接近しました!
雪帆が女の子だと知って数ヶ月が経ち、わたし達はフツーに仲のいい友達になっていた。
「あれ?竹刀?雪帆って剣道部だったの?」
「うん。今年入ったばっかり。去年までは入ってなかったけど」
意外な事実。運動部は運動部でもてっきりバスケ部とか球技系の部活だと思っていたから。
「へぇー。ねぇ素振りしてみて!」
「素振り?いいよ」
雪帆は袋から竹刀を取り出し、構えた。そして、竹刀を振った。というか、面を叩くように竹刀を振り下ろした。
「か、か……かっこいいぃぃぃっ!!雪帆めちゃくちゃかっこいいっ!」
「いや……そこまでかっこよくないし!いつも練習してることだから!」
「だとしてもすっごくかっこいいっ!」
ヤバいヤバい!ホントにかっこよすぎるよ!
「あっ試しに素振りしてみる?」
「えっ!?いいの!?」
「もちろん。はい」
雪帆があたしに竹刀を手渡した。
「竹刀を握るとき左手が下になるようにするんだ」
「こ、こう……?」
雪帆に言われたように左手を下にして竹刀を握った。
「そうそう。で、竹刀を上に上げて……」
「上げて……」
「勢いよく下ろす!」
「下ろす!」
ヒュッと空気を切る音。何気にこの音が好きかもなんてことを思った。
「そうそう。乃愛、結構かっこよかったよ」
「本当に?」
「うん」
雪帆に……雪帆に……
かっこいいって言われたぁぁぁぁ!
雪帆に褒められたぁぁぁぁ!
「そうそう。姿勢なんだけど……」
雪帆が後ろからわたしに抱きつくように腕を前に回した。
「竹刀の持ち方はいいんだけど姿勢が正しくないかな……?」
そう言って前にきた手をわたしの手に重ねる。
ゆ、ゆ、雪帆の手が……わたしの手の上に……!心臓が……心臓がぁぁ……!
「背筋はスッと伸ばしてもっと――って乃愛大丈夫?さっきから固まってるけど……」
「へっ!?あっ大丈夫!なんでもないよ!」
雪帆と接近しすぎて興奮しました――とは口が裂けても言えません。そんなこと言って雪帆に引かれるのは嫌。せっかく友達になれたのにその友情が壊れるなんて、知り合いに戻ってしまうなんて嫌。そうなってしまうのが怖い。
「そう、ならよかった」
雪帆は後ろからわたしに向かって微笑んだ。その笑顔がとにかく素敵で思わずわたしも笑顔になる。
「乃愛って姿勢いいんだね。背筋がスッと伸びていて胸を張って堂々として」
「そ、そうかな?」
「僕も姿勢よくしようと努力してるんだけどなかなかよくならなくて……。乃愛がうらやましいよ」
雪帆がわたしのこと……うらやましいと思ってるの?わたしは逆に雪帆がうらやましいと思ってるよ。
「わ、わたしは雪帆がうらやましいよ!」
「……えっ?」
驚いた顔でわたしを見た雪帆はわたしから離れて正面に立った。
「だって雪帆はかっこよくて優しくて頭脳明晰で運動神経もよくて……。わたしはダメダメだからなんでも出来る雪帆がうらやましいよ……」
「乃愛……」
雪帆がわたしの両手を掴んだ。
「乃愛はダメダメじゃない。乃愛は僕が持ってないものを持ってるじゃないか」
「雪帆が持ってないもの?」
「まず女の子らしさだよね。乃愛は女の子らしくてすごく可愛い」
雪帆は笑いながら言った。雪帆は気づいてるのかな?目が笑ってないことに。
雪帆に可愛いって言われたことは純粋に嬉しい。でも雪帆の目が笑ってないことに気づいてしまったからあんまり嬉しいとは思えなくなってしまった。
「あとは……真っ直ぐで正直でみんなに好かれやすいところとか」
「そんな……!わたしはそんな真っ直ぐでも正直でもましてや好かれやすくもないよ」
「うんうん。乃愛や乃愛の周りの人を見れば分かるよ」
雪帆の洞察力ってすごい……
まだ数ヶ月しか一緒にいないのに。
「でもそしたら雪帆だって……」
「僕とよく一緒にいる人のこと?それは違うんだ」
「違う……?」
「あの人達はみな僕を男と間違って告白してきた人達なんだ」
「……えっ?」