第三十七話 - 捕虜管理施設B棟
ここ、極東大陸に位置する明之州はブレシア帝国との戦線がある州だ。
もちろん、帝国との戦線に接する州は他にもある。ただ、明之州は地形上の問題で帝国による侵攻を最も酷く受けていた。
ビローシス連合国による公式記録によると、魔法陣営国家らが 文明境界線 を突破した日。彼らは”こちら側”で人間が活動しているとは考えもしなかった。当初は慎重に科学陣営国家に暮らす人々と接触を試みようとしたが、いざそこに住む人々すべてが無能者であると知った途端に態度も打って変わったそうだ。
当時、科学陣営は幾つもの国に分かれて戦争状態にあった。
主に東陣営と西陣営による様々な対立──人種差別、思想対立、統治体制の違いなど──によって互いに戦力を削り合っていた。
しかし、そこで介入したブレシア帝国とその衛星国らによって科学陣営国家らは一気に追い込まれる。なにせ向こうは、こちらを対等な交渉相手とは全く思ってなければ、思想も概念もこちらとは根本から違っていたのだ。
また、運が悪いことに科学陣営側の土地は魔導石が非常に豊富だ。
それも原因となり、魔法陣営側による植民地化支配は一層と強まる。
結局、科学陣営全滅の一歩手前で大部分の国が「州」として生まれ変わり、一つの国としてビローシス連合国になった。もちろん、連合に参加しなかった国もあれば、参加する前に侵略によって滅亡した国もある。
いずれにせよ、科学陣営はブレシア帝国を中心とした魔法陣営には”恨み”しかない。魔法という単語でさえ嫌悪感を示すようになる。
それは過去のブレシア帝国による下劣な所業を聞けば、致し方ないことである。
しかし、なぜ俺がこんな歴史の授業みたいなことを考えだしたのかというと──
「おぉ……魔法少女を攻略したぞ……!」
「おめでとうございます、はい……」
そう、魔法陣営への報復と自由の奪還。それらが原点となって生まれた ビローシス連合国の少将でもある、ミスター・曹。
彼はよくわからんが、ここ数日は魔法少女もののギャルゲ(または恋愛シミュレーションゲーム)に浸かっていた。もちろん書類検査のような雑用は俺に全て任せ、なにかギャルゲで困った部分があったら俺に聞く。そんなところだ。
問題はこの男。
連合軍の少将でもあるこの男だが、きっと率いる兵士たちもきっと師団規模の数だろう。最低でも二千……多ければ一万の兵がいてもおかしくない身分だ。
なのになんだこいつ……。
「まったく、こんな高クオリティーなギャルゲが若い頃からあったらどんなに素晴らしかったか……」
「それだと曹少将、ハマりまくって集中力低下で戦死しますね。きっと」
曹少将のため息にも似た本音に俺はピシャリと答える。
ここ数日間、彼の下で時間を過ごすうちに曹少将のキャラが段々と分かってきた。
まず、彼は見た目こそは三国志風の英雄だが心は夢見る少年のままだということ。
次に心の器はデカイそうなので、かなりの毒舌言っても気にされないこと。
ただ、自分のお気に入りのゲームを貶されると怖い顔をするので要注意。
こんなところだ。
もう威厳もクソもねぇよ……。
「いいや、私はこう見えても昔からオンオフの切り替えのできる男だ。仕事中はそんなこと考えはしまい」
「今あんたの書類仕事してんの誰だよ!?!?」
そう叫ぶと自分の簡易デスクの上に置かれた山積みの書類を叩く。
もうずっと、雑用の手伝いするか、ギャルゲの攻略法を伝授するかしかしてない。
自分が軍属である自覚でさえ日々薄れゆく気がして、もうこの人生これで終わるんじゃないか?と思ってしまう。
「私の仕事は飛び抜けて優れた人材を見つけ、管理し、いかに自分自身はサボれるような環境を作ることに限る。君は幸運な事にその人材のうちの一人に選ばれた、ということのだけじゃないか」
「俺ってなんの人材ですかね?」
「ゲーム攻略と雑用処理」
「ですよね! ゲーム攻略とか既に職務関係ないし!?」
そりゃまぁ、ゲームを一緒にしたり助けたり、その他の時間は雑用処理ってのはかなり快適だ。それで給料も通常の額で出るのに、戦場にも行かなくていいしな。
でもこれじゃまるで、俺が寄生虫みたいじゃないか……。税金泥棒じゃないか……。
