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第14話「河瀬優希と黒影」

カテゴリ警告は出していないのですが、もしかすると不快にさせる場面があるかもしれません。

「……ってこれRPGじゃん」

 最近発売された『スクリーン』と言うタイトルでよくテレビで宣伝している。無論一人でプレイするゲームだ。

「適当過ぎたね。じゃあ浅井が選んでよ」

 ソフトがびっしり入ったケースが三つも差し出される。

 よくまあこれだけ集めた物だと浅井は関心すらしてしまう。

 色々ありすぎて迷うが、無難に野球ゲームを選択する。

 優希がCDをセットして電源を入れる。

 オープニングが流れるがすぐに飛ばしタイトル画面からモード選択画面に移る。

 浅井はてっきり対戦をするのかと思っていたが、優希は選手を作るを選択する。

「対戦しないのか?」

「僕だけでやるといつも失敗するから、浅井も意見を出してよ」

 何故か主人公の名前が浅井誠之に決定されるがその事については何も言わないでおこう。

 テレビの中では少年が父親らしき大人とキャチボールをしている風景が映し出される。

 少しの間のあと画面下に枠が出て来て文字が書かれていく。

『誠之は大きくなったら何になりたい?』

『え〜とね』

 選択肢を選んでください。

・野球選手。

・サッカー選手。

・学校の先生。

・ヒーロー。

「どうする?」

「どうするって普通に考えて野球選手だろ?」

「分かった」

 優希が野球選手を選択する。

 画面が映り変わり浅井誠之が語りかけてくる。

『俺は父さんとの約束をついに叶えて野球選手になった……でも何かが間違っていると思う。きっとあの時……』

 暗くなり『ゲームオーバ―』の文字が踊り出てくる。

「……おい。速攻で終わったぞ」

「あそこでの選択肢はサッカー選手にしないと駄目なんだよ」

「何のゲームだよこれ」

「サッカー」

 確かソフトケースの絵には野球の球とユニフォームが描かれていたと思うが。それになんでサッカーのゲームなのにキャッチボールしてんだよ。いや、この際だ。もはや何も言うまい。

