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機械じかけの悪魔  作者: キョウカ
CHAPTER BOOT - 出会い編 -
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第八話 - 主人の悩み事

「どういう事なの? 私はそれを聞いてるんだけど?」


 アイリスは剣を突き上げ、ライルの顎をくいっとを持ち上げる。

 何も答えずに睨むライルをじっと見つめると、アイリスは飽きたかのようにライルを剣で振り払う。


「随分と無礼なことをしますね。私の護衛に」


 イルーナは声を張り上げてアイリスの眼の前に立つ。

 二人が睨み合う。


「そう、そういう事ね。自分じゃ勝てっこないから、護衛に報復してもらおうと考えたのね」


 アイリスがピシャリというと、イルーナは怒りで顔を真っ赤にする。

 しかし、何も言い返さない。もちろん、図星なのだから。


「理由はどうあれ。私の”護衛”への、この戦い方。私への侮辱と受け取ってもいい?」


 アイリスの一言で冷えきっていた生徒たちが口々に語りだす。


「あの生体兵器ってベルヴァルトの護衛かよ……」

「正気じゃないな……」

「敵そのものと過ごすとか……。耐えられないわよ」


 アイリスの言葉を聞くなり、イルーナがピョンピョン跳ねながら怒り狂いだした。

 二人とも、本当に仲が悪そうだ。


「侮辱ですってぇ? えぇ? あなたの護衛が弱っちいだけじゃない!」


「……どうとでも言えばいいわ。でも、その彼に一撃で気絶させられた貴女はどうなの?」


「はぁ?」


 イルーナが火でも吹く勢いで顔をさらに真っ赤にする。

 しかし、そんな彼女に目もくれてやらずにアイリスは踵を返した。

 相変わらず、イルーナはギャーギャー言っているが。


「行くわよ」


 一瞬何のことかわからなかったが、数秒して自分が呼ばれたことに気づく。

 地面に転がった剣を鞘に戻し、立ち上がる。俺の傷口はまだ完治してないため、熱気を帯びた白煙が全身から発せられていた。制服は既にボロボロで血まみれだが、仕方がない。


 ………お嬢様のメンツを潰してなければいいんだが。


 アイリスは一言も喋らず、自分の部屋に直行する。

 部屋に同行していいものか迷ったが………ドアを開けっ放しにされたので遠慮無くお邪魔した。



 今朝は、部屋の前までで、中には入れてはくれなかったが。意外と綺麗に整頓された部屋だった。

 正直、もっとゴミ屋敷を想像していた。性格が性格でアレですし……。


 アイリスは、ベットの上にどかっと座ると、足を組む。腕を組む。唇をキツく閉じる。目をキリッと鋭くする。

 ……よく見ると、少し頬も膨れてる。

 あぁ、これは「お し お き」タイムだ。暴力的な奴だ。


「レイン・サイフラ」


「はい!」


「うるさい」


「……はい」


 アイリスの眼は真剣そのものだったので、俺も背筋をぴんっと伸ばす。


「あなたのせいで私の名が汚れるところだったわ! それで言うべきことは?」


 アイリスは剣を少しだけチャキッと音を立てて半分抜く。

 ヤバイ。この子、ヤバイよ! こんな子の護衛とか嫌だよ!


「ほんっとうに! 本当に、ごめんなさい! だからそんな物騒な物をしまってください!」


 とりあえず死にたくないので、詳しく。出来るだけ詳しく、延々と言い訳をした。

 茶髪女子ことイルーナ・セイリアが急に泣き出したり、周りに俺のことを言いふらしたりなどだ。


「……もういいわよ。頭がいたいわ」


 俺がショボンと肩を落とすと、アイリスが愚痴をブツブツ言う。

 死んだ目で愚痴をブツブツ言っていた。怖い。


「まぁ、あなたが重度の常識知らずなのは分かったわ。そういうのは、自然と学ぶとして………」


 アイリスがチラッと俺と目を合わせる。


「なんで、あんなに弱かったの?」


 グサッと来た。

 しかし、それも事実かもしれない。

 そもそも、ライルはアイリスと同じように化け物級魔術師だったが、その声質が全く異なるように感じた。あんなのと初対面バッタリ戦えと言う事自体が無理難題だろう。


「私と戦った時は、結構互角だったじゃない。どうしてライルに負けたのよ?」


「俺は、背後からグサッと行くか、遠くからの狙い撃ちで敵を仕留めるタイプなんだよ。あんな、決闘みたいなのは苦手なんだよ」


「なにそれ? 苦手分野はカバーしないの?」


 俺だって、苦手分野はカバーしたいさ!

