前編
一目惚れみたいな感じだった。
オレは中古屋で見つけたそのベースに惹かれてしまった。
きっかけは軽音楽部だった友達がドラムをやっていたから。
そいつ曰く
「バンドってのはドラムとベースがしっかりしてないと成り立たないんだ。だから楽器覚えるならギターよりベースやった方が為になるよ。」
という持論を持っていた。
だから音楽が好きだけど楽器が何も出来なかったオレはやってみようと決意した。
早速仕事の帰りに買ってみようと思い、近くの中古屋に足を運んだら〝彼女”に出会った。
3,4万の奴が1.3万だった。嬉しい買い物だった。
帰ってから触ってみる。
わからない!
どこをどう握ってどう弾けば良いのかすらわからない!
メジャーコード? C? ピック? ツーフィンガー?!!
最初はそんなもんだった。
それでもオレは弾けるようになりたかった!
悪戦苦闘しながら1週間が経過した。
その日、ありえない事が起こった!
「おかえり!ド下手野郎!」
家に帰ったら女の子がいた!
意味が分からなかった!!
ウチは一人暮らしだし鍵もオートロックだ!尚且つ同じアパートにこんな年端もいかない女の子なんて住んでない!なんなんだ一体これはあああ!!
と、俺が一人でパ二クッてると女の子が口を開いた。
「あんた鈍いわね!あたしが誰か分かって無い様ね!あたしは〝ひさ子”!!あんたが買ったベースに憑りついてる霊よ!」
オレは驚愕した!!!
パ二クッた脳をフル稼働して思いついた答えがかき消されてしまった!
「べ、ベースが化けたんじゃないんかいいいいいい…!?」
裏切られた。
オレの年中お花畑な脳みそが算出した答えはベースがついに擬人化したのだという結論だったのだ!
「はぁ?!キモ!!そんなわけないでしょうが!頭わいてんじゃないのあんた!!」
「ふざけんな!!今のご時世そう思うのが普通じゃろがいっ?!!なに幽霊って?!そんな在り来たりな
事逆に思わねえよ普通!!」
完全な俺の逆切れだった。今思うと恥ずかしくて死にそうだ!
だって普通こんなファンタジーな事考えないだろう。
常人ならまず不法侵入とか、とりあえず警察やらに連絡しようと思うはずだ!
「うわマジキモい!逆切れとかまじありえないんですけど!しかも支離滅裂だし意味わかんない!!」
ごもっともだ。俺は何も言えなくなった。
「…ふん!ようやく自覚したようね♪反省なさい!この蛆虫!!」
一言二言余計だ…!と言いたかったが多分ラチが明かないのでスルーすることにした。
「…それで、あんたは何しに現れたんだ?」
俺は本題に入った。
そうだ!この一週間は全く普通のベースだったのになぜ急に今現れたのかが一番の問題だ!
ひさ子は答えた。
「成仏できないからよ!あたしは元々このベースの持ち主だったんだけどライブ直前に事故で死んだの!
その時に無念が残っちゃって一番思い入れのあったこのベースに魂が縛られちゃったのよ!親や友達は多分思い出すのが辛かったみたいで結局売り払われちゃった。それで流れ流れてあそこの中古屋に売られてたの。」
そういうと少し悲しそうな顔をみせた。
「だから誰かにこの子…あ、ベス子っていうんだけど、ベス子と一緒にいい音奏でてくれれば多分成仏できるはずなの!…それなのにあんたはホント下手くそで…!」
ひさ子は悔しそうに拳を握っていた。
なるほどこの攻撃的な性格はバンドガールだからってのもあるのか。
それに熱意も本物らしい。
「じゃあどうしたらいいんだよ俺は…?」
そういうとひさ子は待ってましたと言わんばかりの表情でこう答えた。
「あたしが教えるわ!それであんたがうまくなって成仏させてよ!」
こうしてひさ子とベス子の珍妙なレッスンが始まった。
続く