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第11話「暗躍する者達・後編」

 今日の朝。高宮は電話越しに言った。浅井誠之の事について知っていることを教えてほしいと。何故高宮が浅井の事を調べているのか、優希は知りたいとも思わないが疑問には思う。 

 浅井誠之の経歴を見ても普通としか言いようがない。公立の小学校。私立だが裏社会とは何ら関係のないグループが経営する青ヶ島学園。ただ一つだけ気がかりなのが、出生がはっきりしていない事だけだ。

 五歳の時に浅井孝太郎あさいこうたろうの養子として手続きされる以前のデータはどこを調べても出てこない。しかし、それは今の日本では珍しくもない。

 だとすれば高宮が本当に調べたいのは、浅井誠之ではなく。その姉。神菜舞依の方か。

 十歳の時に浅井と同じ里親。浅井孝太郎に養女として迎え入れられ、公立の中学。公立の高校を経て、警察に就職した後に浅井誠之を引き取ってこの土地に引っ越して来た。

 近年稀に見る逸材らしく警察学校時代の成績は男女混合でトップ。警視庁主催で行われる剣道、柔道、空手、総合逮捕術。全てにおいて優勝している。

 一年前に交通事故に巻き込まれたのをきっかけに警察を辞め。現在は自宅に近い場所で喫茶店を経営している。

 神菜舞依の経歴にも何ら不自然な点はない。浅井誠之と神菜舞依が同じ里親に同じ時期に引き取られたのも偶然と言えばそれまでだ。

「女の子が怖い顔して物事を考えるんじゃありません」

 横にいる舞依が頬を指でつつく。

「……僕は男ですよ」

 舞依の顔を見ないように、優希は不機嫌を装って言う。舞依の顔を見ないのは、面と向かって話をすると、考えていること全てを見透かされているんじゃないかと錯覚に陥るからだ。

 ガラスでできたイルカの置物を手に取る。

「どうして僕たちは土産物を選んでいるんですかね」

「誠之達がお土産物を選んでいるからよ」

「ああ……そうですね」

 イルカの置物を見ながら目だけで十一時方向を見る。そこには楽しそうに莉遠と土産物を選んでいる浅井の姿があった。

「盗聴器でも仕込んでおけば良かったかしら」

「……舞依さんは浅井のお姉さんですよね?」

「姉だからこそ可愛い弟の動向を知る必要があるのよ」

 家族の間にもプライバシーの権利って通用するんだっけと優希が浅井を眺めながら考えていると舞依が優希の手からイルカの置物をそっと取る。

「プライバシーの侵害とか思ってるでしょ?」

 図星と言われれば図星としか言いようがない。

「家族間の問題ですから、別にいいんじゃないですか」

 優希は驚いた様子もなく前もって用意していた言葉を言う。

「分かっているのなら家族間の問題にあまり首を突っ込まないことね」

 無理矢理この水族館に連れて来て、女装までさせてそれはないだろうと優希は思う。そんな優希の気配を察したのか舞依は付け加える。

「今日の事じゃないのよ。私と誠之の過去の経歴を調べてたでしょう?」

 心臓を鷲掴みされるくらい優希は驚く。しかし、表情には微塵も出さない。どうして知られているのか、ミスをしたのかは後で考えれば良い。今は笑顔でやり過ごさなければ。

「僕がですか? まさかそんな事出来るはずが無いじゃないですか」

 うまく笑えたと思う。

「とぼけても無駄よ。莉遠の現当主があの子じゃ若すぎるとは思わないかしら?」

 そういうことか。

 優希は笑顔を崩し、今度こそ舞依を正面から見据える。

「何時から気づいていたんですか?」

「こそこそと何か嗅ぎまわっているなぁと気づいたのは一年前。あなたが黒影こくえいだと気づいたのは今年の春休み中。誠之と親しかったから、先手を打って莉遠に誠之を護らせる為に入学させたけど……」

 小さく舞依は笑う。それは聞いていて心地よい笑い方だった。

「どうやら、私の取り越し苦労だったようね。今はもう黒影とは関係ないって聞いたわよ」

「ええ……まぁ。便宜上は脱走者もしくは裏切り者扱いされています」

「随分余裕なのね。あの黒影が裏切り者を許すほど寛容とは思えない。優希君さえ良ければの話だけど。莉遠に来ない? 仕事の方も優希君なら適任だと思うよ」

 命を奪う黒影から命を護る莉遠。確かにどちらの為に力を振るうと聞かれれば莉遠の考え方に賛同する。しかし、裏社会から抜け出したくて黒影を裏切ったのに、莉遠に行くのはまた裏社会に戻ることになってしまう。それでは元の木阿弥ではないか。

「僕はもう闇に包まれた世界とは関わりを持ちたくないんです」

「君一人で悠緋ちゃんを護れるの? 私達と一緒に来ればあの娘の身の安全は約束するわよ」

「何があっても悠緋だけは僕が護り抜きます。たとえ何を犠牲にしたとしても」

 少し喋り過ぎじゃないのかと思ったが、何故か舞依には話しても大丈夫だと感じる。これが人徳なのだろうか。

「やば。気付かれた」

 今までの会話の流れを見事に断ち切った舞依は優希に身を隠すように指示をする。

 慌てて物影に隠れた優希は浅井と莉遠の姿を探す。

「あそこ二階に行こうとしている」

 舞依が指差した方向を見ると浅井が莉遠に引っ張られているのが見えた。二階に行ってどうするつもりだ。

「追いますか?」

「う〜ん。莉遠に気づかれたっぽいけど……行ってみましょうか」

 充分な距離を保ちながら尾行を開始する。

 浅井と莉遠の二人はバルコニーに出るが、食事でもするつもりなのだろうか。

 突然莉遠が浅井の手を引っ張って落下防止の柵の目の前まで連れて行くと、

「あっ」

 舞依と同時に優希が声を出し。二人の声が重なった。

 浅井が莉遠に投げ飛ばされ、落下防止の柵を軽々越えて下へと落下していき、莉遠は自分から飛び降りた。

「あの子なんて強引な手を。確かに少しでも異変を感じたら強行手段をとってでも誠之を護れと指示をだしだけど」

「てか、莉遠はともかく。二階から落ちたら浅井がただではすまないような気がしますが」

 優希と舞依は互いに顔を見合わせ、ほぼ同時に救急車の三文字が頭の中に浮かび上がった。

「高宮君に連絡!」


長らくご無沙汰をしていました作者です。今回も説明不足の会話+単語が出てきましたが、どうかご容赦下さい。

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