霊夢と魔理沙の幻想郷物語 ようこそ、とんでもな幻想郷へ編
これは、東方シリーズ本編とはまったく違う世界の幻想郷での霊夢や魔理沙達が繰り広げるドタバタな日常の物語
霊夢と魔理沙の幻想郷物語 ようこそ、とんでもな幻想郷へ編
〈幻想郷〉は今日もいい天気だった、澄み渡った青空の下を白と黒の服を身に纏った少女が箒にまたがり飛んでいた、霧雨魔理沙である。
特に目的があるわけではなく、あまりに陽気が良いので気まぐれで空の散歩としゃれ込んでいるのである。 あまりの心地よさに「ふぁ~~~」と思わず欠伸をしてしまった直後だった、不意に自分の周囲に影が差した。
「…………ん?……げっ!!?」
自分の更に上空を見上げた魔理沙は驚きに声を上げた、そこには体長十メートル前後の金色に輝く一体のドラゴンが悠然と飛行していた、いかに〈幻想郷〉と言ってもこのような生物が生息しているはずもなく、おそらく……いや、間違いなくどこか別の世界から迷い込んだに間違いない。
信じがたい話なのだが、こっちの〈幻想郷〉には外界どころか時折東方とはまったく関係のない世界の存在が紛れ込むのである。
「……おいおいおい……どうしろってんだよ!?」
数々の妖怪と大立ち回りを演じてきた魔理沙ではあるが流石にこんな竜と遭遇した経験はなく、とりあえず先制攻撃をするべきなのか、それともしばらく様子をみるべきなのかという判断すらつかなかった。
そうして魔理沙が迷っていると金竜は不意に首を下へと向けてきて魔理沙と目が合った、嫌な予感を自然と冷や汗が浮かぶ。 そしてその予感は正しく、金竜はカッと口を開いたかと思うとそこから真っ赤な火球が吐き出された。
「……なっ!?……うおっ!!!?」
素早く左に旋回して火球を回避する、彼女の身体と同じくらいの大きさにも見えたその火球は直撃すれば人間など一瞬で黒コゲになりそうな火力はあると思えぞっとなる魔理沙は、それでもすぐに気持ちを切り替えて《ニ八卦路》を取り出した。
「やりやがったな! 【マスタースパーク】っ!!!!!」
《ミニ八卦賞》から巨大ともいえる光芒がレーザー・ビームとなって放たれた、だが勢いに任せてまともに照準もつけてなかったのが災いしレーザーは金竜の僅かに右を通過した。
「外れたっ!!?」
金竜は【マスタースパーク】の目もくらみそうな光に驚愕した顔をしたように見えたが、すぐに自らを奮い立たせるかのような咆哮を上げると今度は火球の三連撃を放ってきた。 魔理沙は急加速で斜線上から逃れると更に急上昇をかけた、彼女の視界の金竜があっという間に大きくなる。
「これだけ近づけば外さないぜっ!! マスタ……何っ!!!?」
金竜が巨体を勢い良く縦に一回転させその太く長い尻尾が魔理沙を襲ったのをすんでのところで回避出来たのは運が良かったからだ、あんなものを食らえば下手をすれば全身の骨が砕けてしまうだろうと思わせる程の攻撃だった。
「尻尾のサマーソルトっ!?」
叫びながら一旦その場を離脱し金竜との距離を数十メートルまで開くとターンし再び敵と向き合う形をとる、予想以上の強敵だが一度戦闘を開始した以上は撤退という言葉は魔理沙にはない。
「行くぜっ!!!」
高速で動き回る空中戦においては数十メートルなど至近距離に等しい、僅か数秒で魔理沙と金竜は数メートルの間隔を開けてすれ違い、そのすれ違いざまに再び両者の目が合った。 互いに不敵な笑みを浮かべあうその様子はさながら互いに宿敵と認め合ったとでも言うかのようであり、そこから両者は激しいドッグ・ファイトを展開していくのであった。