 浅井誠之は何度もゲームオーバ―になるが新しい浅井誠之に生まれ変わって、荒波に身を投じていく。

 一体何回作り直したか分からなくなる程作り直しようやく浅井誠之はプロ入りを目前に控えだ場面に辿り着く。

『信号が変わらないな』

 表示された浅井誠之の台詞に浅井は嫌な予感を覚える。

 何回か前のプレイの時にも似たようなイベントが起きたような気がしてならない。

『車も来ていないから渡っちゃおう』

 直後。浅井誠之はダンプカーに跳ねられ病院に送られる。

 結局この事故のせいで今回の浅井誠之も失敗に終わり、暗い画面にゲームオーバの文字が踊っている。

 断言しよう。このゲームは絶対に選手を作らせる気がないと。長い時間粘っても無駄な努力だ。

 ゲームの途中で優希が電気を付けたので分からなかったが、既に太陽は落ち、外は暗くなっていた。

 時計を見ると七時半を指している。

「あ〜。悪いユキ。そろそろ帰らないと姉さんがうるさいから」

「帰る前に少し僕に付き合ってくれないかな? 行きたい場所があって」

「どこ?」

「来れば分かるよ」

 時間が遅いので断りたかったが、優希に急かされて玄関に行き、靴を履いて外に出る。その際浅井は玄関に何かが足りないと感じるが、あまり深くは考えなかった。

 少し遅れて優希が外に出ると玄関を閉めて施錠する。右肩にさっき見た長い筒状のケースを掛けていた。優希が先頭で歩き出し、浅井は黙って着いていくしかない。

「浅井はさ。殺し屋っていると思う?」

 道中いきなりの優希の質問に浅井はさして考えもせずに、

「いないんじゃないか? そんなの漫画やアニメの世界だろ?」

 と答えた。

「そっか……」

 それからしばらく歩いたが、方角から浅井は優希の目的地は気付いていた。優希に案内されたのは関山せきさんにある公園だった。

 景色が良くて、屋根付きのベンチがあるのでカップルに人気がある場所だ。それに山(というよりも小高い丘)の上だから人気も少ないので、カップルには都合がいい。

「ここか……久しぶりだなここに来るの」

 公園には照明が付いているので足下が見えない程の暗闇ではない。

「ここは僕と、いや僕と悠緋が初めて浅井と会った場所だよね」

「そういやそうだな」

「僕と浅井は出会ってから日は短い付き合いだけど友達だよね?」

 いきなりの質問に浅井は笑い出す。

 こんな所に連れて来て、何を言い出すのかと思えばそんな事か。

 ひとしきり笑った後、浅井は優希とは反対側を向く。

「そうじゃないのか? 少なくても俺はそう思っていたけどな。悩み事があるなら言えよ、大抵のことなら聞いてやるぞ」

 こんな事気恥ずかしい感じがして面と向かっては言えない。

「ありがとう。今日まで楽しかったよ。出来る事なら、ずっと友達でいたかったけど。もう無理なんだ。許してとは言わないし思わない。ただ本当にごめん」

 まくし立てるように言われた言葉の意味が分からなくて、浅井は優希の方に振り向く。

 瞬間。言葉を無くす。優希は鼻と鼻が付くくらい近くに居て、心臓の辺りに何かを押し当ててくる。ゆっくりと視線を下に移し、優希の手に握られている鈍く光る、それを見つけた。

 果物ナイフとは違う。殺傷能力が高そうで銃刀法違反まちがいなしの見るも恐ろしいナイフが胸に突き刺されていた。

「ユ……キ?」

 ようやく絞り出した声は、もはや言葉にすらならない。優希を見ると特に悲しそうな表情はしていない。

ただ、無表情で見つめてくるだけだ。

 ナイフを胸に突き刺されたと言うのに、痛みは感じない。案外死ぬ時とはそのようなものなのだろうか。

 素早くナイフが引き抜かれるが、血は吹き出さない。それに不思議とナイフの刃にも血液らしきものは付着していないように見える。

 次の瞬間。今度こそ腹部に焼き付ける様な痛みが襲ってくる。足下がおぼつかなくなり、その場に腹部を抑える様にうずくまる。

叫びながら腹部に突き刺さったナイフを引き抜こうとするが、頭上から冷静でとても冷たい響きの声が聞こえてくる。

「抜けば出血がひどくなりすぐに死ぬ。抜かなければ苦痛を味わうけど、多少は長く生きていられる」

 引き抜こうとした手から力が抜ける。

「……どう、して?」 

「君が少しでも長く生きている選択をするのなら、昔話をしてあげるよ」

 古代から日本で戦争が始まった頃から知られている歴史の裏では大勢の人間が死んでいった。その歴史の中で権力者の突然の死にはほとんど関わりを持ち『忌まわしき血』と呼ばれている一族がいる。闇にしか出来ない影の中でしか生きられぬ定めを持った一族は何時の間にか黒影こくえいと呼ばれるようになったと優希はまるで独り言の様に。誰に言うともなく言った。

「浅井。君はさっき殺し屋なんていないって言ったよね。僕もそれが正しいと思う。だから今の黒影の名を持っている僕は……間違った存在なんだ。でも」

 優希は肩に掛けていた長い筒状のケースを地面に置き、中からこの日本で生きていれば一度はテレビの中などで見たことがある殺人の道具を取り出す。

 優希が太刀の柄を持ち軽く振るうと、太刀の刀身を覆っていた透明のケースは剥がれ、銀色の刃が鋭く光る。

 太刀の柄に両手を添え優希は突きの構えをとり太刀の刀身を浅井に向ける。

「すぐに苦痛から解放してあげるよ。今度こそ本当にお別れだ」

 気の遠くなる痛みからか一瞬辺りが炎に包まれ、優希が夢に出て来た大人と被って見える。

「じていたのに……」

「僕は君の名前を忘れないよ。僕の生が終わるその日まで。浅井誠之」

 正直優希の話が本当なのかは浅井には良く分からない。しかし、突き刺されたナイフが。全てを物語っているし今の優希は何時もの優希とは違う。そこに居るだけで底知れぬ恐怖を振りまき、氷よりも冷たく鋭い瞳で睨みつけてくる優希には笑顔はない。

