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機械じかけの悪魔  作者: キョウカ
CHAPTER LOADING - 動乱編 -
34/52

第三十話 - 機械じかけの悪魔たち

挿絵(By みてみん)


「もう数年ぶりになるな、レイン。どうだった連合軍での生活は?」


 空っぽの建物の中で隠れるように”彼”はシールリングの操作をしていた。

 その男は俺よりも6歳ほどは年上で小さい頃からお世話に……いやむしろ遊ばれてきたわけだが。そんな彼は今、俺の目の前に存在している。


 記憶の中の彼よりも身長も大きくなり、身体もがっしりとしている。

 何よりも声が低くなっていた。未だにその存在を信じられずにボーっとした顔で彼を見つめていると、そいつはこちらを見て鼻で笑う。


「どうした? 俺の顔がおかしいか? そりゃあ、お前にさっき頭を地面に叩きつけられたからな」


「いや……だって敵か味方か確証がなかったし……?」


 なのに彼はまたニヤニヤとしていた。

 このニヤニヤ顔は彼の癖というべきものだろうか? 何かあるたびにニッと笑顔を浮かべる。しかもそれが純粋少年のような笑顔ではなく、確実に悪人のようなものだから”ニヤニヤ顔”なのだ。


「…………俺が生きていて不思議か?」


「はい、もうNタイプは俺だけかと思っていました。メッセージだって他のNタイプから来ないし」


「あぁ、メッセージか。実は俺たちからお前宛のメッセージは全部ブロックされてな。俺ら失敗作がお前に悪影響を与えるかもしれないから、遮断したらしい」


「たしかにリクからは悪影響しか受けなかったな……」


「言うなよ」


 彼──N-034 リク・ニノシマ はプロジェクト内で最年少だった俺の教育係を務めていた。

 もちろん彼のもとで学んだのは、いかに上官にバレずに食物庫からベーコンを盗むか だったが。それでも面倒見のいい年上だと子供ながらに思っていた。


 しかしすると、他にも生きているNタイプがいるのだろうか?

 そうだとして前線に送られてもなお活躍できるNタイプ。これはもう失敗作というべきではない気もする。

 心躍るのを感じながら顎に手を当ててると、彼──リクはそっけない声を俺にかけた。


「言っておくが、生き残ったNタイプは非常に少ない。俺の他にも何人かいるんだが……あとで会えるさ。ともかく、捕虜生活はキツかっただろ? 首輪はもうないみたいだから、逃げてきたんだよな?」


 彼の言う言葉に多少の落胆を覚えたが、それでもNタイプに生き残りがいるのを知ってとてつもなく嬉しくなった。一人じゃない、というのがここまで喜ばしいこととは思いもしなかった。


「あー、スタンリングはもうないですね。捕虜生活も悪いわけでもなかったかも。ただ、俺は帝国の人間じゃないですし」


「ま、俺の部隊がこの救出作戦に参加できてラッキーさ。お前にまた会えたしな。ほら、これ装備」


 ポンッと投げられた一式の簡易装備。

 そこにはクライミング・ワイヤーや拳銃、そして戦闘用ナイフに救急装備があった。

 それらを拾い上げて、次々に装備していく。

 久しぶりの連合軍の装備に違和感を覚えつつ、しっかりと強度を確認する。


「俺の任務はお前を無事に本国まで送ることだ。ここは開発途中地域なため、ほぼ無人だ。でもここから激戦地域を抜けて、合流地点に行く必要がある。偵察ドローンからの情報によると、敵はかなりの兵力を集中させてきているのでこちらが全滅するのも時間の問題。だから速やかに全部隊を帝都から離脱させる必要がある」


「了解です。俺は何をすれば?」


 リクの戦闘服に染み付いた返り血を見つめながら問う。

 彼はフンッと笑うと、勢い良く立ち上がった。そして両手に抱えたアサルトライフルをリロードすると、こう答える。


「目に入る敵は全員ぶっ殺せ。そして”家”に帰ろう、兄弟」


 久しぶりの敬礼をした。



---



「拳銃じゃ魔術師は殺せない! 足止めする気で行け! トドメは俺がする!」


「了解です! クソが、すばしっこいな野郎……!」


 都市での戦闘は非常に激戦となりやすい。

 連合軍はゲリラ式の戦闘スタイルを今回は採用しているみたいだが、正直言ってこのままだと全滅するのも仕方がない。


 俺を確保した今。連合軍は直ちに離脱作戦へ移行していた。

 どうやらリクは二人組で俺を探していたようだが、片方を狙撃で殺られたそうだ。

 向こうは簡単に俺たちにとどめを刺せるが、俺達は機関銃で魔術師の身体をズタズタに引き裂くのにかなりの労力が必要だ。


「あぁ、うぜぇなあいつ。金的だけ集中的に連射してやるよ。腐れ魔術師が」


 ミント味のガムをクチャクチャと噛みながら掃射するリクの姿はどこか戦い慣れしたように見えた。まさに軍人の強さをオーラに出していて、かっこいいとも思える。

 それに負けず、俺も拳銃を構えて次々と魔術師の魔法陣や身体の脆い部位を狙う。彼らは弾丸でさえ弾き返す魔法と身体を持つが、完璧ではないのだ。


 俺に撃ち抜かれた敵は皆、一瞬だけよろめいて魔術による自動治癒が始まる。

 しかしその一瞬の隙──防衛魔法陣がとても脆くなる瞬間、リクによる集中射撃が敵どもを襲う。耐え切れずに破裂する魔法陣を通りぬけ、肉に食い込んでいく弾丸。敵は血飛沫を吹き出しながら悲鳴を上げた。