 答えに困っていると、アイリスが腰にかけた魔導石のケースに目が行く。


「そんな事より――ちょっと失礼」

「ひゃっ!」


 ふむふむ。アイリスの首裏にも魔法陣があるな。

 でも、ライルとの形は違う。そういえば、アイリスの魔導石はアメジストのような紫色だったが、ライルのは銀色か透明に近かったな。


「なぁ、聞きたい――って痛い!」


 殴られた。

 また、舌を噛んだ。ヒリヒリする。

 顔を上げると、アイリスが顔を真っ赤にして拳を振り上げていた。

 あ、もう一発来る。


「ちょっと! 掴まないでよ!」


 振り下げられた拳を受け止める。こんな、細い腕で何ができるのやら……。

 それよりも、あの漆黒のキューブでスタンリングを起動したほうがいいと思うんだがな。


「なんでそんなに怒るんだよ……。そんなことより、この魔導石は何種類あるんだ?」


「そ、そんなことより……?」


 アイリスが雷にでも撃たれたかのような衝撃的な顔をすると、顔をしかめる。

 『そんなことより』にショック受けたようだ。

 貴族のプライドなんてこんなものだ、と考えながらアイリスの返答を待つ。


「……正直、あなたを信用出来ない」


「俺、お前の護衛だぜ?」


「言ったけど、私は生体兵器が大っ嫌い。どうしても仲良くできなさそうなのよ」


 そう言うとアイリスはバッとベットに全身を広げる。

 制服がアイリスの身体に張り付いて、くびれがハッキリと浮かび出る。

 少し目のやりどころに困るのが、なんか悔しい。


「別に裏切らねぇよ。連合国に掴まって死ぬのは俺なんだから」


 アイリスの部屋を見渡しながら答える。

 高級そうな絨毯に高級そうな家具。高級そうなデスクに高級そうなランプ。

 部屋の全てを「高級」で揃えた有力貴族専用の部屋。さすがベルヴァルト家の令嬢だな。


「……どうして助けたの?」


「え? 何が?」


 アイリスは相変わらず仰向けの体制で天井を見つめながら言った。

 よく意味が分からず、聞き返す。


「一回目は街のチンピラ男が私を剣で叩き切ろうとした時。二回目はイルーナの攻撃魔法から。あなたは私を助けようとしたでしょう?」


「そりゃあ、無垢な少女を巻き込むわけにはいかないしな」


「でも二回目はどうして? あの時、あなたはもう私が学生兵だと知ったはずでしょう?」


 少しの間の沈黙。

 正直に言うと「まぁ、無闇に殺す必要もないし。ていうかなんか反射的に助けちゃったし。深い意味は無い」なんだが、これを言うとかなりの確率でぶん殴られそうなのでやめておく。


 ここは、無難にカッコイイ言葉を並べて印象アップに努めよう。


「お前を殺したくなか――」


「――あぁ、なるほど。流れで助けたのね」


 思わず「いや最後まで聞けよ!」と突っ込んでしまった。

 だめだ。アイリスは完璧に見抜いてる。俺の魂胆は完璧に見抜かれているようだ。


 しばらくアイリスは考え込むように天井を見上げている。俺は何をすれば分からずアイリスのことを見ていたが一向に彼女は天井を見上げたままだ。

 そして、アイリスは澄んだ瞳で俺の顔を見ると、急に上半身を起き上がらせた。


「この魔導石の名前は『アブレイム・ストーン』。あなた達、ノイズ・シリーズに対抗するために帝国政府が作り上げた最強のストーンよ」


「……主な効力は?」


「石によって違うわ――」


 何の気変わりか知らないが、アイリスは化け物級魔力総量の源であるアブレイム・ストーンに関して詳しく説明しだした。

 この石は高純度の魔導石に複雑な錬功作業を繰り返し、そして情報媒体鉱石のクリスタルを合成しているようだ。また、内部に独自の魔術回路を内蔵し強力な演算能力を可能にしている。


