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第20話「軌跡〜足跡〜」

 次の日。朝早くから秋山に叩き起こされ。優衣と秋山と不思議な少女、名月院瑞希なげついんみずきそれに浅井の四人で朝の食卓を囲んだ後に瑞希を一人で留守番させ学校へと赴く。

 昨日は図書館が休刊日で使えたが、今日からは使えないらしく二階にある生徒会室に移動し作業を開始する。

 浅井は相変わらず劇の内容を延々と考え。秋山はパソコンでポスターを量産し、量産されたポスターを優衣を含む女子生徒陣が町に配りに出掛ける。

 蝉の合唱が響く中の作業はしんどかった。しかし他校の生徒と仲良くなって一緒に作業をするのは楽しかった。

 マシンガントークの前原和美まえばらかずみは炭酸が全然飲めないという意外な一面を持っていたことには浅井と優衣は驚いた。炭酸が飲めない人って結構珍しい気がしたからだ。

 正午になるとジャンケンで負けた男子生徒が近くのコンビニまで買い出しに出掛け。お昼ご飯が到着する間はトランプなどをして時間を潰しつつ息抜きをする。

 また蝉の合唱が鳴り響く中にそれぞれが作業に集中し。時折、秋山がふざけた事を言って笑いを誘う。

 夕方には学校から下校し秋山の家に帰る。

 一人で留守番をしていた瑞希が夕ご飯の支度をして待っていた。

 そして夜は四人がリビングに集まってテレビドラマを見たり、ゲームをしたりして遊ぶ。

 神秘的なイメージを持った瑞希はトランプやテレビゲームが苦手で負けると顔を真っ赤にして怒る。その姿は幼い子供みたいで可愛い。

 時間が遅くなるとそれぞれが自分の部屋に戻り就寝をする。決まって秋山が浅井の部屋を訪れて酒を勧めて来たりするのだが。

 次第に秋山以外の生徒達と浅井と優衣は親しくなり毎日、時間を忘れて楽しんでいた。川上町に来てからの一週間は本当に輝いた日々だった。

 夏祭り当日の朝。浅井達は川上高校の前庭に集まり屋台用の鉄板で焼きそばを焼いていた。勿論焼くのは秋山である。

 祭りの成功を祝っての景気付けのフライングスタートだ。祭りが始まってしまったらバタバタと忙しく楽しむ余裕なんてないだろう。だから、今だけは楽しもう。そんな雰囲気だった。

 午前十時。祭り開始の花火が打ち上がった。

 商店街にはびっしりと屋台が立ち並び、普段駐車場や空き地となっているスペースには子供達が遊ぶためのアトラクションが用意されていた。祭りの中心部の特設ステージでは高校生によるチアリーディングが行われていた。

 そこから右に行くと浅井と優衣が実行委員本部テントでマイクを持ちながらお客に向けて話し掛けていた。

「本日は晴天よろしく────」

「そんなことどうでもいいでしょ。ただいま特設ステージではチアが行われています。皆さん是非ご覧になってくださいっ」

「この実行委員会本部のすぐ傍でリレーやヘッドスライディング大会なんかも行われます。濡れたシートを頭から滑るのは結構楽しいですよ」

 更に突き進むと前原が親とはぐれてしまった子供を宥めている。丁度反対側では秋山が劇の衣装を着てフライング宣伝を行っていた。

 上に視線を向けると高台にある神社の一番上の石段に座って飴を舐めている瑞希の姿。祭りがつまらないのか。それとも好きではないのか不機嫌そうだ。

 時間を進めよう。午後三時。特設ステージには秋山達が上がり浅井が台本を考えた劇を披露している。

 浅井が考えた劇は高校生達が夏祭りの実行委員になって悪戦苦闘しながらも、笑い合いながら作業をしている様を鮮明に描いた実話である。

 その為か殆んど練習をしていないはずの役者は誰一人として不自然な。いかにも演技をしているという感じは無く。この一週間。そして浅井達が訪れるもっと前の演技をしていた。

 やがて浅井と優衣が登場し浅井が前原にマシンガントークで畳みかけられている場面には観客から笑いが漏れた。

 余す事無く全員が出演し。そして全員でやり遂げた実行委員として最後の仕事だった。

 暗くなると夏祭り最後にしてメインイベント。花火大会の時間だ。

 実行委員のそれぞれは思い思いの場所で空を見上げ、空に咲いた花に魅入っていた。

 人混みでのせいで秋山や優衣とはぐれてしまった浅井は、神社の石段を上っていた高い所から探せば見つかると思ったのだろう。

 そして浅井は石段の一番上に座りながら花火を見つめる瑞希の姿を見つける。

 しばらくの間。二人は花火を見つめながら何かを話し込んでいた。その話の内容が何であったのかは二人しか知らないことだ。

 その神社の真正面を見ると人気の全く無い川上高等学校の校舎。その屋上では一人の少年が見つめていた先は花火では無く神社のある方向だった。

 最後の一際大きい花火が空に舞い上がり弾けた。そうして川上町の夏祭りはゆっくりと。終りを告げる。

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