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機械じかけの悪魔  作者: キョウカ
CHAPTER BOOT - 出会い編 -
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第十一話 - 状況変動

 最近、気のせいか軟禁、監禁される回数が増えた気がする。

 いや、増えたな。


 俺はアイリスの部屋にいた。ていうか、軟禁だ。

 アイリス・ベルヴァルトの護衛、という肩書きを持ちながらも待遇は捕虜よりちょっとマシなだけだ。


 実はアイリスが俺をラウンズから取り戻しに来たのは学生兵団がそう命じたからだそうだ。彼女は今、お偉いさんから責任追及やらで尋問でも受けているんだろう。


 そのため、俺もアイリスの部屋に閉じ込められているってことだ。

 部屋の外には何人もの警護員が立っており、正確には俺を警護するってのが目的ではなく、生徒を俺から警護するのが目的なんだろう。



「……調べるか」


 ゆっくり休んで、ヘルスケアのために全身の機能を休止させたいところだが、それよりも優先するべき事がある。


 調査だ。

 目的は一つである。『化け物級魔術師』に関してのさらなる情報だ。

 ライルに負けたこともあり、とにかく今の俺に必要なのは情報と戦略だ。

 あのアブレイム・ストーンに打ち勝つ、確かな情報が俺には必要だった。


 ……まぁ、正直に言おう。

 俺は女子の部屋を漁りまくる最低な野郎だ。


 とりあえず、タンスを漁る。

 えーと、これが正装か。

 で、この引き出しが……アクセサリーだらけだな。


 と言った具合に、奥までチェックする。

 やはり、物を隠す際に一番多い場所はタンスだ。

 それが女性なら、なおさらである。


 タンスの中は全て見たが、何もない。さすがに、タンスに隠すほど重要なものではないか?


 次に、隣の引き出しを開けていく。

 やっぱり、服とかしかないなぁ~。

 ん? この小さい三角の布は……パンツかよ。


 だめだ。これは人間として、男としてダメだ。

 すぐに、ピシャリッと引き出しを閉じる。


 それにしても、あいつって結構、オシャレ好きなんだな。

 意外にも女の子ってわけか。


 だが、どうしようかと閉じた引き出しを見てると、何か紙の束がはみ出ているのに気付いた。すかさず、それを抜き取ると目を通そうとするが……。


『生命保険2億デール 保険対象者:レイン・サイフラ』


 反射的に「オーマイガッ!!」と叫んでしまう。

 とてつもないショックに襲われ、見なかったことにするために紙の束――保険証明書をタンスに押し戻す。かなりエグいことしやがって……。


 やっぱり、アイリスに限って、そういう機密資料はタンスには隠さないか?

 そもそも、資料を持ってるかもわからないんだけどな。

 仕方がないし、本棚もチェックするか。


 高級そうな木材で組み立てられた本棚に目をやる。

 小説や歴史書など、きちんと分けられていた。漁りやすそうだな。



 しばらく漁っていると、不自然な箇所をやっと見つける。


 恋愛小説のシリーズが多い。


 アイリスが恋を夢見る純粋乙女……。少し想像してみようか。


『今日も彼を振り向かせたい! うふふ、今日はこの服で決まりね☆』


 ないな……。背筋が寒くなる。

 一冊、手に取る。厚紙で作られたケースに恋愛小説が入っていた。しかし、重量に違和感を感じる。


 間違えない。これは思春期男子が「SECRET ITEM《紳士の嗜みの本》」を親から隠すときと同じ方法だ。

 まぁ、アイリスは女子だし、何かの資料でも隠しているのだろう。たぶん。


 迷わず中の小説を抜き、表紙を確認する。

 そして、開く。


 アタリだ。小説の内容は全て別の紙に差し替えられ、全ての差し替えられた紙には びっしりと文字が手書きされていた。写真や絵も貼られてあり、図鑑のように見える。


【リィン・ベルヴァルト暗殺について】


 欲しかった「化け物級魔術師」の情報ではないが、アイリスの捜査内容はプロの捜査官そのものだ。



---



 しばらく読んだ。四冊は読んだだろうか。

 はっきり言うと、冷や汗が出た。


 生体兵器の特徴から、エネルギーの放出構造や強化装置の稼働率まで全て調べ尽くしていた。

 ここまでしても暗殺者の所属タイプが分からないという事は、既に廃棄されたタイプだろうか?

