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機械じかけの悪魔  作者: キョウカ
CHAPTER UPDATE - 帰還編 -
41/52

第三十六話 - 情報整理学部

「で、その傷が……NSタイプとの戦闘訓練での……」


「レイン……二日ぶりに会えたかと思ったら……」


「俺ちょっと涙出てきたわ……」


 油汚れた基地内食堂の朝食時間で、俺と先輩たちは皆が目尻に涙を溜めながら飯をただただ食していた。まるでNタイプ全員がNSタイプに惨敗したかのようなムードだった。


 ユイナとの戦闘から既に二日が経過──その間、先輩たちとは任務や時間の都合で会えなかった──


 医療班による緊急治療を経たものの、身体の傷は未だに消えず、折れた骨や変形した内臓の治癒にはまだ時間がかかるようだ。

 色々と包帯に巻かれまくっているのに、治癒細胞の蒸気を出すので一定時間過ぎて交換しないとベチョベチョになる。


 んで、先輩たちは慰めなのか知らんが……飯のおかずを俺に少し分けてくれる。

 よく見ると彼らの食べるメニューはどれも自分よりワンランク下のものだった。

 彼らはすでにプロトタイプ契約を打ち切られた、ただの一般兵士の身分。きっと給金も凄く減って贅沢できないんだろうな……。


「ていうか俺たち、レインをメグミに会わせるために送り出したんだぜ? なんで戦闘訓練!? 何がどう繋がって『じゃあユイナと戦ってね』になったんだし」


「しかも対生体兵器の機能もあるんだろう……? NSタイプ」


「やべぇよ……完全に戦後のことまで見据えた設計してるだろ」


 口々に議論する先輩の中。

 リクは俺に薄いバラ肉を一枚分けながら、背中をトントンと叩いてくる。

 ニッと兄貴前みたいな表情で「NSの事は気にすんなよ」と言ってくるが……。

 この人、ユイナの視線で脅されて数秒で退散した張本人なんだよなぁ……。


 ユイナに負けたことは仕方ない、と内心では分かっていた。

 なにせ世代が違うのだ。スペックに根本的な差がある以上、俺にできることは「勝つ」ことではなく「逃げ切る」ことだった。


 だがしかし、やはりプライド的にかなりダメージを受けてるのが現実。

 Nタイプの唯一の成功個体である俺が負けたんだから、要するに先輩たち全員も一緒に負けたようなもんだからだ。


 俺がそんなことを考えながらコップに入った水を飲んでいると、先輩たちの様子がおかしいことに気がつく。全員、手に持ったスプーンをカタカタと震わせ過呼吸気味に「ヒィーヒィー」と息を吐いている。とても兵士には見えない彼らの情けない表情に驚く。


 一体何が見えてるのかと思って、後ろを振り向くと──


「はーい、お兄ちゃん。お疲れ様ですー」


「ユイナさんじゃないですか! どうぞこちらへ、はいどうぞ。プリンどうぞ!!!」


 まさに反射的。

 もう何かを考えるよりも先に立ち上がり、リクが楽しみそうに脇においていたプリンをユイナに差し出す。リクの少ない給料生活の中、きっと数少ない楽しみだったデザートなんだろうが仕方がない。


「おぉ、プリンだ! そういえば、お兄ちゃん強かったよね~」


「いや俺ボロ負けじゃ……」


 嬉しそうにプリンを頬張るユイナ、過呼吸気味の先輩たちと俺を見て泣きそうなリク。

 なんとも言えないテーブルの光景だが、ユイナの言葉に思わず半べそを返す。


「え? お兄ちゃん、最高ポイント出したんだよ? 対NSタイプ戦で」


 ユイナの言葉に俺を含めたNタイプ全員が『まじで!』と声を揃える。

 それに続いてユイナはシールリングからホログラムを映し出す。


「ユイナはNタイプの戦闘データを全部持ってる、でもお兄ちゃんはNSのデータを持ってないでしょ? なのにお兄ちゃんはユイナの予測機能が追いつかないほど変則的な動きを何度も出してたし。それに最後の対生体兵器の機能はズルっぽいもんね~」