「でも君の雑用処理のスピードは本当に素晴らしい。頑張り続けたまえ」
「もう今日の分は終わりましたけどね」
最後の書類を終わらせ、デスクトップコンピューターに向かってドヤ顔でレポートを送信する俺。曹少将は「ほう、はやいな」と言うと、足をデスクから下ろして携帯端末でスケジュールを確認し始める。
「ならばそろそろ新しい仕事も君には覚えてもらおうか、レイン・サイフラ君」
「……あの、仕事とかそんなに俺に教えて大丈夫なんですか?」
「どういうことだ?」
ギャルゲ大好きな曹少将だが、彼は彼なりに組織への貢献を誰よりも考えている。
彼は様々な人間にそれぞれ最も適した仕事を選び、与える。
だから曹少将の運営するいかなる組織も常に非常に高い効率で動くのだ。
それが彼を少将という地位にまでさせたのかもしれない。
でも、俺の場合は状況は違う。
俺は士官候補生という名の無階級兵士だ。ただ一生学部に縛り付けられるような身分の俺に仕事を与えて問題は起きないのだろうか?
「俺ってほら……情報整理学部にはつまり”島流し”されている身ですよね?」
「それは問題ない。君に能力があると私が見たから、それを使うのだ。それに君は自分が島流しにされている理由が分かっていないようだな?」
曹少将は腕を組むと、たくましい顔つきで俺を見下げる。
俺はもちろん「わからないですね」と答えるるが、曹少将はそれを聞くと頭を横に振りながらこう言う。
「まず一つ、君はまだ信用されていないのだろう。なにせ敵国から帰国したばかりだ。それにもう一つ、君を士官候補生として出来るだけ本国に縛り付けたい。また捕虜になったら大恥を掻くのは軍部だ」
「な、なるほど……」
さすが少将クラス……なんだかとても回答が鋭いし、説得力もある。
彼の言うことを聞くと、もう今までのモヤモヤが一気に消えたようだった。
もちろん軍の対応に納得したわけではないが、少なくとも島流しにされた理由はわかったのだ。大きな一歩である。
「ハハハ! 君に欠けた才能は政治だな。さて、そんな敵国から帰ったばかりのお前さんに合いそうな仕事がある」
「なんですか? それ」
曹少将は顎を小さく引くと、顔に影を作る。
そして口を開けば、皮肉そうな顔でこう言った。
「──捕虜の管理だ」
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とある建造物の中の一室。
そこに設置されたディスプレイ・モニターには数えきれないほどの人名と顔写真が共に羅列されていた。
「どうだ、これは皮肉だろう? 捕虜の身であった君が、今度は捕虜を管理する側になるのだ。私ならこのシチュエーションだけで小説一本書けそうだ」
「こいつら全員捕虜ですか……」
明之州龍華基地、捕虜管理施設B棟。
曹少将の管轄下にある棟だ。さすが前線基地というべきなのか、俺が昔いたアリシア大陸の基地たちとは比べ物にならないほど大勢の捕虜がいた。
きっと、ここで捕虜の情報的価値──いわゆる”値踏み”をされてから価値に応じて別の管理施設に送られているのだろう。
「私は捕虜に対してはまだ生ぬるい方なんだ。だから私の管轄する棟にも、ある程度の暴力は自重をしろと命令をしている。ただ、やはり過度な暴力は止まらないものでね。だから、君にある程度のバランスをとってほしい」
「俺がですか……」
「そうだ。捕虜に対する暴行や虐待に関して、私は別に無理矢理止めたりなどはしない。ただ、限度が過ぎて捕虜が使い物にならなくなることもあるから、それだけは止めて欲しい。できるか?」
捕虜に対する暴行や虐待を「止めろ」ではなく、死なせるな。という要求をみると。曹少将もなかなか現実主義的な軍人だ。実際、捕虜が暴行を受けるのは仕方がないことだろう。
ブレシア帝国にいた時は、俺もアイリスの保護下にありながら襲撃受けまくったし……。
「では、俺は普通に捕虜を管理したり、他の監視官の指導をすればいいと?」
「その通りだ。私からの委任職務ということで、ここでの権限は私と同等にするが……まずは君の働きを見よう。そうしたらこの仕事を任せるか正式に考える」
「はっ! ありがとうございます!」
これって上手くいけば、この棟を丸ごと俺に任せられるってことだよな!?