その金の竜と白黒の魔女の戦いは当然地上からも見えた。
〈博麗神社〉の境内ではその主である巫女、博麗霊夢が賽銭箱の中を確認しその結果に大きく溜息を吐いてから上空の異変に気がつき空を見上げて呆れたように呟く。
「……何やってんのよ、魔理沙は……?」
自分もあの場に向かいひと暴れしても良いが、妖怪ならともかくモンスター退治は専門ではないし、何より今日はかったるく戦おうという気には霊夢はなれなかった。 だからすぐに再び賽銭箱へと向き直り、箱の下の隙間にお金が落ちていないかなとしゃがむのだった。
「……ねえ、咲夜。 今更だけど聞いていい?」
〈紅魔館〉の主であるレミリア・スカーレットは自室のソファーに憮然とした顔で座りながら、背後の小さなテーブルで紅茶の用意をしているメイドの十六咲夜に向かい言うと、彼女は「はい、なんでしょう?」と首をかしげた。
「……これってテレビよね?」
「……はい、そうですよお嬢様?」
簡潔な主の問いに咲夜も簡潔に答えると、レミリアは「そうじゃないでしょうっ!!!!」と大声を出して立ち上がった。 その彼女の感情を表すかのように背中の黒い翼がピーンと立つのを昨夜は可愛いなとちょっとだけ思った。
「いい! ここは〈幻想郷〉なのよ!? 時代設定的には明治初期なわけよ、どう考えてもおかしいでしょう?……ええ、百歩譲ってテレビは良いとして、何で薄型大画面の液晶で地デジチューナー内蔵で、しかもそれが何でちゃんと映ってるのよっ!! あんたはおかしいとか思わないわけ咲夜!!?」
「……はぁ? そう申されましても……」
レミリアは一気にまくし立ててから、咲夜がお盆に載せて運んできた紅茶を一気に飲み干したのを咲夜は熱くないのだろうかと呆然と見つめた。
「現実にここにあるものはあるものですし、映るものは映るのですので仕方ないのではないのですか?」
「あんたは本当にそれでいいのか?」
何でもない事のように言うメイドをレミリアはジト目で睨みつけた、何だか間違っているのは自分の方じゃないかという気がしてくるのは全力で否定したいと思った。
「まあ、それはよろしいとして……」
「いいんかいっ!!!!」
「私はそろそろ妹様のお食事の用意を致しませんと」
「妹様……フランドールの?」
レミリア・スカーレットの実の妹のフランドール・スカーレットは紅魔館の地下に部屋を持ち七百年もそこでほとんど外に出ない生活を送っている、幽閉されていたという噂も世間ではあるらしいが、少なくとも幻想郷物語(この世界)ではそれは違っていた。
そのフランドールの姿をレミリアは一週間以上も見ていない事に気がつき、咲夜に「今あの子はどうしているの?」と尋ねた。
「はい、先週に大型のアップ・デートがあったとかおっしゃっていましたので……おそらくレべリングかレア・アイテム収集に没頭しているのではないかと……」
「……はぁ」
レミリアは大袈裟に溜息を吐いた。
遡ること七百余年前、偶然にコンピュータ・ゲームに興味を持ち手を出したフランドールはそれに病的なまでにハマッてしまい、それが原因の引き篭もり生活になったというのがこの世界での真相である、最近ではオンライン・ゲームなるものに手を出しているらしい。
困ったものとは思うが姉と言えど妹の趣味に口を出しすぎるのもどうかと思いきつくは言えないレミリアである。
「とは言え、確かにお部屋に引き篭もりは健康に良くないですよねぇ……お嬢様もですが偶にはお日様に当たりませんと……」
「余計に健康に悪いわっ!! 私ら吸血鬼よ咲夜!!」