 ユイナの賞賛に俺はドヤ顔で顎に手を当てる。

 そして両目をユイナに向けながら爽やかなボイスで語りかける。


「おう、いいぞ。こういうことを聞くの気分がいい」


「あ、でも言っとくけど。あの時、ユイナの出力70%に制限されてからね?」


「調子乗りましたごめんなさい。こちらのデザートもどうぞ」


 あれで70%なの!? 一気に現実へと引き戻され、別の先輩のバニラアイスをユイナに差し出す。たぶん、あとで先輩達に説教されそう。

 しかしそれでも、ユイナは遠慮なくアイスを口に放り込むと嬉しそうに頬を膨らませる。こんな無邪気な顔してるが……こいつマジで最強だからな……。媚は売っとくべきだ、うん。


「じゃあ、私もう行くね。お兄ちゃん、今日は士官学校の講義あるでしょ? なんの学部?」


「えっとたしか、情報整理学部だ」


「どこだろう……じゃあ、また後でね! バイバイ~!」


 俺は顔を引き攣らせながらユイナに別れを告げると、彼女は小走りに食堂隣の通路へ向かった。まるで嵐が去ったようだ……。


「なんか俺たちの存在、完全に無視されたたよな。その他 みたいな扱い……」


 リクがポツリと呟くと同時にNタイプ一同、ため息を吐く。

 どうやらNタイプはどこでも負け組のようだ。そんなところが、俺たちらしいとも言えるが。


「お兄ちゃん……」


 誰かのつぶやきに皆が注目する。

 そして先輩たちはハッと思うと、一斉にガタッと立ち上がった。


「「「なんでお前だけお兄ちゃん!?」」」


「え、今さら!?!?」


 今までサラッと流してたくせに、こいつら全員お兄ちゃんって俺がユイナに呼ばれていたことに違和感を感じなかったのか!? まじで脳筋なんじゃないの!?


「おい、レイン。ちょっと、俺たちのこともそれっぽく呼んでみろ」


「はっ!? いきなりなんですか、気持ち悪い!」


「いいから呼べよ、どんな感じか知りたい」


 突然の要望に困惑するが、前線の戦闘と訓練で鍛え上げられた筋肉をガチガチと震わせる先輩たちに威圧される。とりあえず適当に「やぁ、ブラザーたちよ」と言う。


「心がこもってないよな」


「な、適当だよな」


 先輩たちは口々に文句を言いながら着席するが、まだ俺の方に目を向けていた。

 まだやらせる気かよ……。そろそろ面倒になってきたので、本当に普通な感じで口にしてみる。


「兄貴……?」


「──おぉおおお! いいぞ! なんか俺たち凄くレベルアップした感がするぞ!」


「お、おう?」


 意外と好反応なので戸惑ってしまうが、リクを中心に俺と先輩たちが肩を組んで円陣を作る。そして肩を左右に一緒に揺らされる。


「俺たちは義兄弟だ! レインとも同じ基地になれたんだ。これから戦果上げまくってジリ貧生活からおさらばだ!」


 この後、俺を除いたNタイプ一同は依然として帝国に侵略されたままの領土奪還のために出撃に行くとのことだった。俺は先輩たちに見送ると、自室に戻ってからしばらく何もせずにボーッとしていた。


 暇だった。

 別に不満でもないが……士官候補生でもあるわけだから任務がほぼないのも仕方がないことだ。だが、なんだか職務を与えられずに居座るのは気が良くなかった。


 なにせ、リクと先輩たちは前線に向かって戦っているのに自分だけ安全な基地で過ごしているのだから。一種の罪悪感のような物を感じていたのだ。

 まぁ「義兄弟だぜ!」だとかいう彼らの無駄に熱血なところには、かなり精神的にも救われるんだけど……。


《ユーザー、そろそろ情報整理学部の講義時間です》


「あ、そうだった。準備しないとな」


 筆記用具を探し、ノートを準備する。

 俺も士官候補生だ。これで良い成績を収められれば、Nタイプの名誉にもなる。

 きっと、NSタイプの後輩たちからの評価も少しはマシになるはずだ。

 ていうか、後輩たちに面目立てないと申し訳ない気もするし……。


 ──しかし、情報整理学部って何するんだ……?


 ふと、思いつく疑問。情報を整理するの? 分析とかするとか?

