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機械じかけの悪魔  作者: キョウカ
CHAPTER LOADING - 動乱編 -
29/52

第二十六話 - 生徒の行方(SIDE:ハバード>レイン)

--- SIDE:ハバード ---


 どうやら私の生徒はとんでもない女に手を出しそうだ。


「よりによって自分の主人である女か? いいのか? これはいいのか?」


「ちょっと……ハバード殿。落ち着いてください」


 私は中型飛行船の中の作戦会議室を何往復も歩き回りながらブツブツと唱える。

 場所はミーネルヴァ学園、女子寮第一棟の上空だ。この飛行船は諜報活動用のものであり、今もレインの居場所に合わせて移動をしている。


 私が何をこんなに焦っているのかというと、あのレインがなんと女子生徒の寮室に入ったことが問題なのだ。しかもあろうことか、その相手が主人であるアイリス・ベルヴァルトなのだから。


「そ、それでは事態を整理しよう諸君! 要するにレインは女子生徒とダンスをした。しかし、実はその相手が自分の主人だった。しばらく口論するわけだが、仲直りでもしたのか、そのまま彼女の寮室に入ったということだが。諸君はどう思う?」


 部下の騎士たちは互いに目を合わせ、しばらくすると拳を目の前のテーブルに一斉に叩きつける。そして恨めしい声を腹から捻り出すのだ。


「「「……デキてますね」」」


 騎士たちの絶望的な表情を確認すると、自分も確信をする。

 そして頭を抑えながらブツブツと声を漏らす。


「しかも部屋に入ってから出てこない。一体どうするか……。あれか? 主人と護衛という関係で余計に二人で背徳感を感じながら燃え上がっているのか? 萌え上がってるのか? ていうか阻止していいのだろうか? しかし生体兵器と公爵家令嬢はマズイ。少なくとも現時点においてはマズイ」


 そりゃあ私も若い頃はハチャメチャだった。

 元々、私の妻は農家出身だったので身分も低く伯爵家出身の私と結婚などできるはずなかった。だから貴族の友人に彼の弱みをチラつかせて、妻を彼の養子にさせたのだ。

 晴れて妻は貴族の親族となり、私と結婚できた。


 だから私はレインがアイリス・ベルヴァルトとデキていようが反対はしない。

 むしろ同じ男として応援しようではないか。個人的にもドストライクなシチュエーションだしな。主人と護衛の愛とかな。


 それに彼には女を落とす技やらアドバイスも徹夜して教えこんでいた。

 だからそれを実行するのに問題ない……しかし……。


「たしかに目的の女のためには汚い手も使えと言ったが、そこまで行っちゃうのか? 行ってしまうのか? イクのか? こいつは私の計算ミスだ。レイン・サイフラ……こいつデキるぞ! 放っておけば皇族にも手を出しそうだ。ていうかどうする!」


 そう、今はダメだろう?

 せめて臣民になって、何かの功績を残してから落とせよ!

 歩きまわってると、もうどうするべきかもわからなくなる。

 騎士として彼を止めるべきか、男として見て見ぬふりをするべきか?


「まだ盗聴魔法は作動しないのか!」


「難しいです! 学園側による何重ものシールドで盗聴魔法陣を展開することが……あっできました!!!!」


「でかした!」


 すぐに部下が操作していたクリスタルに触れて、魔法陣を展開する。

 するとかなり酷いノイズに混じってアイリスの声が聞こえてきた。


《────ごめん……やり過ぎたかも》


「「「何をヤリ過ぎたってんだ!?」」」


 瞬間、何人かの騎士が頭を思いっきりデスクに叩きつける。

 彼らは 彼女いない歴=年齢 の類の人間だ。あまりもの嫉妬で気が触れたのだろう。

 そして「何が楽しくてこんな会話を聞かなくちゃいけないんだ……」とうなだれ始める。


 しかし、すでに恋人のいる騎士や私のような既婚者はまだ踏みとどまっている。

 まだ大丈夫だ。歯ぎしりしながら盗聴魔法の送る音声に耳を凝らす。

 ザザッとノイズが響くと次にレインの声が途切れ途切れに聞こえる。


《──死ぬかと思った────楽しったし──》


「死ぬほど激しかったのか!!」


「でも楽しかったそうだぞ?」


「エクスカリバー状態だったんじゃねぇか?」


「……ハバード殿、体調が悪いので待機室に行きます」


 騒然とする会議室内。

 由緒正しきベルヴァルト家の娘と生体兵器ノイズシリーズの一員であるレインがいつの間にかにそんな関係になっていたのだから。


 騎士たちの反応は様々だ。

 何人かは歯ぎしりするあまりに口から血をだらだらと流す。

 また何人かは「なぜ自分には彼女がいないのか」と自問自答する。

 そして何人かはドヤ顔で「ふっ、やるじゃねぇか」と上から目線で微笑している。


 もちろん私は若いころの自分と重ねながらも、帝国に仕える騎士としてこの状況はどうするべきなのかとも混乱しており。それこそ賢者のごとく無表情に輝くクリスタルを見つめていた。