 目にも留まらぬ速度でリクは銃のマガジンを別タイプのものに入れ替えると、それを無防備な魔術師達に撃ち込んでいく。そして少しの時間差──


「排除完了だな」


 リクのニヤニヤ顔と共に敵どもの身体は大きく膨れ上がってから破裂する。

 今打ち込んだ弾は着弾後に破裂するタイプ、要するに魔術師にとどめを刺すために開発されたものだ。こうでもしないと魔術師は死なない。


 まさにザーッと降る血の雨を浴びながら、俺とリクは物陰から背を伸ばすと互いに拳をぶつけてから頷く。また成功だ。


「今は病院といくつかの学校、富裕層の豪邸を占拠していることで時間稼ぎしている。だがもう持ちそうにないなあ!」


 そう叫ぶとリクは瀕死で手をブルブル震わせる敵兵士を軍刀で斬り捨てる。

 血と脂でまみれた刀をシュッと払うと、それを腰に収める。

 そして唐突に両手を地につけると、いわゆる陸上選手のようなクラウンチングスタートの体勢をとった。


「最近は走ったか? 全力で」


「たまには?」


「そうか、じゃあNタイプ唯一の成功個体様と一緒に走らせてもらおうかな。合流地点はもうそこだ、一気に行くぞ。ついて来い」


 それを聞くと俺も拳銃を腰に挿して、走れる体勢にする。

 最終確認してを終え、足にグッと力を入れてから答える。


「了解ッ!」


 瞬間、リクの立っていた石タイルの床は大きくえぐられるように破壊された。

 ズバァアアン──と響き渡る爆音と風を全身に感じ、息を呑む。

 俺もシールリングとタイミングを合わせると、目を鋭くさせてから地を蹴った。

 砂埃と瓦礫が後ろへ吹き飛んでいくのが見える。


「ほぅ、さすがに俺よりは加速度があるのか」


「リクとは違って、唯一の成功個体ですからね」


「嫌味かな!?」


 ニヤリと笑い返してやると、リクは舌打ちをして俺より少し先を走る。

 走るたびに石造りの道路が崩れていき、その破片が後方へと散っていった。

 それはある種の快感をもたらし、吹き抜ける風が髪を引っ張る。


「ワイヤー行くぞ!」


 左腕に装着した射出装置のレバーを目一杯引くと、ガチャンッと音がなってクライミング・ワイヤーの準備ができる。それをリクとほぼ同時に射出して建造物の屋根に食い込ませた。


 走るのをしばらくやめずに、一定の速度を越えたところでレバーを再度引く。

 するとワイヤーがとんでもない力で巻かれ始め、火花を散らしながら身体が引っ張りあげられていく。

 まるで蜘蛛人間にでもなったような光景で一気に屋根上にまで飛び上がると、ワイヤーを腕に戻す。


 ワイヤーは前線兵士が都市攻略でよく使うものだ。

 なので俺は基礎訓練でしかワイヤーを使う機会がない。だが実戦でかなり上手く使えたと思うので、少し嬉しくなって「よっしゃ」と言ってガッツポーズを取る。


 そんな俺を見たのかリクは不思議そうな顔で言う。


「102番くんだったレインだが、なんか変わったんだな。しばらく会わないうちに」


「え、自分が? そうですか?」


「表情豊かだな」


 俺は頭を思わず頭を捻ると少し困った感じになる。

 走りながらではあるものの、口を開いた。


「皆さんがプロジェクトから外された後、他のプロトタイプ組の野郎どもが嫌がらせしてきましたしね」


「そうなのか?」


「そのためにも感情豊かじゃないと、やってらんねーってところですよ。ここんとこの捕虜生活も影響あるかも」


「…………すまねぇな。俺達が失敗作になったばかりにお前には苦労をかけた」


「……いや別に」


 リクが歯を食いしばっているようにも見えたが、ここはあえて触れずに先を急いだ。

 まずはここを生きて抜けることが第一だ。


 しばらくは交戦と走りを繰り返し、だんだんと街の中心部に近づいていった。

 リクの言う合流地点は病院の近くだそうだ。そこなら帝国軍も手を出しにくいだろうということで、占拠をしている。


 気の荒い前線兵士が多いため、病院内はメチャメチャでかなりの数の患者に多大なる影響を与えているそうだが仕方がない。これは戦争だ。


「はぁ? 帝国軍が攻めてきた? 大丈夫だ、こっちも救出対象をすぐ近くまで連れて来ている。本部に離脱用カプセルを合流地点に投下できるように申請してくれ! あぁ、今すぐ指揮官に伝えろ!」


