episode.6
「さて、説明してもらおうか。」
優真と杏奈は学校の屋上にきていた。
昼休みには屋上も開放されるため、天気のいい日はここで昼食を取る生徒も少なくない。今日も昨日に引き続き天気が良く、昼食を取りながら雑談する生徒が至る所に座っていた。
昨日の戦闘の後、優真の説明によって誤解が解けた二人は、翌日に杏奈が詳しい話をすることを約束し一旦別れた。派手に戦闘していたため、誰かがくる可能性が否定できないからだ。
二人は屋上にある貯水タンクの裏側へと移動した。ここは人があまり来ないため、落ち着いて話ができる。
「GRANTとは一体何だ?なんであんたみたいな高校生が、そんなものに所属しているんだ?」
「・・・・」
一般人に話せる内容ではないので話したくない。しかし、話さなければいけない。そんな状況に、杏奈は膨れ顔で優真を睨みながら、昨日の別れ際を思い返した。
ーーー
空き地での戦闘の後、帰り支度をしていた優真が、振り返って杏奈に告げた。
「明日、洗いざらい説明してもらうからな。」
「説明って、何をよ。」
一瞬優真の笑顔に見とれてしまった杏奈は、動揺を隠すように不機嫌な顔で尋ねる。
「全部だよ。あんたが何者で、あんたが所属するGRANTっていうのが何か。あんたの能力や”能力者”とは何か。そして今・・・この街で何が起きているか。」
「それは、一般人には話せないわ。」
杏奈は即答で拒否を示した。すると優真は飽きれたように下を向いて溜息をはいた。
「やっと一般人と認めてくれたのは嬉しいが、もう部外者ではない。あんたの能力をこの目で見てしまっているからな。」
そう一方的に答えると、優真は雑木林の中へと歩きだした。
「ちょ、ちょっと!それはそうかもしれないけど、この話は国家機密よ!!簡単に話せないわ。」
そんな優真を杏奈は慌てて引きとめようとするが、優真再度振り返り、言い放った。
「今日あったこと、あんたの能力や、おれを犯人と間違えて襲撃したこと。それを誰かに話されたら困るだろ?」
悪びれた様子もなくしれっと脅迫する優真に、杏奈は絶句した。
「・・・そのセリフは悪党のセリフよ。」
「悪党で結構。じゃあ、明日昼休みに屋上で。」
そう言い残すと、今度こそ優真は雑木林の中へ消えていった。
杏奈は暫くの間呆然と、優真が去った後を眺めていた。
ーーー
「よっぽどバラされたいみたいだな。」
一向に話し出さない杏奈に痺れを切らし、優真は再度催促した。
「わかったわよ。」
昨日のことを回想していた杏奈は、改めて腹がたってきたが、優真に急かされて渋々説明を始めた。
「”GRANT”は、日本政府の直属組織で、特殊犯罪対策チームとして設立されたわ。」
”GRANT”(グラント)とは、近年増加傾向にある、異常犯罪対策組織として、日本政府政府により極秘裏に設立された組織にである。通常の警察では対象できないような事件を担当する。
「今回の事件が、それにあたるということか。」
「ええ、そうよ。もう既に何件も事件が発生してしまっているけど、今だに犯行の手口や凶器すら不明のまま。途方に暮れた警察から、私達に捜査依頼があったわ。」
このままではまた新たな犠牲者が出てしまう。これ以上の被害拡大を防ぐために、GRANTのメンバーである杏奈がこの街に派遣された。
「でも、高校生の私が学校も通わずにうろちょろしていたら怪しまれるし。それに意外かもしれないけど、学校っていう場所は、その街の情報が集まりやすい場所なの。噂話に敏感な年頃の子達が集まる場所だから。」
なるほど、と優真は妙に納得した。確かに高校生は噂話が好きな上に、色々なことに敏感である。また、親の話していることも話題に上がったりするので、時として意外な情報が入手できるのだろう。
「そこからは昨日話した通りよ。私の波動に反応したあなたを、犯人だと思い込んじゃったわけ。」
杏奈は時折吹き抜ける風に揺れるスカートの裾を抑えながら、そう話した。
「なるほど、概ね理解した。だが、今の話は核心ではないはずだ。”能力者”という、重要なキーワードが抜けている。」
優真は昨日の杏奈の能力を思い返しながら、話を続けた。
「昨日、今回の事件現場から能力者の波動を感じたと言っていたな。GRANTのメンバーであるあんたが派遣されたのは、こっちがメインの理由なんじゃないのか?」
優真の言葉に、杏奈は驚いた表情を浮かべた。しかしそんな杏奈の様子を気にせず、優真はさらに言葉を続ける。
「GRANTは特殊犯罪対策の組織と言っているが、本当は能力者対策の組織だな?」
杏奈は黙ったまま、優真を見ている。
「もっと言えば、今回の事件についても、ある程度まで犯人と絞り込めているはずだ。そうだな、恐らく・・・」
優真は一旦言葉を切ると、真っ直ぐ杏奈を見据えた。
「この学校、星稜北高校の生徒に、今回の事件の犯人がいる。そうだな?」
優真は確認の為に、最後は疑問形としたが、ほぼ間違いないと確信していた。
さてさて、ようやく6話まできました。現時点ではまだまだ謎に包まれている状況ですが、これからどんどん進展していきます。
引き続き、「Next」を御贔屓ください。