 諦めたように静かに目を閉じた直後に浅井横を風が通過していき。耳には金属音が重なった時の鋭くて高い音が届いた。

 依然として腹部には焼ける様に熱く激しい痛みが走る。だが、それは浅井が生きている証とも言える。

 まだ生きているのか。

 ゆっくりを目を開けると、目の前には誰かの後ろ姿が見えた。その背中の長い黒髪が風にさらわれて流れている。

 浅井にはその後ろ姿は知っている一人の少女と重なって見える。どうして、この場所に居るのだろうか。

「莉……遠……?」

 出血からか視界が歪み始め、目を開けていられなくなる。

「どうしてここが?」

「黒影。忌まわしい一族……ここでその歴史に終止符を打ちます」

 聞きなれた声が耳に届いた。その直後浅井の視界は暗闇に閉ざされ意識も闇の中へと完全に落ちた。




 瞼の裏に感じる眩しさと、暑苦しさに浅井は目を覚ます。白い天井が飛び込んでくる。

 ここは、何処だろう。浅井は上半身だけを起こして辺りを確認する。その時、頭と腹部が酷く痛んだ。見ると腹部には包帯が巻かれ手当てがしてある。

 頭を押さえながら、辺りを見回すと白で統一された清潔感溢れる室内に、備え付けの棚とテレビ……病院の個室だというのがすぐに分かった。分かったが、自分はどうして病院にいるのだろうか。何かを思い出そうとしても、頭痛が酷くて何も考えられない。

 しばらく何もしないで、呆然としていると頭の痛みも治まる。

 テレビの上に乗っていたカードを差し込み口に差し込むとテレビの電源が入る。適当にチャンネルを回すと、朝の天気情報がやっていた。

「今日、七月二十四日は────」

 二十四日? 今の日付から推測すると四日間は眠り続けていたのか? 確か國御坂と夏休みが待ち遠しいと会話をしていた様な気がするし、それは確か終業式の二日前だから二十日の事だったと思う。