 少しだけ立ち止まった屋根上でリクが大声を上げている。

 両手はすっかり敵と自分の血脂で汚れ、なんかヌルヌルする。最初は血生臭いものの、すぐに気にならなくなった。


「よし行くぞ、レイン。もうすぐだ!」


 俺とリクも満身創痍だ。

 治癒細胞による回復で水蒸気がシューシューと身体から吹き出されているが、痛みは止まらずに神経を縛り付けてくる。見たところ、俺は肩に二箇所、首筋に三箇所の傷を負っているが治癒は既に開始している。ただ、脇腹には焼きただれたような傷があり治癒がされていない。


 どうやら、魔術による直接攻撃のため干渉反応で負傷部分の治癒細胞が死んだのだろう。ここの治癒にはかなりの時間がかかりそうだ。

 軽く脇腹を包帯で縛ると、またリクと共にワイヤーを射出して、隣の少し離れた建造物にまで飛び移る。


「あれって……?」


「ミーネルヴァの学生兵もいるな。緊急事態だから戦える奴らは全員出動させたんだろう」


 異臭のする方向をみれば数々の死体が目に入ってきたので、思わず立ち止まる。

 見下ろすとそこには無数の帝国兵士と連合軍人の死体。

 そして何よりも目立つのが黒い戦闘マントを羽織った数人のミーネルヴァの学生たちだった。


「学生をこんなマジモンの戦争に出動させて、何考えてるんだか」


 リクが口の中のガムを勢い良く吐き捨てると、また新しいものを口に入れる。

 今度はオレンジ味のガムだ。彼に「いるか?」とは聞かれるが断っておく。

 あの学生兵たちの姿を見ると、なんとなくアイリスや他の学生たち──要するにアイレックやライル、ニコラスだとかイルーナ。まぁ、そんな奴らを思い出す。


「いや、待て……なんだこのデータ」


 またワイヤーを射出させようとした時だった。

 リクは網膜ディスプレイで”何か”を見ているようで、驚愕の表情を浮かべていた。

 そして信じられないような顔をしながら俺を見る。


「一部の学生兵が未確認の新型魔導石を持っているようだが?」


 大方、アブレイム・ストーン所有者たちのことだろう。

 俗にいう、化け物級の魔術師。


 不穏な空気を感じながら後ずさりすると、俺も答える。


「アブレイム・ストーン所有者ってやつですね。あいつら、実戦経験のない雑魚でも生体兵器と戦えるだけの力を出せるから……」


「パワーでゴリ押しのタイプてか──おい伏せろッ!!」


「うおッ!?!?」


 リクに頭を思いっきり掴まれ、そのまま押し込まれる。顔が屋根の瓦に擦り付けられたかと思うとすぐ近くを大きなレーザーが通り抜けてから、爆発。


 そこ周辺の屋根は吹っ飛び、瓦礫が辺りに降り注いだ。


「あぁぁあ、とんでもない魔力総量だな!! 網膜ディスプレイにノイズがかかるくらいに干渉反応してんなあ」


「俺もです。幾つかのセンサーがイカれました」


 干渉反応のせいで様々な機能が一時的にエラーになる。耳鳴りも酷く、様々な不調が起きる。とんでもない魔力総量だ。


《このパターンはアブレイム・ストーンです、ユーザー》


 シールリングが唐突に発した言葉に全身がの毛が逆立ちすぐに構えてから立ち上がる。


 リクは驚きを隠せずに俺を見ると、引き留めるように声を上げた。


「おい、何してんだ! まずは様子を見ないと!」


「今のがアブレイム・ストーン所有者です! ここにいたら危ない!」


 リクを無理やり立たせて、二人とも散開する。彼は向こうの煙突。俺はこちらの屋根部屋にある窓上だ。


 どこにいるんだ。

 化け物が……。


『お久しぶりです。レインさん──』


「おい嘘だろ……?」


 遠くで声が聞こえたかと思えば、次の瞬間には幾つもの投げナイフが肩に刺さっている。今、少しでも反応が遅れていればナイフは急所を貫いたかもしれない。


 そしてこのナイフが刺さった後の痺れ……。


「毒塗りナイフか」


 すぐに救急装備から解毒剤を注射器で打ち込むと、かなり楽になる。相変わらず、手足は痺れるが動けないわけではない。


 そしてゆっくりと立ち上がってから拳銃を前に向けた。


「あぁ、本当に久しぶりだな」


 思いっきり口元で笑顔を作ってやると同時に、少し遠くに立つ少女を睨みつける。


 青みのかかった白い髪と、腰には火花を散らせながら高速回転するアブレイム・ストーン。瞳を金色に輝かせながら、とんでもない殺気を飛ばす少女。

 そいつが目の前にいた。


「──シエラ・ルーニス嬢」


 俺の発砲に合わせて、リクの掃射が続いた。もうこいつも敵だから。

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