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Human×Demonic  作者: 瀬乃そそぎ
序章 子の幸せを願う母の指先 Hope_of_Ice
2/12

とある少年のモノローグⅱ

 ※ 時系列 #2 ※




 魔性大陸の夜は暗い。常時空を覆う黒い雲は月の光をほとんど遮断しているため、地上に届く明かりは僅かしかないのだ。大体の者は夜の間は移動しないか、魔術による光を用いて視界を得る。


 ――それは、セルディアが人族と魔族の戦争の渦中に飛び込む前。決戦前夜の出来事だった。


 既に家族の元を離れた彼等は最前線までやって来ていた。明日には、間違いなく人族の部隊と戦う事になる。


 もしかすれば最後になるかもしれない夜だ。たまたま見つけた洞窟の中で火を起こし、万が一見つからない様に隠蔽系統の術式【隠遁の界】(ヒドゥンネスト)で洞窟への認識を遮断した。あまり得意ではない術式なため看破される可能性は高く不安だが、無いよりはマシである。


 そんな感じで暖を取り、仮眠を取っていると、セルディアは不意によからぬ考えを思いつく。


 ずばり、死地へ赴く前に、一度くらいエストリカの豊満な胸を揉んでおきたい!! と――。


 隣を見れば、口から涎を垂らして無防備に眠る美少女の姿がある。いや、実際のところ、美少女と表現するにはいささか容姿が大人びすぎているのだが、それはこの際置いておこう。白地の衣服をはだけさせ、大きな胸を強調させるように眠る【大精霊エストリカ】。だらしない表情で眠る彼女からは、威厳もへったくれも感じられない。もっとも、普段から威厳なんてこれっぽっちも感じられない振る舞いをしている訳だが。


 それはともかく。


「……(ごくり)」


 音を立てて喉を鳴らす。


 いつもは考えないようにしていた。例えエストリカが扇情的な格好で目の前に現れようとも、何かの拍子に大きな胸がたゆたゆと揺れようとも、ハプニングで局部がチラりと見えようとも。何も無かったと気にしないようにしてきた。


 どストレートな言い方だが、セルディア=レイアサルトは変態である。

 綺麗な女性を見かけるとすぐに胸や尻に目を走らせ、光らせ、笑う。特技はスリーサイズ目測。


 そんな彼でも、エストリカにはそんな視線を向けずにいた。ずっと一緒だったし、これからもずっと一緒にいるつもりの彼女との関係に亀裂を入れたくなかったからだ。


 ――まあ、エストリカが怒るとは思えなかったが、念の為。


(い、いやぁ、エストの胸が揺れるたびに、触ってみたいなあと思っていたんだよね)


 無意識に手をわきわきさせながら心の中で呟く。


(だってさぁ!? いくらずっと一緒にいるからって、俺に対して危機感無さ過ぎるんだよ!! 自分で言うのもアレだけれど、俺が変態だって事はエストが一番知っているはずなのにさ!!)


 そう、普段女性にだらしない視線を向けているセルディアにツッコミを入れるのは、エストリカの役目なのだ。もっとも、怒っている様子は無くむしろ呆れているくらいだが。


(……きっと、防戦一方の魔族サイドにつけば俺も無事でいられるかは分からない。勿論、死ぬつもりは毛頭無いけれど、気力だけでどうにかできる問題じゃあない。なら、どうだろう。少しぐらい、幸せな目にあってもいいのではないだろうか?)


 もはや誰に言い訳をしているのか分からないが、声には出さずに捲くし立てた。そんなくだらない事をしている間に、もう良くね? と思考が傾いていく。


 だってエストリカ寝てるし。爆睡してるし。周囲の索敵とか全部セルディアに任せてほったらかしにしているし。


 この凶悪なまでのでっかい胸をちょっと弄くったぐらいじゃ起きないだろう。今まで何年も一緒に過ごしてきたセルディアだから分かる。経験則だ。

 エストリカは、今なら、何をされても、起きない。


 ――だったら、ちょっとくらい報われてもいいじゃん。


(だ、第一これだけ深い眠りについていれば、ちょっと触ったくらいでバレないだろうし! 触ったところで減るようなものじゃない寧ろ大きくなるかもだし!?)


 問題ないだろう。

 そんな、巨乳を前にした投げやり――思考放棄とも言う――を繰り出す。

 もう、止まらない。


「……行くぞ」


 決意の言葉を告げ、彼は仰向けでも崩れないたわわな胸へと手を伸ばした。

 その時だった。


「ん、うんー、んん」


「ひえッ!?」


 むにゃむにゃと声を出すエストリカの手が、胸へ向けられたセルディアの手を掴み取り、己の方へと引っ張る。立ち膝状態だったセルディアは勢いのまま倒れこんだ。頭に覚えるのは柔らかい感触――と猛烈な痛み。


「あばばばばっ!!!?」


 ヘッドロック。眠ったままのエストリカから繰り出されたプロレス技が、こめかみを絞め上げる。痛みと柔からさ。圧倒的に前者が勝るこの状況で、セルディアの意識はあまりの痛みに暗転した。