 

「何……してるんですか?」


 突然の声。背後に誰かいる。

 今まで歩んできた記憶が一気に目の前で流れる。あ、走馬燈か。

 俺は背筋から吹き出すような冷や汗を感じながらビクビクと振り返る。

 しかし、一番最初に目に映ったのが金髪ではないのを確認すると、安堵感で身が包まれた。


 そこにはシエラが立っていた。

 アイリスではなかった。繰り返す、アイリスではなかった。

 心の中で命が救われたことに歓喜しながらも、シエラの目を見る。


「恋愛小説好きなんですか……」


 シエラの引き攣った笑顔をが目に入り、俺は精神攻撃を直に受ける。


 いかん。この誤解はいけない。

 すぐに弁解しようと口を開き、背筋を伸ばすが、


「いや――」


 踏みとどまる。アイリスが中学生レベルとはいえ、偽造までして隠していた資料だ。バラすわけにはいかない。

 いや、バレるとやばい。俺が殺される。


「はい、大好きです。特に寝取りモノが大好物です」

「は、はぁ」


 シエラは数歩か後退ると、「うわぁ……ドン引きだわぁ」的な表情を露わにする。

 だめだ、この話題は危険だ。俺の本能が叫んでいた。

 すぐに話題の軌道修正を行い、自身のイメージアップに務める。


「……そんな事より、どうしてここにいるんだ? ここはアイリスの部屋だろ?」


 話題を切り替える。これ以上、イメージを下げられると困る。


「え、えっと。警護員に無理言って部屋にいれてもらったんです。なので五分したら出ていかなきゃいけないんですよ?」


 シエラの肩を見る。赤く汚れた包帯に巻かれ、痛そうに痙攣している。

 先ほど、自分が付けた傷だ。ブレシアの治癒技術は非常に優秀だから、傷は消えると思う。しかし、なんだか悪く思えた。


「さっきは、本当に悪かった。そこまでやるつもりは……」

「いいです。自分も死ぬ気で襲いましたから。それに、私に対してシステム解放もしてませんでしたよね?」


 口では、そう言いながらも目を合わせてくれない。流し目でうまく目を逸らされた。

 怖がられているのは確実だ。少し傷づく。


「あの! 質問、してもいいですか?」


 気まずそうにシエラが口を開く。

 だが彼女から聞かれるような心当たりは一つしかない。

 俺は目を細めて、小さく聞き返す。


「兄の事か?」


 シエラはコクリと頷くと、はっきりとした眼差しで俺を見つめた。

 今度は真っ直ぐと静かな視線で。


「言ったけど、シエラの兄は帝国兵士に殺された。脱走兵が錯乱し始めたんだよ。それで、ドグルスの部下が裏切ったわけだ。多分、大将の首を差し出せば助かると思ったんだろうな。結局は、俺のせいだけど……」


「……もういいです、もう」


 ため息交じりの答え。しかし、なんだか心が重い。

 戦争でも最も恐ろしいことは人を殺すことに慣れることだ。俺はその殺しに慣れてきたはずだった。


 だけど今は、目の前にいる少女の目でさえ合わせることが出来なくなっていた。

 彼女の姿を見ただけで、まるでこの戦争の原因は自分だけにあるかのような感覚に陥ってしまう。つまり、俺は現実逃避がしたい。


「本当にね。人の部屋を漁る変態なんか死ねばいいのにねっ☆」


「たしかに……えっ?」


 玄関の声に全身が反応して振り返る。

 我が主人であるアイリスが立っていた。

 いや、そびえ立っていた。とてつもなく大きく見える。


 そして、弁明する暇もない。

 そのまま、気絶させる勢いの電気ショックが全身を脈打つ。


「痛っでぇぇえ!」


 アイリスの手には黒いキューブ。スタンリングを起動されたようだ。

 自業自得なのは分かってるが、酷すぎるだろ。


「わ、私は帰らないと……。今度、もう少し詳しく教えてください。レインさん」


 逃げられた。

 シエラが玄関前でアイリスに事情を説明しようとするが、既に話を監視官から聞いたのか、アイリスは適当に挨拶する。


 シエラが逃走し終え、扉がキーッと音を立てて閉まる。まるでホラーゲームだ。


「レイン? 気分はどう?」


「へ? ……気分?」


「――女の子の部屋を漁る時の気分よ」


 アイリスが引きつった笑顔を浮かべながら、こちらに近づいてくる。

 怖くなり、俺も後退するが、すぐに壁にぶつかる。


「おい……! 悪かった! 探究心に負けたんだ! 誰だって気になるだろ!? お前みたいな魔力を見たら!」


「それが遺言? 情けないわね」


「さ、さすがに……命だけは保証してくれないか?」


「うるさい!」


 キューブのスイッチが押された。


「いっだぁああい! もう、ビリビリは嫌だぁあ!」


 白目をむいてピクピクしている俺をアイリスが見下ろす。

 これなんてプレイ!?!? もうこのまま死ぬかも。


 必死に足掻きながら、弁明を試みる。

 ココで死ぬわけにはいかない! ただの変態という汚名を着て死んでたまるか!

 あれ……? でも、アイリスに見下げられながらの屈辱……。悪くないかも……?