《──ありがと》


 アイリスのこの言葉がトドメになった。

 彼女のいない騎士は既に泡を吹いて息絶えているわけだが、生き残った騎士たちもさすがに「これはやばいんじゃないか?」という話になり始める。


 これがスクープでもされたら、レインの安全なんか確保できない。

 なによりもアイリス・ベルヴァルトには身の危険でさえ迫るだろう。


「ハバード殿! 校内ネットワークの解析の結果、さきほどアイリス・ベルヴァルトが写真を撮ったのが判明しました!」


「内容は?」


「さすがにログの閲覧はできません」


 私は手を額に当てると考えこむ。

 緊急時だ。私には真実を知る必要がある。

 一体何が起きたのか? 男として、そしてレインの教育係として立つべき立場を決めるべきなのだ。


「騎士団帝都支部に騎士団長代理としての命令を下す! ミーネルヴァのネットワークに侵入し、アイリス・ベルヴァルトが撮影した写真データを手に入れろ!」


「し、しかし! 皇族とミーネルヴァから責任を問われる可能性が!」


「全て私の責任だ! ただちにミーネルヴァのネットワークに総攻撃しろ!!」


「ぎ、御意!」


 反対する部下を押し切り、命令を下す。

 理由ならいくらでも作れるだろう。レイン暗殺の情報が入ったとでも説明しとけばなんとかできそうだ。それに騎士団支部長は私に絶大な信頼を置いている。疑う余地もないはずだ。



---



 しばらく待っただろうか。

 何もしないと混乱しそうなので血涙を流しながら本部に飲酒許可を得た。それで何瓶もの酒を飲み干しているのに緊張で酔う気配など全くしない。


 しかし部下の張り上げた声で騎士一同が飛び上がって、彼の元に集まる。


「写真を手に入れましたが……これは……」


 写真が映し出されたガラス製のディスプレイを見る。

 アイリスがにっこりとしながら片手にピースをしながらこちらを見ている。

 後ろにはベットの上に座り、苦笑いをしたレインがガッツポーズを取っていた。

 仮面をつけ、金髪ウィッグも被っているが間違いなくレイン・サイフラだった。


 この写真を見ただけなら「写真とっただけです」とも言い切れる。

 しかし先ほどの断片的ではあるが、盗聴できた会話を聞けばどう考えても……おめでとう……。


「さすがハバード殿の弟子ですね……」


「もう、どうでも良くなってきたわ……素直に祝福する……」


「魔法と科学の友好の一歩だろ? わかるわかる」


 絶句している私に口々とコメント残していく部下たち。

 もうここまでレインは来てしまったのか。これは私の全盛期とも互角に渡り合える逸材ではないのか……?


 ともかく、立つべき立場はもう決まった。

 暖かく見守ろうと思う。




--- SIDE:レイン ---


 なにかがおかしかった。

 いや別に何か変わったというわけでもない。ただ、とにかく何かがおかしいのだ。


「な、なぁ、ハバード……?」


「なんだ」


 ハバードに選ばれ積み上げられた教本の山。

 それを読んでいると、思わずハバードに声を掛けてしまう。


「なんでさ……この教本って子育てに関することばかりなわけ?」


 俺がダンスパーティーから騎士団支部に帰った後、当然だが騎士たちには誰と踊ったのかを聞かれた。さすがに結局アイリスでした! なんて恥ずかしくて言えないわけだから「顔は見ないで逃げた」とだけ伝えたわけだ。


 しかしそれを聞くと皆が異様に「よくやったぞ」「女をつかまえてから一人前の男だ」だとか次々に言われる。ハバードに限っては俺と目を合わせると「ふっ」とキメ顔を作ってから「ヤレヤレだぜ」とでも言わんばかりに首を横に振るのだった。


 そして目が覚めて、今日も礼儀作法の勉強だぜ! と思えば、この謎の子育て教本である。一昨日までテーブルマナーやダンスマナーを教えこまれていたのに、一体何が起きたのだろうか?


「騎士たるもの、子供と接する術を知らなくてはならない」


「……で、”子育て”を学ぶわけ?」


「うむ」


「じゃあこれは? ”女が喜ぶ100のプレゼント”? これはなんだよ? ”アグリンベル絶景のデートスポット”!?」


「レディーをエスコートできての騎士だろう! 君ならデキるはずだ」


「は、はぁ……」


 そう、読まされる本がどう考えても騎士道とやらとは関係ないものばかりの気がするのだ。とりあえず、シールリングには読み込ませているが……本当に必要な情報かこれ?