 たしかにデータ系なら手馴れてるから大丈夫かもしれないけど、なにせ学部の名前が超ダサい。しかし士官学校だしなぁ……。


 そう思いを巡らせながら通路を歩き、指定された部屋の前までたどり着く。

 この基地が作った士官学校は歴史がほぼないため、専用の教室なども用意されてない。

 そのため、古い作戦会議室を教室代わりに使うそうだ。


「よし、いくぞ」


 ごほんっと咳払いをし、ドアをそっと紳士的に開く。

 きっと他の候補生もいるわけだから、第一印象大事だからな。

 ……しかし部屋へ一歩踏み込むなり、違和感を感じてしまう。


「あれ……もうそろそろ講義開始なのにライト点いてない……。ていうか誰もいない?」


《この部屋で間違いはありませんが、ユーザー》


 シールリングは念の為に、と俺に部屋間違いではないことを伝える。

 しかしどっから見ても人がいるようには見えないんだが。

 とりあえず、ライトを点けて部屋の中へと進む。


「埃っぽい部屋だ……もしかして他の候補生たち遅れてるのかな……」


 少し不安を感じながらもパイプ椅子に腰を下ろし、ノートを長方形のテーブルのうえで広げる。いつでも勉強始めれますアピールをすぐにでも出来るようにするためなのだ。

 だが……時間は過ぎていくばかりで他の候補生どころか教官でさえ来る気配がない。


 嫌な予感がした。

 これは凄く悪いことが起きてるんじゃないか、と冷や汗が絶えずに流れる。

 しかしその時だった。シールリングが通知音を鳴らす。


《NS-014からのメッセージです》


「え、なんだろ」


 緊張でヒーヒーしてる中、シールリングのホログラムに触れながらユイナのメッセージに目を通す。そしてそれを読み始める同時に手足の震えが止まらなくなった。

 ユイナはメッセージは絶望的なほどハッキリとこう書かれていたのだ。


『情報整理学部のこと調べたよ!

 それ、開設以来から卒業者はゼロの学部。

 要するに、お兄ちゃん島流しにされたの。

 その学部じゃ、一生卒業できずに無階級なままだよ!』


 ユイナのメッセージと一緒に添えられた様々なデータは、それが嘘でないことを確実に証明していた。息が荒くなり、視界が白くなりかける。


「うそだろ……そんな、どうして」


 手が少し震えて、状況を飲み込めない

 島流しだと……? 俺が何したってんだ? 俺はただ……一時は捕虜にされてただけじゃないか!?


「ふざけんなよ……こんなの認められるかよ……」


《ユーザー、どうか感情の制御をしてください》


「だって……俺が一体どれだけ努力して以前の階級にまでなったと思ってんだよ!? 士官候補生になったから頑張ればもっと昇進できるかと思ったら……李少将の野郎あいつ! あいつだなクソッ! あいつがなにか知ってるはずだ!」


 そもそもおかしかったのだ。

 俺に昇進の機会をいとも簡単に渡すなど。しかも入学試験も面接だけで、その内容も適当なものだ。どう考えたって、俺を一生ここに政府機関で軟禁するために士官候補生にしやがったんだ。


「問いただしてやる……なんなら軍を起訴してやる……」


《ユーザーの主張も考えも当AIは理解できます。しかし、初日だけでもここに残り様子を見るべきです》


「でも絶対に他の候補生は来ないぜ!? 要するに講義だってスケジュールだけで、実体はないんだろう? だったら当然、他の候補生だって来るわけない!」


《ユーザー、この状況において当AIの判断は確実に間違っていないと進言します》


 シールリングはゆっくりと声を上げると、俺を落ち着かせる。

 両手の拳をきつく握った後、溜息をつく。

 そうだ、シールリングの言うとおりだ。


 教官や他の候補生が来ようが来まいが、この初日だけでも大人しくスケジュールに従うべきだ。組織である軍が定めたことに正面から逆らうなんて無理に決まってる。なにか賢い打開策を後で考えるべきなんだ。


「くそ……もうギャルゲでもしてるか……妹物だ……妹物にしてやる!」


 ユイナに負けたコンプレックスのせいか知らんが俺は妹物のギャルゲをシールリングに起動させると、それを始める。

 ギャルゲなんかリクに勧められてやり始めたが、ここ数年ずっとやってなかったな……。だって周りの目気になるし。


 でもヤケクソだ。どうせ誰もいないし大音量でやってやる!!!


 ──オニイチャン、ダイスキ♡


 しかし、一体どうすれば李少尉から島流しのことを聞けるのだろうか……。

 何か李少尉と少しでも対等になれるようなバックが必要になるし、そんな大物の知り合いは流石にいない。


 いや、メグミなら研究主任だっけ……。

 しかし、それでも軍部に基幹に関与する出来事には無力だろう。


 ──ワタシノコト、スキ?