肩書きは無階級でカッコ悪いけど、実質的な権限はかなり与えられる。
これ以上な昇進は普通じゃありえない。
つくづくコネの恐ろしさを感じながらも、曹少将に敬礼をする。
「では、早速始めてもらおう。まずは監視官達への挨拶を兼ねて、この棟の環境を理解してもらう。この腕章をしていれば、彼らも君の指示に従うだろう」
曹少将は赤い腕章を内ポケットから取り出すと、それを俺に手渡す。
腕章には《B棟 委任責任者》と記され、いかにもそれっぽい感じだ。
少将によると、捕虜管理施設内にいる時はその腕章を常に身につけろだそうだ。
俺が腕章をムフフとした顔で眺めていると、曹少将は少し思ったように口を開く。
「ただし、忠告はしておく。ここは敵兵士を国民の血税で心豊かに住まわせる場所ではない。情はあってもいいが、決して甘くなるな。組織にもたらす利益を優先して追求するんだ」
「でも捕虜は死なせるな、と?」
「捕虜が死ねば、情報も死ぬ。それは組織にとっても不都合なはずではないかね?」
「そうですね、了解しました。では、B棟を回ってきます」
そう言って、腕章を腕に着けると曹少将に敬礼をビシっと決める。
彼が頷くのを確認した後に、部屋を後にしてエレベーターに乗り込んだ。
シールリングに地図を表示させ、B棟への道のりを示させる。
「ここから先がB棟か……捕虜管理施設ってのはメンタル的にもキツそうだよなぁ」
《ユーザーの捕虜経験が活かせる、と当AIは判断しておりますが》
俺の言葉にシールリングは疑問符を浮かべてそうな声で応じる。
たしかにそうだよな、とシールリングに返すとエレベーターも目的の階層にたどり着いて扉が開かれた。
『龍華基地 捕虜管理施設B棟です。前方のセキュリティーゲートへお進みください』
スピーカーからどことなく聞こえたアナウンスに従い、前方へと進んでいく。
目の先には大きく厳重なゲートがある。ゲートは緑色で塗りつぶされ、その上に赤茶色で「B」とあった。
もちろん、ゲートの前は自動射撃の機銃や監視カメラ。それに様々な検知器や重武装な兵士が何名も監視に当っていた。
「委任責任者のレイン・サイフラ士官候補生でしょうか? 連絡を先ほど受けています」
俺がゲートのすぐ前まで近づくと、立っていた兵士たちは敬礼をしてくる。
なんだかこういう風に敬礼されたのは初めてかもしれないので、感動しながらも俺も敬礼を返す。
「曹少将からの委任を受け、B棟の管理を自分がする。今日は見回りとご挨拶だけだが、よろしくお願いします」
組織とは人の支持なければ動かないものだ。
これも同様で、いくら俺が委任責任者という地位を今は持っているかといって ここにいる監視官達に酷く嫌われようなら……きっと俺の仕事も上手く行かなくなる。
だから威張ってはならない。謙虚に、彼らを持ち上げるような態度で最初は入らないといけない。ちなみに会社経営の本で昔得た知識だ。
「ではこちらに指紋、網膜、声紋、それと骨格の登録を行います」
「あぁ、自分はノイズシリーズの人間なんでシールリングに全て情報が入っているはずだな。そこから抜き取ってくれ」
どうやら同じ味方であっても、捕虜管理施設へのアクセスは一部の許可ある人間のみに限定されるようだ。だからこうした、本人確認のための情報を登録しておく必要があるんだろう。
しかし俺が左腕を差し出してシールリングを見せると、兵士は怪訝そうな顔をする。
「ノイズ・シリーズ……でしたか」
「何か問題が?」
「いや、ありがとうございます」
このあからさまな「うわっ生体兵器やんけ」みたいな態度にムカッとしながらも、仕方ないとは思う。なにせ生体兵器は犯罪者や貧困層の人間がほとんどなのだ。イメージからして、まず良いものがない。
本人情報の登録を済ませる。これでこれからは、この棟に入りやすくなるだろう。
兵士たちに再度、感謝をしておくと開かれたゲートの中へと入る。
「ここが捕虜管理施設……」
