罠
東京から1時間も電車で来れば着く小さな街である。人口は15万人ちょっとである。
その街に1軒の画廊がある。経営しているのは吉村と言う男である。妻はいるが子供はまだであった。吉村は43歳。妻は31歳であった。妻は公務員で役所に勤めていた。退職を勧めているが、吉村の画廊を手伝う気持ちは無いと言う。
事務員1人と、販売員2人でやっているが、バブルから半分以下に下がったものが今は少しづつ値上がりを始めた。中国からの需要があるからだ。吉村は販売員を募集した。2日後にスーツを着た女性が現われた。着こなしの良さ、そして洗練された美しさがあった。吉村は上等な客と思った。
「いらしゃいませ」
「その募集を見てきました」
「そうですか、こちらにどうぞ」
吉村は店の奥に案内した。事務室があり、53歳の女の事務員がいた。
「佐々木さん店番頼みます」
「御掛けになってください」
「失礼します」
「履歴書か何かお持ちですか」
女性は履歴書を出した。爪が綺麗に花のネイルがされていた。
「美大を卒業されているのですね」
「はい」
「学芸員はどちらでされていました?」
「短期間でしたのですがB美術館です」
吉村は採用と決めていたが少し話がしたかった。
これほどの女性が自分の店に来ることが信じられない。
「基本給は15万円です。手当が5万円くらい付きます。あとは売り上げの歩合が5~10パーセント。30万円くらいにはなるはずです」
「お給料はいくらでもいいのです。好きなお仕事ができるのですから」
「それは嬉しい」
「少しの間通わせていただきます」
「東京ですよね」
「このくらいの通勤時間沢山いるでしょう」
「そうか、ここから東京に行ってる方も多いですからね」
上田美佐子は実によく働いてくれた。美貌もあって展示会では彼女ばかりに客がついてしまう。前から居た2人の販売員の売上は落ちてしまった。上田はそんな先輩に売り上げを譲っていた。2人ともそれ以来彼女に一目置いた。
展示会の最後の日はどうしても後かたずけで遅くなる。上田は最終電車に乗り遅れてしまった。
「すみません電車に乗り遅れてしまいました。どこかホテル予約取れますか」
吉村に電話が入った。
「待っていて、迎えに行く」
まだ吉村は1人店に居た。
駅に着くと上田は直ぐに解った。彼女は兎に角よく目立つ。
吉村はクラクションを軽くはたいて合図した。駐車禁止である。
彼女はかけって来た。歩道の段差を降りるとき転んだ。吉村は慌てて車を降りた。彼女は立ち上がっていた。
「あわてなくて良かったのに、大丈夫か」
「はい」
とにかく車を出した。
吉村は馴染みのホテルに車を着けた。予約はしてないが顔で何とかなるはずである。最上階の701号室がとれた。
夜景が良く見える特別室である。一泊素泊まりで3万円である。ほとんど平日は空いている。吉村は帰りかけると
「社長さん少しだけお時間私に下さい」
「・・・・」
「お話したいことが」
吉村は部屋まで行くことにした。
「こんな二人だけになれる時間もう二度とないかもしれない・・・」
「何かその言い方へんだよ」
「私の事好きか嫌いで答えて」
「それは好きのほうだよ」
「私の事抱きたいか抱きたくないで答えて」
「僕には妻が居るんだよ」
「知っているわ。答えて」
「それは無理」
「その答えでいいわ」
上田は吉村にキスをした。
吉村は妖艶な彼女に誘われるままになっていた。気がつけば彼女のスーツをもぎ取っていた。
「何でも欲しいものがあれば言ってくれ」
「こうしているだけでいいの」
「君を離したくない。欲しいものを言ってくれないか、何でもいいから」
「え、あとて、頂くわ」
翌日、吉村はブランドの高級バックを持って店に入った。上田に渡すつもりであった。鍵を開けて店のなかに入ると、壁にかけてあった高額の絵が無くなっていた。1000万円近くの絵である。テーブルの上にメモが残されていた。絵遠慮なく頂きました。上田。
吉村はホテルで上田に鍵を預けた。警備保障の番号も教えていた。吉村は上田の頭の良さに脱帽した。
「え(絵)、あとて、頂くわ」
終