名前で呼び合いました!
「っ……ん?あ、あれ……?」
目を覚ますと白い天井が見えた。窓から射し込む光。風が吹く度揺れるクリーム色のカーテン。わたしは保健室のベッドの上で眠っていた。
「なんで……ここに?」
頭に手をあて必死に思い出す。
確かわたしはグラウンドにいたんだ。そこで憧れの愛桜さんからアドレスを聞き、交換して、その直後ある男子が愛桜さんに告白(結局断られてたけど)、愛桜さんが実は女の子だったことを知って…………
そうだよ!たった今思い出した!わたしがずっと憧れてた愛桜さんは男じゃなくて女の子だったことを!
やっとここに到るまでの経緯を思い出し、ベッドから身体を起こした。そこで見たもの。それはすぐそばにある愛桜さんの寝顔。愛桜さんがベッドに突っ伏して寝ていたのだ。
「どうして愛桜さんが……?」
ここで寝ているのだろう……。そんな疑問を無理矢理しまい込み、愛桜さんを見つめる。
すぅーと寝息を立て、眠っている愛桜さん。
ひゃー……。寝顔可愛い……。まつげ長ーい……。
やっぱり……かっこいいっ!同性と分かっていても惚れてしまうっ!現にわたしは同性だと気づかず惹かれてしまったが。
「ん……あ、よかった。目が覚めたんだね。なかなか目を覚まさないから心配したよ」
突然、愛桜さんが目を覚まし、目が合った。思わず身体が飛び跳ねそうになった。心臓は飛び跳ねたが。
「心配かけてごめんね……愛桜さんはどうしてここに?」
「やっぱり倒れてからの記憶がないんだね。僕が乃愛を保健室まで運んだんだよ。多分熱中症だねって先生は言ってたけど」
愛桜さんがわたしをここまで運んでくれたんだ。嬉しい……。
でもね、愛桜さん。わたしが倒れた原因は多分、いや絶対と言っていい。愛桜さんが“女の子”と知り、驚きの余り倒れた――これが本当の原因だろう。もちろん、そんなことを本人に言ったらどう思われるかは分からない。
「あっ……わたし、重くなかった……?」
「うん。軽い軽い!もう少し食べないと栄養失調で倒れるよ」
愛桜さんは少し怒った顔でからかう様にわたしに言った。愛桜さんって心配性だなぁ。なんかお姉ちゃんみたい……
「ありがとう愛桜さん」
「いえいえ。あ、僕のことは名前で呼んでいいよ!苗字で呼ばれるのあまり好きじゃないんだ……」
「そうなんだ……。じゃあこれから雪帆って呼ぶね!」
名前で呼ぶだけなのにこの緊張感。まだ心の奥底では惹かれているのかな……。ってそんなことあってはならない!愛……じゃなくて雪帆、は正真正銘女の子なんだから!わたし、GLではないよ!?
「うん!僕も乃愛って呼ぶから!まぁもうさっきから勝手に呼んじゃってるけど」
雪帆は無邪気に笑いながら言った。その無邪気な笑顔も素敵っ!
……なんて思ってるわたしは可笑しいかな?
「……乃愛ってころころ表情が変わるね」
「えっ!?本当!?」
雪帆に言われるまで全然気づかなかった……。というか自覚してなかった。
「本当。笑ったりへこんだりしてる。……ぷっ、あははは!ほらまた!」
雪帆は吹き出して笑った。
「なっ!どうしてそんな笑うのー!」
「だって……あははは!もう笑わせないでよー」
笑わせてないし!雪帆が笑い上戸なだけじゃない!
雪帆の笑いが止まったのはそれからしばらく経ったあとだった。