遂に嵐がきました!
雪帆の身体からはただならぬオーラが放たれている。多分怒りによるものだろう。
「なぁ愛桜。どうして俺を見損なったんだよ?」
「言わなきゃ分かんないの?」
恐ろしく低い声。こんなに低い声聞いたことない。雪帆がこんなに低い声を出せるとは思わなかった。それだけ怒りの感情を抑えられなかったのだろうか。
「橘くんはうじうじしすぎなんだよ!乃愛が男苦手だから諦めて他の女を好きになる?ふざけないでよ!人を好きになることは簡単じゃないの!そう簡単に他の人を好きになれるわけないでしょ!それに……それにそんなことをするより先に乃愛に自分の気持ちを伝えてればよかったのに!なんで余計なことしたの?本当に好きな女じゃないから傷ついてもいいとか思ったの?最低だよ!橘くんは!」
雪帆が叫んでいる。でもその目は少し潤んでいてうっすらと涙が浮かんでいた。ただ叫んでいるわけではない。泣き叫んでいるんだ。
「お、おい……なんで愛桜が泣きながら大声上げてるんだよ……」
「遥奈は、遥奈は橘くんと付き合えて嬉しそうな顔をしてた。幸せそうな顔をしてたの!本当にこの子は橘くんが好きなんだな、応援してあげないとなってずっと思ってた!なのに……橘くんはそんな遥奈の気持ちをもてあそんだ!遥奈は本当に橘くんが好きなのに!」
一瞬胸が痛んだ。雪帆が泣き叫んでいたのはわたしのためじゃなくて遥奈のためだったから。ちょっと悲しかった。
でも、橘くんや雪帆の話を聞いていると遥奈がどれだけ一途だったのかよく分かる。身代わりでもいいからって付き合って、身代わりだと分かっているのに幸せそうで……。
そうなると雪帆が遥奈のことで涙を流すのは当然。それに比べてわたしはひどい人だ。遥奈より雪帆を優先にして勝手に悲しんで。
自分が恥ずかしい。
だからけじめをつけなきゃ。橘くんにも雪帆にも遥奈にも。そして、わたし自身にも。
「――雪帆は本当に遥奈が好きなんだね」
「えっ?」
雪帆の目から流れ落ちる涙をそっと拭う。
「わたしも遥奈が好き。だからけじめをつけなきゃね!」
「な、なにが……?」
雪帆はいまいち状況を理解していないらしい。でも大丈夫。すぐに分かるから。
くるりと回って橘くんの方を向く。
「そういうことなの。橘くん」
「はっ?なにが?」
どうやら橘くんもいまいち状況を理解していないらしい。それはそれで好都合、かな?
「女を泣かせないって言ったよね?でも雪帆は泣いたよ?遥奈のために。そして遥奈も内心傷ついてるはず」
「……あぁ。確かにそうかもしれないな。愛桜が泣くくらいだし」
「だからわたし、橘くんとは付き合えない!」
わたしはそうはっきりと宣言した。
「な、なんでだよ!如月さんの男嫌いなら俺が――」
「男嫌いなんてどうでもいい」
『はぃ?』
雪帆も橘くんも目を丸くした。そんなに驚くことかな?そもそも弟嫌いなんて治すつもりないんだよね……。異性より同性の方が大丈夫だし!それに……。
「男嫌いを治すより先にわたしにはやらなきゃいけないことがあるし!」
「やらなきゃいけないこと……?」
わたしがやらなきゃいけないことはただ1つ。それは……。
遥奈に悲しい想いをさせた人に一発ガツンと言うこと。
「遥奈の代わりに言わせてもらうね。橘くん」
「あ、あぁ……」
ゆっくりと深呼吸をして心を落ち着かせる。そして……。
「女の子に悲しい想いをさせるなんて、許さない!」
「……はぃ?」
「の、乃愛……?」
予想外の言葉に2人は唖然としている。でもわたしはそんなのお構いなしに言葉を続ける。
「そして女の子を泣かせるなんてもっと許さない!」
「だから、なんでそんなこと……」
なんで?理由なんて決まってるよ。
「遥奈と雪帆はわたしの大切な友達だから!大好きな友達だから!そんな2人が悲しむようなことをする人がいればわたしはその人を許しません!」
「乃愛……」
雪帆はあたしににっこりと微笑み、あたしに続けて橘くんに言う。
「そうだよ橘くん。遥奈を傷つけたのは許さない。それに乃愛に無理やり迫ったことも。僕は君を許さないよ、橘くん」
『女の子を泣かせるなんて絶対許さないからね!』
とわたしと雪帆は声を揃えて言った。