怒鳴り声でツッコミながら、この子って本編でもこんなにボケボケだっけか?と思いつつも、最近になって東方に片足を突っ込んだ程度のアホ文士が書けばこうもなるかと考え、どこか諦めた気持ちで納得するのだった。
「……お姉様の馬鹿っ!!!!」
深夜、フランドールの部屋の前を通りかかったレミリアは部屋の中からそんな怒鳴り声が聞こえたのにぎょっとなって足を止めた。
「まったくもうっ!!! さっさとやられちゃってよぉっ!!!!……って、もうっ! 本当に最低ねっ!!!!!」
次々と聞こえてくる自分に対しての罵声にわけが分からないという顔をするレミリアは、そっとドアノブを捻ってみて鍵が掛かっていないのが分かると、ゆっくりと静かにそのドアを十センチ程開き覗いて見るとフランドールは自分の机の上のデスクトップのパソコンに向かってギャーギャーと騒いでいるようだった。
「…………って、あれは……」
妹の身体の向こうにちらりと見えるモニターに映るあの凄い数の弾幕は、間違いようもない東方シリーズ特有の弾幕であり聞こえてくるBGMは”亡き王女の為のセプテット”である事からおそらくは〈東方紅魔郷〉をプレイ中なのだろうとレミリアには分かった。
とりあえず、妹の罵声は直接的に自分に対してのものでないのは分かったがどうにも釈然としなかった。
今日も今日でぽかぽか陽気の〈幻想郷〉の空を、霧雨魔理沙は必死の形相で全速飛行していた。
「……だから何でこんな奴が〈幻想郷〉に迷い込んでくんだよぉぉぉおおおおおおおっ!!!!」
箒に乗った魔理沙の背後から彼女に負けないくらいの速度で追いかけてくるのは、昨日遭遇し何とか倒した金竜とそっくりな姿をした銀色の竜だった。 その竜はまるで仲間の仇と言わんばかりに次々と紅蓮の火球を吐き出してくる。
「ひっ!?……ら、ランダム回避っ!!!!」
わざと不規則に動く事で火球をかわしていく魔理沙は、これでは【マスタースパーク】を撃つ隙もないと思え焦りを覚える。 とにかく息切れという言葉を知らないかのような出鱈目な連射である。
「くっ!!」
直感的な思いつきで魔理沙は急制動とバレル・ロールで銀竜の背後に回りこんでみせるという事をした、そして素早く《ミニ八卦路》を翳す。
「【マスタースパーク】っっっ!!!!!!」
高出力の眩しい光芒は、しかし昨日の金竜同様に狙いをしっかり定めなかったせいで外れてしまう。 「ちぃぃぃいいいいいっ!!」と舌打ちしながら急上昇をかける魔理沙に下から火球が狙ってくる。
一発、二発と回避しながら、魔理沙は悲鳴を上げるように絶叫していた。
「くぅぅぅうううううっ!!! 誰かこいつを何とかしてくれよぉぉおおおおおおおおおっっっ!!!!!」
その魔理沙の叫びは流石に聞こえないが、〈博麗神社〉の屋根の上でのんびりと寝そべっていた霊夢にはその戦いはしっかりと見えていたが、やはり助けに行こうという気にはなれずに「ふぁ~~~~」と大きな欠伸をした。
魔理沙なら多分大丈夫だろうという判断もないではないが、こんないい陽気の日に専門外のモンスター退治などするのはめんどくさいという思いのほうが大きい霊夢である。
「……それにしても、このアホ文士もいきなりやらかしたわねぇ……」
大して興味もなさそうに呟く、どうせこんなものを読むような物好きはいないだろうと思ったにせよ、東方二次初挑戦にしてこれはないだろうと霊夢は呆れている。 まあ、別にあのアホ文士がどうなろうと知ったこっちゃないんだけどねと小さく呟きながらゆっくりと目を閉じて夢の世界へと落ちていく霊夢だった……。