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第2話「好奇心」

 校門の前で高宮にハリセン百叩きの刑を下した後に、ハリセン少女は自転車を持っている浅井を振り返る。

 思わず身体がビクっと反応してしまう。まさか自分もハリセンで叩かれはしないとは思うが、少しだけ危険を感じ。地面に転がっている高宮の安否をそれなりに気遣いながら、何時でも逃げられるように自転車を手放そうと、伺っていると、

「自転車持ってくれて、ありがと。あたしは永山雪夏ながやまゆきか、あそこで転がっている高宮の親戚です」

 何故か親戚の部分を強調して言った、雪夏は先程の般若みたいな顔とは打って変わって、にこやかな笑顔で自己紹介をした。その笑顔と先程までの凶暴性がどうしても結びつかず、ワンテンボ遅れて、

「浅井誠之。よろしく」

 自己紹介をする。

 自転車を雪夏に引き渡し、校門をくぐり、昇降口に向かおうとするが、優希がいないことに浅井が気付く。

 後ろを見てもそこにはようやく立ち上がった高宮の姿しかない。

「あれ、ユキは……?」

「あそこ。なにか見てるよ」

 雪夏の指した方を見ると昇降口横にある大きい掲示板の前に優希が人だかりに混ざって何かを見ている。

 ああ、そうか。

 高宮や雪夏のせいで。というかハリセン百叩きのせいで、自分のクラスが書かれた紙が掲示板に貼られているのを忘れていた。

 クラスを確かめようと掲示板に駆け寄る前に優希が、戻ってくる。

「クラス見て来たよ」

「悪いな。それで、俺は何組だ?」

「浅井と雪夏が二組。僕が一組でシンが七組」

「二組か。ユキとは違うクラスだな」

「あたしとは同じクラスだね」

 普通ならそれなりに可愛い女の子と同じクラスになれた事を内心喜ぶのだろうが、浅井は内心身の危険を感じていた。

「お〜いっ!」

 高宮の声が聞こえ昇降口に振り返ると、自分のクラスも知らない高宮が、早く来いという意味合いのジェスチャーを行っていた。

 それが本当に早く来いという意味なのかは、分からないが浅井にはそう見えた。

「もう復活したのか」

「シンは立ち直りが速いからね」

「ユキ。素直に馬鹿って言ってもいいのよ」

 親戚だと言うのに随分と雪夏は高宮の事を嫌っているようだ。

 実の兄弟でも必ずしも仲が良いとは限らないので、仕方のないことだ。

 人生と人間関係の意味について考えていると、先程雪夏が叫んでいた言葉を浅井は思い出す。

 確か、だましたとか言っていたような気がする。何があったのだろう。

 真剣に考える自分がいることに気付き、浅井は自嘲気味に笑う。

「どうかした?」

 いきなり笑った浅井に隣に居た雪夏は怪訝そうな顔を向ける。

「いや、好奇心猫を殺すって諺があったのを思い出して」

「なにそれ?」

「好奇心も程々にしないと痛い目を見る。っていことだよ。その言葉通りにね」

 一組の下駄箱入れに靴を入れながら、優希が答える。どうやら聞こえていたようだ。

「ふ〜ん。浅井君は好奇心が旺盛なんだ?」

「どちらかといえば」

 自分の下足入れに靴を入れ、真新しい上履きに履き変える。

 一年の教室は四階に位置していて、これから毎日長い階段上りをしなくてはならないとおもうと、本当に気が滅入りそうになる。

「うおおい、置いて行くなんて酷くない?」

 振り返ると高宮が走って追い掛けてきていた。酷くないという言葉だけ女子を真似ているのか、やけにトーンが違っていた。

「居てもいなくても変わらないから置いてかれるんでしょ」

「俺の影が薄いと?」

 いや、薄くはないと浅井は思う。

「どうせなら空気になればいいのよ」

「おおおう。マイフレンド、カシーワ。我が妹が酷いことを言うよう」

「気色悪い喋り方しないで。それに誰が妹だ!」

 スパァンとハリセンが高宮の頭部を直撃したのと同じくらいのタイミングで、

「お取り込み中の所悪いけど」

 階段の下の方から声が聞こえ、一斉に振り返ると、ちょっとした人だまりが出来ていた。

「コントをやるなら、階段以外の場所にしてくれないかな?」

 その意見には同意するしかないようだ。

 四階まで上りると、それぞれが自分に割り当てられた教室に向かっていく。

「なんで俺だけ、別な校舎なんだよ」

「日頃の行いが悪いからよ」

「仕方がないよ。クラス割りは公平だからね」

 この場合何が公平なのかはよく分からなかったが、浅井は優希に同意しておく。

「じゃあ、また後でな」

「また放課後な」

 颯爽と右手を上げ、駆けていく高宮の後ろ姿に浅井は言葉を投げかける。渡り廊下の半分を過ぎる辺りで高宮は手を振り始める。

 高宮が角を曲がって行くまで見届けてから、優希は一組に。浅井と雪夏は二組に入り、自分の席に座る。

 浅井の席は窓際の前から三番目だ。浅井にとって出席番号が一番じゃないのは新鮮だった。中学時代はずっと一番だったからだ。

 雪夏を見てみると、既に周りの女子と何かを話していた。

 少しの間、教室内をじっくり見回していると、後ろから肩を叩かれる。

「よっ」

「よう。お前も二組か」

 席にエナメルバックを掛け、國御坂くにみざかは椅子に座る。

 中等部の時からの知り合いで同じサッカー部員でもあった。優希が転校してきてからは、浅井と優希と國御坂の三人でいつも一緒に居た。

「にしても、結構新顔増えているよな」

「中等部に上がる時も知らない奴が多かったからな〜」

「俺とか俺とか俺とか俺とか俺とかな」

「浅井は中等部からの入学組だからな」 

 國御坂も浅井同様にただぼんやり、クラスを眺め始める。

「なあ浅井。やっぱりサッカー部には戻らないのか?」

 早くも打ち解けて会話をしている生徒や席に座り固まっている生徒などを見ながら、独り言のように言い、浅井もまた、独り言のように答える。

「ああ。悪いけど」

「……なら仕方ねえな」

 頬杖をつきながら國御坂は本当に残念そうに言う。

 徐々に活気づいていく教室の中で窓際の席の二人組は退屈そうにぼーとしていた。

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