施設内から感じた第一印象。それは薄暗くて、気味が悪いということだ。
棟は階層が螺旋状になっており、その真ん中にある監視棟は色々と殺伐とした雰囲気だ。
捕虜を収容しているこの棟は非常に高く、延々と上に伸びている螺旋は圧巻だ。
それもこれも、この施設が地下深くから地上へと向かっているからだろう。
《ここの管理施設は上に行くほど重要度の高い捕虜がいます。最下層にいる捕虜たちはまだ情報的価値が判明していない者達です》
「なるほど……じゃあ、こいつらはまだ価値がわからないのか」
そう言うと、横目に鉄格子の中にいるブレシアの兵士たちを見る。
彼らは両手両足を縛られた状態で床に座らせられ、魔導石はもちろんだが全ての武器は取り上げられている。服装はオレンジ色の囚人服のみで、貧素なものだ。
どいつもこいつもボロボロで、中には瀕死なのかヨダレを垂らしながらピクリとも動かない人間もいた。
「環境はあまり良いとはいえないな……」
ともかく、近くに配置されていた二輪モーターに立つとそれに乗って階層を上がり始める。施設内部が螺旋状とはいえども、別に捕虜のいる部屋などが傾いているわけではない。階層を一段上がるには、階段や急なスロープを使って上がる必要があるのだ。
だからスロープが簡単に上がれる、二輪モーターなんだろうな。
移動も速いし。
捕虜の状態はあまり良好でなかった。
傷は誰にも見られ、かなりエグい状態の人間もいる。
悲惨なのは女性捕虜だ。顔が悪くないようであれば、恐らくかなり酷いことをされているはずだ。証拠に着ている囚人服が破れていたりする。
ムチで打たれたくらいじゃ、囚人服は破れるのではなく裂けるだけだからな。
「懲罰房や尋問室はさらにやばいことになってそうな気がするけど……さてどうするか……」
《今回の見回りはまだ、そこまで深入りしなくても問題ないと判断します。まずは監視官たちの捕虜への態度や思想を見ていくべきかと進言します》
「だな、あとどっかの捕虜と話せたら良いけど」
ところでこの施設は階層が上がるに連れて、鉄格子から、鉄のプレートの填められた扉、そしてさらに上に行くと分厚いセキュリティードア……と強化されていっている。
恐らく、魔導石を取り上げてもある程度の魔法が使える捕虜がいたりするからだろう。そういった輩も厳重に管理するということか。
「しっかし、ここがまだ生ぬるい方らしいからな。本当に酷いところはどうなってんだろ」
《監視官への採用は人格テストによって振り分けられます。主に冷徹で情に流されにくい人間が採用されますので当然の結果であるとも言えます》
「言っとくけど俺はピュアボーイだからな、シールリング」
途中、何人もの監視官とすれ違ったが彼らは俺の腕章を見るとすぐに敬礼をする。
しかしそれをし終えると、仲間と一緒に捕虜を刺激したり笑ったりと散々だ。
最上階付近まで来ると、大体の環境も理解できたので次に懲罰房のあるエリアに行く。
しかしそのエリアに入るや否、すぐに目の前に腕が伸びてきて止められる。
「誰だ貴様! ここはッ……失礼しました。管理官とは知らずに」
「いえ、挨拶が遅れたこちらこそ申し訳ない。こちらが懲罰房かな?」
「はっ、そうです。反抗的な態度が多い捕虜はこちらのエリアに収監しています」
俺は二輪モーターから降りると、ちょっと気取って「ふむ……」と言いながら奥へと進む。通路を挟むように二つの扉が対になっており、それが延々と奥へと続いていた。もちろん、扉の奥は懲罰房だろう。
そのうちの一つの懲罰房の扉に取り付けられたディスプレイに目が行く。
【グレイムソン・ゴルレオ 6日目】
「この捕虜は既に6日もここに?」
「えぇ、あまりにも舐めた口を聞くもんですから懲罰房にブチ込まれてます」
監視官の男は面白そうにニヤリと笑顔を浮かべるが、俺はあまり共感できずに首を傾げてしまう。しかし、懲罰房とはいえども全くエリア内にうめき声やら助けを乞う声がない。やはり防音構造なのか?