 ※ 時系列 #4 ※




 結果から言えば、セルディアは『勇者』の足止め程度の役割しか果たせなかった。終わった後になって思い返せば、あまりに無謀な挑戦だったと思う。

 【七つの神器】の内の一つ、【断濁の宝剣(クロスグラッジ)】に選ばれし人族の勇者。加えて、魔族の王を倒す為に勇者と共に行動する最先鋭のパーティメンバー三人。


 一流の『術法』を操る魔術師と、高位の『癒術』を司る治癒術師。そして、『術援』を用いて強化された『法剣』を駆使し敵を薙ぎ払う剣士。

 隙の無い構成で組み上げられたパーティ相手に、セルディアは一人で挑んだのだ。


「……ま、まあ、もとより勝つ事が出来るとは思ってなかったけれどね」


《あくまで、少しでも疲弊させる事と足止め。最終的には魔王に任せるつもりだったんでしょ? その割にはいささか張り切りすぎてた気もするけど》


「ちょっと【断濁の宝剣(クロスグラッジ)】折れてくれないかなあとか思っていた……」


《それは傲慢すぎー》


 呆れた調子で言うエストリカと、その言葉に苦笑するセルディア。

 軽口を叩いてはいるが、現在セルディアは満身創痍のボロボロである。ちょっとでも気を抜けば、そのまま意識を失うレベルには疲弊していた。


 額に生えた角は半ばから折れ、着ていたコートはあちこちが破けている。中でも無傷なのは、腰に差してある二振りの短剣くらいだった。


 絶賛敗戦逃亡中。

 勿論、成果が全く無かった訳ではない。相手の魔術師に大ダメージを与えられたので、治癒術師に治療されている間に逃げ出す事が出来たのだ。積極的に追い回され、索敵の術法まで使われていれば逃げ切れなかっただろう。


「うっ……」


《大丈夫?》


 エストリカは呻き声を上げるセルディアを見かねて実体化。フラつく彼に肩を貸して支える。

 小さな声で「ありがとう」とお礼をした後で、ボロボロの少年は言う。


「お願いだ、魔王さん、なんとか生き残って……」


「ディアはこんな時でも他人の心配するんだもん。魔術師の杖を破壊する事が出来たんだから、相手はかなりの損失だと思うよ。火力的に」


「でもあの治癒術師がいる限り、本当の意味でのダメージは与えられない……」


 冗談交じりで【断濁の宝剣(クロスグラッジ)】の破壊目標を告げたセルディアだったが、戦闘時の指針は別に合った。

 真っ先に狙ったのは治癒術師。あの女性さえ戦闘不能に陥れれば、残る相手は消耗一方。勝機があったかもしれないが、そう簡単にいくはずもなく。


 勇者の持つ【断濁の宝剣(クロスグラッジ)】に角を叩き折られ、並みのものとは比べ物にならない威力を持つ術法の猛攻に襲われ、それでも何とか損失を与えて逃亡したのだ。

 単独で四人に挑み、魔術師の術力を大幅に補強する『攻為法具(アーティファクト)』を破壊した彼の功績は大きい。


「……あれ?」


 肩を貸してもらいゆっくりと歩くセルディアは、前方で見知った人影を見つけて小さく声を出した。

 それは、高位魔術師であり、魔族の男に恋をした忌み人であり、彼の母親の姿だった。

 セルリア=レイアサルト。

 銀色の髪に青い瞳をたたえた彼女は、満身創痍のセルディアを見て悲しげな笑みを浮かべた。


「よく帰ってきたわね……セルディア」


「かあ、さん……? どうしてこんなところに?」

 

 至極全うな疑問。

 彼女は戦争の影響が及ばない僻地にいたはずなのに、こんないつ敵が現れて攻撃されるか分からない場所まで来ているのだから。

 セルディアの質問に対してセルリアは瞑目し、口を開く。


「ボロボロね。大丈夫? 貴方の目的は果たす事ができた?」


「……まあ、完璧に、とは言えないけれど。――最低目標の【狂者】は倒してきたよ」


 一瞬眉を顰めたセルディアだったが、すぐにそう答えた。

 【狂者】。それが、一〇〇人の部下を連れ、彼と激突した男の異名だった。


「そう。あの【狂者】が最低目標なんだもの。セルディアは欲張りよね」


「耳に痛い言葉はエストのだけでお腹一杯だ、母さん」


 セルリアを心配させないようにするためか、彼の声音は明るい。だが、セルディアの心の内が暗く沈んでいる事をエストリカは知っていた。


 普段から彼に憑依し、内心を読むことが出来る彼女は知っている。彼にとって、人を殺すという行為がどれだけ重たい事だったのか。例え対象が『命を殺す事に悦を覚えるような最低な人間』だったとしても、その重みは変わらない。


 心を殺し、絶叫を無視し、目をそらす。

 体の半分を構成する青い鬼の血に意識をゆだね、武器を振るう。


 だからエストリカは問う。

 あたしも戦おうか? あたしがやろうか?

 それはセルディアの心が折れないように、そして、いつ折れても支えて上げられるようにするための言葉だった。


 俯きがちの彼を見て、エストリカは話題を変えるべくセルリアに尋ねた。


「セルリアはなんでここに?」


 彼女の問いに、セルディアもゆっくり顔を上げた。

 青い瞳には、エストリカと同じ疑問の色が浮かんでいる。


「……、」


 一泊置いて、セルリアは告げた。


「貴方を迎えに来たのよ、セルディア」


「……? それって、一体どういう事?」


 どうしてわざわざ。そんな言葉が口から出る前に彼女は告げる。


「私の勝手な行動に貴方は怒るかもしれない。私の事を恨むかもしれない」


「ちょ、っと? 母さん、何を言っているんだ?」


「ごめんね。それでも私は、貴方に、幸せに生きて欲しいんだと思うから」


 まるでそれは、別れの言葉のようだった。

 セルリアの瞳に迷いはない。さっきまでの、悲しげな笑みはもうない。どこまでも澄んだ青色の瞳に、揺らぎない決意を浮かべていた。

 別れ、一生会えなくなるかもしれない悲しみよりも、心からセルディアの幸せを願い。

 胸元で人差し指を立てた彼女は言う。


「今までありがとう、セルディア。あなたのことが、大好きよ」


 直後、セルリアの人差し指の先に現れた黒い靄を見たセルディアは、一瞬で意識を失った。


エピソード二つとも気を失うオチっていう。

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