 その日の学校が終わった後から記憶が途絶えているので、帰り道に何かあったのだろうか。車に撥ねられた……とか。

 考え事をしていると突然個室のドアが開き、高宮が入ってくる。

「……」

「……」

 丁度二人は目が合い、沈黙が訪れる。

「……」

「……おはよう」

 何となく挨拶をしてみたが、次の瞬間高宮は病室を飛び出し、

「たいちょおおおおおお!!! あいつがあいつが目を覚ましたああああ!!!」

 と大声で叫びながら走って出ていく。

 病院では静かにしましょうという言葉を知らないのかあの馬鹿はと浅井は少し呆れる。呆れるが、それでこそ高宮だとも思う。それよりも隊長って誰だよ。

 一番最初に駆け付けたのは舞依。少し遅れて莉遠が入ってくる。

「誠之っ」

「誠之!」

 黄色い声が重なって聞こえる。どちらの声も心配と喜びが混じったような声だった。

「や、やあ姉さん。それに莉遠も」

「この馬鹿! 散々心配掛けて……!」

 今にも泣きそうになるのを舞依は必死にこらえているのか、少し顔が引きつっている。舞依よりも涙もろいのか莉遠は既に泣いている。

「良かった……もう二度と起きないのかと……」

「そ、そんな大袈裟な」

 自分の身に何が降りかかったのか全然覚えていない浅井だが、何となくそんな事を言う。

「そうそう莉遠ちゃんはオーバーなんだから。人はあれくらいじゃ死なないって」

「あれくらいって……どうして俺は入院しているんだ?」

「覚えてないの?」

 驚いたように莉遠が訊ねてくる。

「うん。まったく」

「誠之は車に撥ねられたんだよ」

 莉遠が小さい子供に諭すように優しく言う。恐らく怪我人への配慮だろう。

 予想が的中した。とすると腹部の傷もその時の傷か。というかあれくらいじゃ人は死なないってそれだと充分死んでもおかしくないと浅井は思った。

「そっか、心配かけて本当にごめん」

「いいのよあんたはそんなにしょんぼりしなくて。あの時と立場が逆になっただけでしょう」

 一年前に舞依は交通事故に巻き込まれた。

夜勤明けなのに浅井のサッカーの試合を見に行く途中のことだ。小さい子供が横断歩道を渡っている時に乗用車が突っ込んできた。舞依はその子供を庇い車に撥ねられてしまった。

 舞依が交通事故に巻き込まれたと聞いた浅井は自分を責めた。自分さえサッカー部に入っていなければと。

 一週間程意識が戻らなく生死の境を彷徨った舞依だったが、一命を取り留めたばかりか奇跡的に回復し後遺症も残らなかった。

 浅井は責任を感じ部活を辞めてしまう。

 舞依の言葉にそのことを思い出してしまい苦笑いをする。

「そうだね、本当に一年前と逆だ……本当に」

 その時。莉遠の肩越しに病室に入って来た優希を浅井は見つける。途端。心臓が意味もなく跳ねる。それも一回ではなく何回も。脈が速まり酷い緊張感に見舞われる。

「やあ。目が覚めたんだね。僕が誰だか分かる?」

「あ、ああ。ユキ……だよな」

「そうだよ。あ、これお土産ね」

 持っていたバナナやらリンゴやらのフルーツ盛り合わせのカゴを浅井ではなく莉遠に手渡すと踵を返す。

「それじゃ。僕はこれで。お大事にね」

 手短に用事を済ませて帰ってしまう優希に薄情者と思う前に、ほっとする自分がいる事に浅井は気づく。

 一体何だと言うのだ。優希が近くにいるだけで不安と言い知れない恐怖に押しつぶされそうになる。どうしたのだろう。優希が何をしたというわけでもないのに。

 いくら悩んでも答えはでるはずもなく時間だけが過ぎていった。

 夕方になると、舞依が帰り七時近くなると莉遠も浅井に促され渋々病室を後にした。

 一人になった浅井は舞依から渡された自分の携帯を使ってまず國御坂に電話を掛ける。五回くらい呼び出し音が鳴った後に繋がる音がするが、

『留守番電話サービスですご用件は……』

 用件を伝える前に通話を切った。

 間が悪かったか。

 確認したいことがあったのだが、別に急いでいる訳じゃないので今すぐじゃなくてもいいかと浅井は思いベットから起き出す。

 病室の窓から外を見下ろすと、意外と高いことに気づく。地上から十階と言ったところか。

 背後でドアが開く音がするが、浅井は窓の外を眺めたままで振り返ろうとはしない。

「交通事故に遭った割には元気そう……ですね」

「敬語を使うなんて珍しいね」

 少なくても初対面の日から今まで一度たりとも聞いた事がない。

「……自分でもそう思うよ。少し気が動転してるからかな」

 振り返ると、困惑した表情を見せる雪夏の姿が映る。表情をみただけでもなにか切迫しているものがあるのかと感じ取れる。

「……」

「どうかしたのか?」

 いつまでも口を開こうとしない雪夏に浅井が訊ねると、何かを決意したように雪夏の見つめてくる視線が変化した。

「あたしたち。血の繋がった兄妹なんだって……お兄……ちゃん」

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