倒だったので、浅井は歩きながら顔だけで後ろを向く。

「高宮か、これから帰り?」

「まさか。俺はサッカー部に入るからな、今は仮入部中だ」

「へえ……高宮が部活ねえ」

 今日は意外なことで驚く事が多い日だと思う。朝もそうだし、高宮についてもだ。外見からはどちらかといえば帰宅部の方が似合っていると浅井は思う。もしくは、制服のまま街に出て、遊んでいるとか。

「おいこら、何、意外そうにしてんだよ」

「悪い悪い。高宮ってどっちかというと、遊んでそうな感じだからさ。真面目に部活なんてやるとは思えなくて」

 外見だけじゃ人は分らないと言うだろうと何故か威張りながら言い放つ。まあ、外見だけで判断してはいけないことについては浅井も賛同するが、なぜに威張る必要があるのかは謎である。

「そういや、國御坂に聞いたんだが、サッカー部員だったんだって?」

「……一年程前はな」

 優希が転校して来た時は、まだ部活をやっていたので、辞めたのはその後だ。正確な日時は浅井も覚えてはいない。

 まったく國御坂のお喋りにも困ったものだ。別にどうでもいい事を他人に教えたがる。

「何で辞めたんだ?」

「……ま。色々あったんだよ、一身上の都合ってやつだ」

 そのまま高宮と他愛もない話をしながら、昇降口の前まで一緒に行く。

 浅井は図書室に向かい、高宮は部活があるのでそこで別れる。

 まだ見慣れない廊下を歩き、壁に張られている掲示物に視線を流す。

 迷わずに図書室にまで辿り着けたので、方向感覚はそれなりにあるらしい。

 図書室のドアを開けようとドアノブを回そうとするが、どういう訳か回らない。

 疑問に思っていながら、脇の壁を見てみると。

「図書室臨時休館日」と書かれた、藁半紙が張られていた。

「あれ? 誠之君どうかしたの」

 呆然自失のまま突っ立ている浅井の姿を見つけた悠緋が声を掛ける。

「休み過ぎると潰れますよね」

「何のことかよく分からないけど、誠之君は部活に入ってないよね?」

 以前として、臨時休館日の図書室を見つめながら首を縦に振る。

「じゃあ、連行」

 悠緋にガシッと腕を掴まれて有無を言わさず連行される。

 連れて行かれた先は特別棟の一角にある部屋だった。

 この特別棟は主に各文化部の部室として割り当てられいる。

「一名様ご案内〜」

「あれ、浅井を連れて来たんですか」

 部屋には優希が部屋のど真ん中にある長机の左端の所にパイプ椅子を置いて座っていた。

 本棚にはぎっしりとマンガ本が積まれ、長机の上にはノートパソコンが置かれ、同じく長机に白い紙が乱雑にぶちまけられている。

「何ですか……ここ?」

「ユキ。誠之君に説明してあげて」

「はいはい」

 はいは一回と悠緋に怒られた優希は微笑を浮かべながら立ち上がり、狭い部室を歩き始める。

「そうだね。簡単に言うと、漫画を書いたり、映画を撮ったり、マスコミの真似ごとしたり。その他にもあるけど、要は悠緋先輩の気分によって活動内容が変わって行く部活働かな」

「部活……?」

「そう。幅広い活動を行いあらゆる方面での交流を目的とした多目的コミュニケーション部。略してコミケ部」

 ドアを閉めながら部長である悠緋が優希に代わって部活名を公表する。ドアを閉めた時の衝撃で、コミケ部と書かれた札がカコッと斜めに曲がった。

 浅井はただ苦笑いをする。それ以外にどんな顔をすればいいのか全く分からない。

「とにかく、誠之君はユキの隣のパイプ椅子に座って」

「ああ、はい」

 言われた通りにパイプ椅子に座ると悠緋は長机を挟んで向い側に座り、向き合う形になる。

「さあ。今年第一回の活動を決めるわよ」

 というか、もう入部することは決定済みなのか。浅井はため息を漏らしつつも、心底嫌な訳では無かった。

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