「中の環境はどうなっている?」
「ディスプレイから見れるので、見てみましょう」
男はそう言って、扉に備えられたディスプレイに触れると中の状況が映し出された。真っ暗だったが、それが赤外線カメラになると緑色のかかった映像で中の人間が見えるようになった。
「専用の拘束服で身体を完全に動けないようにしています。また、反抗的な態度を取り続ける限りは”エサ”はあまり栄養価のあるものを出さないことにしてます」
「栄養価ってか……これは飯ってよりも生ごみじゃ……」
ディスプレイに映った”エサ”と呼ばれる飯だが、これはどう見ても腐ってそうな形をしている。悪臭もひどそうだ。それでも中の人間は時よりゴロゴロと転げ、反抗の意思を見せている。
「彼の情報的価値は?」
「彼自身は重要な人物ではありませんでしたが、可愛がっていた部下が昇進して軍の中心人物の一人となっています。なので敵軍の内情を探る鍵としては有用かと」
「なるほどね……近いうちに尋問されるか?」
そう聞くと、監視官の男は考えるように腕を組むと目を細める。
しばらくすると何度かうなずいてから俺に答えた。
「今日中に尋問室に移さないといけませんからね。見学したいのですか?」
「あぁ、お願いしたいんだけど」
「わかりました。問題ないと思います」
彼は無線機で監視塔に状況を報告すると、目の前の懲罰房のロックを解除する。
そしてその重たい扉を開くと、真っ暗な部屋に光が差し込んだ。
まるでイモムシみたいに縛られた捕虜の男に近づき、猿ぐつわを外してやる。
「おまえ、反抗のしすぎに良い事はないぞ」
俺がそう彼に言い放つと、捕虜は眩しいのか目を糸のように細めたまま唸る。
そして全身を震わせて叫ぶ。
「黙れ無能者! お前らのような野蛮な劣等人種、すぐにでも俺たちがッ──」
俺が「ワオ、怖い」と思っていると、突然捕虜の頭が床に叩きつけられる。
いきなりの出来事でビックリしたが、隣を見ると先ほどの監視官が無表情で捕虜に蹴りを入れていた。
「てめぇ自分の立場がわかってんのかッ! これ以上言ってみろ! 舌を削ぐぞ!」
靴底の硬い軍用ブーツを履いているというのに容赦なく、捕虜の頭を潰す勢いで蹴りまくる監視官。すぐに俺も「まぁ、ちょっと待て」と言っても、最後にもう一発キツイのを捕虜に入れてから蹴りを止めた。怖すぎ……。
「これからお前は尋問室に行くそうだが、あんまり無謀な反抗はするなよ。お前のためにも」
悔し涙でグチャグチャの捕虜にそう言ってやると、監視官にアイコンタクトをする。いつの間にかに何人もの監視官が懲罰房の前に来ていて、捕虜の運び出しの準備は完璧のようだ。
捕虜管理施設。こりゃ、闇が深そうな場所だ。