【J】臨時職務
「ねー、ねー、団長~。1回休憩しましょうよー。ペースが速いですよー?」
「休憩地まであと少しだから黙って付いて来い。」
「えー。……はーい。」
一体誰のせいで付き合っていると思ってやがる。歩くのが速いとか、休みたいと連発する割に全く呼吸が乱れていないのは気のせいか!? 睨めば怖いと言いつつも怯えないのはありがたいと言えばありがたいが。
肩越しに視線を送れば、疲れたーと全身で言っているような歩き方で、それなのに呼吸は乱れていないのがわかる。……ますます得体のしれないやつだな。
いっそ、置いて行こうかと思うがこの古代遺跡への道は一部分がわかりずらい。中に入ったら入ったで一筋縄じゃいかない気がするが(何せステラが関わると全てそうなると確信している) 一応コイツは一般人だ。無下にもできないから性質が悪い。そもそもなんで俺がコイツを連れて歩いているかと言えば昨夜の飲み会が原因だ。
フェイトがいらん一言を口にした瞬間、波が引くようなピッタリのタイミングで部下達がさり気なく距離をとる。危険を感じたら間合いを取れ、という指導はしっかり身についているようだ。それよりコイツ、どうしてくれよう。毎回、毎回……。
「ジェイド、とっておきの飲む?景気良く出すわよぉ……フェイトが払えないって言ったらノアの給料から差っ引くから安心してちょうだい。」
「ええ!? ちょ、ステラさん!? 俺はつまり、魅力あり過ぎる人だから恐れ多いと言いたかっただけで!!」
「ええええ!?ちょ、ちょっとステラ!?僕にも怒ってる!?」
「お前、同意してただろう。……再現してやろうか?」
おや?と記憶を辿るように黙ったフェイトが笑ったまま硬直した。言い訳にしてはうまく返したノアと絶体絶命のフェイトを楽しそうに見ているステラ。酒場に似つかわしくない異常な静寂が当分続くかと思われたその時、ステラがにっこりと微笑った。そう、とても無邪気に、心底楽しそうに。……何故か凄まじい寒気が。
「ちょうど誰かに頼みたかったのよねー。ノア?」
「……なんなりとお申し付けください。」
全力で目を逸らしながら従順な返事をする様子にますます唇を吊り上げるステラ。ますます距離を取る部下達。さしずめ俺の周囲はクレーターというところか。しかし、いつも思うが人にちょっかいをかけるときは心底楽しそうで輝くよな、この女は。
「お迎えに行ってほしいのよ、うちの可愛いメンバーを。風の精霊でメイっていうの、可愛いわよー。」
「契約を結んでいるんですか?」
「違うわ。仲良しなだけよ。私達の仲の良さにジェイドも妬いてくれるくらい。」
「馬鹿を言うな!……騒々しくてうんざりしているだけだ。」
まあ、と口だけで言い、今ちょうど魔素の補充のために古代遺跡の地下で眠っている旨を説明すると唐突に指がビシッと突き出された。
「なんだ、その指は。」
「一緒に行ってちょうだい。メイはノアを知らないし、ノアも道に不慣れでしょう?」
「フェイトを連れて行けばいいだろう。」
「あら……いいのかしらぁ? フェイトが一緒だとまたあれこれ吹き込まれて困るんじゃないかって心配してあげたのに。」
やっぱり厄介事しか持って来ねぇ、この女……っっ。確かにさっきのフェイトとのやり取りを見ていても妙な意気投合しやすい気がするのも事実。
「部下の不始末は、上司がとる……っていうじゃない?傷心の私の気持ちを汲んでくれないかしら?」
見た目と仕草だけは傷心の淑女。だがその目は「なんだか楽しそうだから引き受けて?」と言わんばかりに笑っていた。これを断れば更なる面倒事が持ちこまれる。おそらく確実に。そう踏んだ俺はフェイトにさらに高い酒を全員に奢らせ、仕事の山を押し付けたうえで引き受けたというわけだ。王には臨時の職務として許可を取った。
「団長~、休憩地って、」
「やかましい!」
何となくだが、コイツに取り繕うのは無駄な気がする。反射的に怒鳴って、どっと疲れたように俺はため息をついた。