 ていうかやっぱりおかしくね? ハバードや他の騎士との距離感も妙に近い気がするし。俺なんかしたか? 何が起きてんだ? 混乱してきたかもしれない。


「──しかしやるじゃないか。まさかダンスで本当に女をつかまえるとはな」


「お、おう……」


「どうだ? 好みだったのか?」


 ハバードがテーブルの上に積まれた本の山を手の一振りでどかすと、身体を乗り出してくる。しかもニヤニヤとした顔で興味津々のようだ。

 だが、俺もアイリスと踊ったなんて言えるわけないのだからモゴモゴと答える。


「あぁ、可愛かったよ……」


「本当にその女を狙いたいんだったら私に声を掛けるんだ。ちゃんとプランを建てていこうじゃないか」


「……そんな気はねぇよ」


 何を言っているのかよくわからないので、そう答えるが。

 なぜかハバードは急に立ち上がると、手をテーブルについて口を開く。


「おいおい、まさか責任を取らずに逃げるのか?」


「いやちょっと待て! マジで待て!」


 ハバードの軽蔑するような視線を受けてやっと俺も確信を持ちながら声を上げる。

 たぶんなんかとんでもない誤解を受けているのかもしれないのだ。

 とりあえず、呼吸を整えてからまっすぐと目を前にいるハバードに合わせてから問う。


「──何のことだ?」


「貴様、女をなんだと思っている!」


「いやだから待てよ!!!! なにやってんだよ! 騎士道どこ行った!?」


 いきなり襟元を鷲掴みにされて持ち上げられるのだから足をバタバタさせながらハバードを止める。そして手を離してもらえたのは良いのだが、相変わらず何が起きているのか理解に苦しんだ。


「とりあえず、ハバード。いや、師匠よ。なにを言いたいんだ?」


「あぁ、そうか。そういうことか、レイン。恥ずかしいんだな? 安心しろ、この情報は絶対に外には漏らさないさ」


「いやいやいやいや、なに情報!?」


 ハバードは長い溜息を吐くと、俺の方を両手で持つ。

 そして鋭い眼差しで言った。


「アイリス・ベルヴァルトと超えてはいけない線を超えてしまったんだろう? 超越したんだろう? 遥か彼方まで行ってしまったんだろう?」


「…………は?」


「まさか我々が君の動向を捉えてないとでも? こんな写真まで撮るとは、やるじゃないか」


 差し出された写真を受け取る。

 ってこれ! どう見てもアイリスが部屋で俺と撮った写真じゃねぇか!

 たしか彼女の使用人に渡すとかで撮ったやつだ。


「いやこれ、アイリスが使用人に渡す写真で──」


「あぁ、わかってる。可愛い子を見つけてダンスしたら結局は自分の主人だったわけだけど、それが元で口論する。でもその後にお互いの良い点に気づいて、部屋の中という状況もあり燃え上がってしまったんだな?」


「はぁああああ!?!?」


 文字通り、俺は絶叫した。

 ハバードなんて「どうした?」と呟いて俺を見ている。

 俺は大股でテーブルの向こう側にいるハバードに近づくと、もう上下関係なんか気にもせずにそいつの襟に掴みかかる。


「おい待てよ! 俺アイリスに手なんか出してないからな!?」


「……しかし君たちの会話を断片的ではあるが盗聴したんだが」


「断片的じゃ意味ないだろ!」


 ハバードは眉間にしわを寄せると、まだ納得出来なさそうな顔で俺を見つめる。

 さすがにこの汚名は困る。ていうか手も出してないのに、そんな誤解をされたら俺損するだろ!


「……本当なんだな?」


「マジだよ!」


 そう言い返しながらハバードから一歩離れる。

 彼はまるで武将のような顔つきで鋭い眼差しを俺に向けており、ゆっくりと両腕を胸の前に組むと息を吸った。そしてカッと目が開かれると彼の声が響き渡った。


「このヘタレがッ!」


「もうお前騎士やめろって!」


 初対面の時に感じたハバード・メルネスの威厳はすでにこの世になかった。

記者会見


Q. アイリス嬢との関係が疑われておりますが?


レイン「誰ガデー! ダデニ護衛シデモ! オンナジオンナジヤオモデェー! ンァッ! ハッハッハッハー! このブレシア帝国ンフンフンッハアアアアアアアアアアァン! アゥッアゥオゥウアアアアアアアアアアアアアアーゥアン! コノヒホンァゥァゥ……アー! 世の中を……ウッ……ガエダイ!」(Wikipediaより引用・改稿)

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