 ダメだ! このままだと俺は向こう側の世界に連れて行かれてしまう。


 目を閉じて暗記していた連合国憲法を心で唱えながら精神を落ち着かせようとする。


「タンス……も散らかってる。まさか、下着まで漁ってないでしょうね!?」


 クルッとアイリスが振り向く。

 その濡れ衣だけは、俺は全ての犠牲を払ってでも晴らす必要があった。

 その義務があった。


「俺がほしいのは、お前らの『魔導石』の詳細情報だよ! お前の下着に興味なんてない!」


「本当に?」


「そうだよ!」


 事情を必死に弁解しようと、俺もアイリスの足元にしがみつく。

 そして、感情に任せて話を始める。しかし、それが俺の命取りとなったのだ。


「だいたいね? だれが、お前みたいな、ドS女の下着なんか――あっ」


 今度は、アイリスが満面の笑みで「にっこり」として来た。

 なんでだろう、アイリスは良い笑顔をしている。むしろ、キュートだ!

 なのに、震えが止まらない。


 どうやら、男は無言が一番だそうだ。


「ん? なぁに?」


「アイリスさん……。誤解しないで欲しいのはですね……。世の中には『ドS』が大好きな、変わった人種もいることです」


「んー?」


「いや、変わった人というのもダメだな……。少なくとも、アイリス嬢はきっと将来的にはモテます。うん」


 何が「うん」なのか自分でもよく分からないが――沈黙。

 火に油を……いや、ガソリンタンクを放り投げてしまった気がする。


 するとアイリスが急に真顔になり、キューブを取り出す。

 え?


「処刑ね」


 俺は見た。

 アイリスがキューブのスイッチを「カチカチカチカチカチ」と連打する瞬間を――


「ゔあ゛ああっあ!」


 駆け巡るリズムのある衝撃。

 電撃で全身の筋肉が引き締まり、拳を強く握る。

 揺らぐ視界で見える――無表情でスイッチを連打し続けるアイリス。


 神様! あなたは残酷だ! こんな試練を与えるなんてっ!

 人には、乗り越えられない試練を与えないって約束でしょう!?

 話が違う!



 しばらく、生き地獄を味わった後。電撃が止まった。

 マグロのようにピチピチと跳ね回る俺を、アイリスがドン引きしながら見ていた。

 お前が、俺をスタンさせたんだろ……。


「なにか言う事は?」


「世界には、様々な拷問方法があることを知りました!」


「うるさい! で、どこまで読んだの? 私の資料書を」


「四冊ぐらい読みました! 斬られる覚悟はできております!」


 新米軍人のように背筋を伸ばし声を張り上げる。

 それを見て、アイリスが苦そうな顔をして、


「……その、接し方。結構、傷つくからやめてくれる?」


「いえ、スタンリングの方が痛いですし、傷つきますよ。奥さん」


 アイリスが目を刃に変えて、キューブを取り出した。

 さすがに痛みを覚えた俺は「ごめんなさぁい!ごめんなさぁい!」を連発する。


 アイリスはキューブをしまうと、ベットの上にストンと座る。


「いい? これからは、きちんと素直に話して。私も出来ればキューブを使いたくないんだから」


 ということで早速、さっき俺が見つけた保険金の契約について聞いてみる。

 少し警戒しながら恐る恐ると聞いてみる。


「あ、じゃあ心配事がひとつ。さっき、俺の名前の保険証明を見つけたんだが……。そのー、保険金殺人とか怖いんですが……」


 アイリスはしばらく俺の言う意味を理解してなかったようだが、俺に掛けた保険の事を思い出したようで、表情を変えた。

 そして、いきなりの大声。


「バカ言わないで! 私がお金のために人殺し!? そんな事をするくらいなら、私が自分の体を売って……! って、なに言わせてるのよ!」


「おい待て! 自分で言ったことで俺にスタンはやめっ――!」


 あまりにも理不尽ながら、再度の電撃拷問……!

 しかし、アイリスも我に返りスタンを止める。

 やばいな。すでに俺をスタンさせることが習慣となっている。


 俺がやっとの思いで起き上がろうとしてると、アイリスから無感情の声が発せられたの聞こえた。


「いいわよ――もうやって」

「――は?」


 それは一瞬の出来事だった。


「――ッ!!」


 声を上げるまもなく、何も理解しないまま視界が真っ白になる。

 頭に強い衝撃と痛みが走る。力を振り絞って振り返るといつの間にかに数人の男が立っていた。男たちはかなり巨大な魔法陣を展開しており、どれも対生体兵器用の特殊型だ。その後ろでアイリスはこちらを見つめながら腕を組んでる。


 状況なんてクソ食らえだ。そんなもんを考えるよりも早く二つ目の衝撃がまた全身を叩き上げた。意識が途絶える寸前につぶやく。


――このクソアマ。

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