 そのため、魔法陣の発動を一瞬で行えるほどの高速処理ができる。

 また、マルチタスクとかそんなので複数の魔法陣を一度に出すことも可能ということだ。しかし、この石を使うにはかなりの技術と計算能力が必要だとか。


 それに身体も膨大な魔力に耐えられる体質でなければならない。

 そのため、このストーンを得るには「保持者ホルダー」の資格を取得する必要があるそうだ。また、学園側でも保持者ホルダーの体質を持つ一般臣民も入学させているそうだ。


 この石は、従来の魔導石のようにただ単純に魔力を供給したり補助演算するものではない。

 アブレイム・ストーンは魔術師の持つ魔術回路あるいは神経回路のリミッターを解除し、人体の限界以上の能力を引き出すそうだ。

 全ての能力を格段に向上させる恐ろしい魔導石だが、これには五種類あり、それぞれに特化した能力向上を行う。


「すると、その石の五種類全部を持っていれば無敵なのか?」


「そんなわけないでしょ?」


 アイリスは呆れたかのように説明を続ける。

 どうやら、アブレイム・ストーンの全種類を一人が使うことはできないそうだ。


 その理由だが、アブレイム・ストーンの能力向上率は非常に高い。

 そのため、元々高い能力をストーンでさらに向上させると、神経が焼き切れ、魔術回路がスタボロになるそうだ。最悪の場合――死ぬ。


 アブレイム・ストーンには五種類ある。


 パワータイプの「フラワー」は紫色

 スピードタイプの「グラス」は銀色

 魔力圧縮タイプの「シャイン」は金色

 情報処理タイプの「スカイ」は蒼色

 治癒タイプの「リーフ」は緑色


 ちなみに、フラワーをアイリスが使い。グラスのをライルが使用しているそうだ。

 

 アイリスは素早い攻撃と連続的な斬撃も繰り出せるが、パワーが足りない。

 よって、フラワーが適正と判断されたそうだ。


 ライルは強力な剣術とスキルを有している。しかし、隙の多い攻撃が多い。

 それをグラスの能力向上でクロックアップしてスピードを保っているそうだ。


 また魔導石から魔力供給を大量に受けた時、瞳の色が魔導石と一時的に同色になるそうだ。だから、アイリスが街でスキンヘッドとその子分たちに失神魔法を使った時、彼女の瞳は変色してたわけか。


 こうしてみると、彼らの使う「アブレイム・ストーン」はノイズ・シリーズよりもバリエーションに豊富で効率的だ。

 しかし未だに完成したものではないらしく、現行のアブレイム・ストーンも試作品段階だとか。

 研究会の目標は、全ての魔術師に扱える最強の魔導石だそうだ。


 だが、そんなのが実現したら連合軍もいよいよ革新的な生体兵器か新システムでも構築しないと、一気に敗走に転じてしてしまうな。


「――言えることは言ったわよ」


「あぁ、わかった。でもよく、その保持者ホルダーのテストに受かったな」


「え、えぇ。まぁね」


 アイリスは前髪を少しイジると、すぐに立ち上がる。


 今更だが、

 アイリスは見ていれば結構のべっぴんの部類なのに、この前のランチの時もそうだが友達と話している場面を見たことがない。

 やはり性格に難ありとかなのか? 人脈が足りないと、俺への利益も提供しにくくなると思うんだが。


「そういえば、イルーナの件もそうだけどさ。お前って友達少ないの?」


「な、なによ、いきなり! デリカシーないわけ?」


「この国で上り詰めるんだろ? 人脈は大事だと思うんだが」


 アイリスは顔を真っ赤にして、スカートの裾をぎゅぅと握りしめていた。

 チョロいな。


「つい一年前くらいまでは、他人は全員無視して一人で生きてきたから……」


「え、なんでだよ?」


「その……『私の復讐に友達なんかいらない』とか考えてて」


「へぇ、かなりイタイな。夜中になるとその頃を思い出して死にたくなったりしない? 枕に顔を埋めて足をバタバタ――いや、本当に失礼しました!」


 アイリスが真っ赤な顔でスタンリングのキューブを取り出すものだから、命の危険を感じ土下座しながら謝る。

 アイリスは人でも殺す勢いの目で俺を見下ろすと言い放つ。


「とにかく! あなたも所詮は護衛なの! 口出ししないで!」


「あ、はい――って! ちょっ!」


 怒鳴られたかと思えば、いきなり部屋の外に蹴りだされる。

 尻餅をついて上を見上げるとまさに「鬼」の顔をしたアイリスがいた。

 そしてドアを一気に閉じられる。


 ……追い出された。

 と呆然としてるとドアが少しだけ開きアイリスの瞳と目が合う。


「あなたの簡易紹介が明日早朝に寮の掲示板に貼られるわ。くれぐれも死なないようにね」


「は? どういう――」


 言い終わらないうちに閉じられた扉。

 女子寮の廊下でしばらくアイリスの言う意味を理解しようとする。

 どういうことか……。


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