 ほぼ作業のように進めるギャルゲだが、同時にNSタイプたちのことも考える。

 彼らに頼んで、軍部と集団交渉とかはできないだろうか……。無理かなぁ。

 だがそんな絶望的な考えばかりが浮かぶ中、部屋のドアがガタッと動く。

 驚いて「へ?」と飛び上がる俺。まさか……?


「ふむ? 珍しいな、出席者がいるとは……君はあの N-102のレイン・サイフラか……」


「曹少将ッ!!!」


 まさか本当に教官として曹少将がやってくるだなんて!

 てっきり、島流しだから教官でさえ来ないかと思ったら……。

 やはりシールリングの助言に耳を向けていて正解だったな。


 直立不動の敬礼を曹少将に向けると、彼は渋い三国志の英雄顔で頷く。

 しかし、俺はあることを忘れていた。


 ──ネェ、オニイチャン ドウシタノ?


「レイン候補生、それは……?」


 そうだ、ギャルゲだ! しかも妹物だ!! そしてトドメに大音量だ!!!

 曹少将があからさまに「はぁ?」という顔つきで俺を見ている。なんか分からんけど、これは恥ずかしい気がする。どうする!


「い、いえ! あのこれはその!──」


 ──オニイチャン、スキ ッテ イッテヨ!


「……お兄ちゃん?」


 曹少将のつぶやき がグサッと心臓を抉る。


 止まれ! はやく止まって!

 そう心のなかで叫びながら、シールリングでギャルゲを強制終了しようとするがなぜか焦って操作がうまくいかない。息切れしそうだった。


 ──オニイチャン モウ イイヨ……


 そして曹少将、意味が分からずに「は?」と声を漏らす。

 あぁ、やばい。なんかよく分からんけどヤバイぞ。

 強制終了をしたいのになぜか操作が効かない。こんな時にクラッシュでもしたのかよ!?


 ──オニイチャン バーカ!


「曹少将、違うんです。これは頭の体操といいますか、そのためのゲームでありまして。決してその……」


 ──GAME OVER


「あぁ……」


 トドメの一言で、なんか色々と敗北した気がして膝から崩れる俺。

 シールリングから流れ出るキュンキュンなBGMと萌えボイスに精神攻撃を受ける。

 もうなんか嫌になってきた。なんでお偉いさんの前で爆音妹物ギャルゲが……。

 島流しでいいや……もういいや……。


「貴様……」


 俺が目尻に涙を溜めながらブツブツ言っていると、曹少将が急に俺の胸ぐらを掴み持ち上げられる。グッと声を上げ、あぁこれはなんか言われるぞと思うと──


「それはまさかシスターラブキャッチ☆初代バージョン!」


「………………は?」


 いや、まて。

 なに言ってんだ、このオッサン……じゃなくて少将閣下。

 俺が目をパチパチしてると彼は俺の肩をドシドシと叩くとと嬉しそうに大声を上げる。


「難しすぎる故に、超マイナーと化した シスターラブキャッチ☆初代をプレイしようと!? 素晴らしいぞ……なんて人材がこんな学部に……」


「えっと……あの……」


 要するになに……?

 この人、ギャルゲが好きなの? いい年こいてギャルゲが好きな……いやこれ以上は言わないぞ。これ以上言うと俺まで傷つく。


 しかし事実。俺の目の前にいるのは、自分のゲームコレクションを嬉しそうに自慢してくる曹少将があった。多種多様なゲームがあり、完全にマニアにしか見えない。ていうか戦争責任者の一人として、これはさすがに他の兵士たちに見られたら士気下がると思う。特にコレクションにギャルゲ系が多い点で。


「いいぞ、気に入ったぞ! さぁ、ついてこい」


「え? いや授業……」


「んなもの、あるわけないだろう?」


 曹少将が鼻で笑うと、髭もじゃの顎をさすりながら部屋から出ていこうとする。

 だがこれはチャンスかもしれない。彼は少将クラスの大物だ。その少将に気に入られ、色々な仕事を分けてもらえるまでに信用されれば……。


 もしかしたら軍部の考えも変わるかもしれないし、場合によっては尻ポケット昇進みたいなやつもあり得るんじゃないか?

 そうすれば結果的には軍内での地位も曹少将とくっつくように向上する。


「ハッ! ついて行きます!」


 そうと決まれば金魚の糞のようについていってやる。

 ギャルゲの起動終了に成功し、ガッツポーズを取ると俺は歩み出す。

お久しぶりです!更新再開です!

長い間、申し訳ありませんでした。


見ての通り、まだリハビリが必要です。

後ほどこの話も変な箇所を修正していきますので、よろしくお願いします。

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