episode.3
時期外れの転校生という臨時イベントがあったものの、その後は変わりない日常が続いていた。
しかし・・・
「不機嫌そうだな。」
校庭の端の芝生に座り込み昼食を食べていた健司は、残り一口となったカレーパンを口に放り込みながら言った。
「まぁ、な。」
ここ数日、何時にも増して優真の口数が少なかった。
「視線を感じる?」
「ああ、学校でも学校外でも、なんていうか監視されてるような視線を感じるんだよ。」
優真が不機嫌だった原因は、最近感じている妙な視線のせいだ。
「モテる男はつらいね〜。可愛い女の子からのストーカーですか。」
茶化すように健司が言った。
「笑い事じゃねぇよ。それに女の子とは言ってない。」
優真は盛大に溜息をついた。
最初はほんのちょっとの違和感だった。それが日に日に強くなり、現在では明らかに監視されているような視線を感じるようになっていた。
「でも学校にいても感じるってことは、うちの学校の生徒だろ。注意してれば誰だがわかるんじゃねーの?」
「まぁ・・そうなんだけどな。」
鋭い健司の発言に、優真は言葉に濁した。そして、 健司に気付かれないよう小さくため息をつき、少し冷めてしまったコンビニ弁当をかきこんだ。
ーーー
「ここ数日の事件に伴い、しばらくの期間部活動は自粛し、集団下校とする。放課後は寄り道せず、速やかに帰るように。」
終業のホームルームでの担任の磯崎のセリフに、教室中がブーイングに包まれた。
「文句をいうな。気持ちはわかるが、実際に人が亡くなってるんだ。何かあってからじゃ遅いんだぞ。」
磯崎の話は至極正論で、みな不満げな顔を残しながらも、静かになった。
「いよいよこんな事態になったか。」
横向きに座っている健司が、優真のほうを向いて言った。
「当然といえば当然だな。むしろ対応としては遅かったんじゃないか。」
二ヶ月で5人も人が殺されているわけである。この位の対応はおかしくない。
「サッカー部はどうするんだ?大会が近いんだろ?」
優真は健司に尋ねた。健司が所属するサッカー部は夏休みに県大会を控えていた。いまは大会に向けて最後の追い込みをしているところである。
「わかんねーな。今日部活でミーティングがあるから、そこでなんか言われるだろ。」
「そうか。気をつけて帰れよ。」
「ああ、マネージャーだけは守らないとな。しっかり送って帰るよ。」
その言葉に優真はサッカー部のマネージャーの顔を思い出そうとした。確か同じ一年生で、可愛らしい女の子だった。その子のおかげで、今年は新入部員が多く入ったとか。
「それだと逆に、そのマネージャーの貞操が心配だな。」
「・・・なぁ、なんか優真に悪いことしたか?」
優真の容赦ないツッコミに、健司はガクッと項垂れた。
ーーー
(またか・・)
放課後、帰り道で例の視線を感じた。
健司は予定通りサッカー部のミーティングに参加しており、そんなに仲が良くないクラスメートたちと帰る気にもなれなかったので、集団下校の輪から外れて、優真は一人で帰っている。
( 家までついて来るんじゃないよな・・・)
どこにいるか正確にはわからないが、明らかに尾行されている気配があった。
昔、“とある人“に古武術のようなものを習っていたため、優真は気配に対して敏感だった。
さりげなく後ろを振り返る。
学校から駅に向かう生徒たち、犬の散歩をしているおばさん、子連れのお姉さん。住宅街の一角の風景は、いつもと変わらないものだった。
すぅと息を吸うと、突然優真は走り出した。
住宅の間の狭い路地を抜け、右へ左へと駆け抜ける。
優真は足には自信があった。人の間をすり抜けながら、かなりのスピードで街を疾走する。しかしそれにも関わらず、優真を追いかけるように視線はつきまとってきた。
それどころか、今までの探る様な視線から、殺気が篭った、突き刺さる様な視線へと変わっていた。
(振り切れないか。この展開は良くないな・・・)
夕方とはいえ、夏真っ盛りのこの季節では辺りはまだまだ明るい。いきなり物騒なことは起こらないだろうと高を括っていたが、優真に突き刺さる視線は、そのような甘い考えを払拭させるようなものだった。
住宅街から雑木林を抜ける。いつまでたっても纏わり付いてくる視線に振り切ることを諦めた優真は、真向から対峙することにした。
しばらくして雑木林を抜けると、開けた空き地にたどり着いた。
住宅街からちょっと離れた、裏山のような小さな高台にある、広い空き地だ。
そこは雑草が生え散らかり、普段あまり人が足を踏み入れない場所であることを証明していた。
「さて、と・・・」
優真は空き地の真ん中で立ち止まると、振り返り雑木林の奥へと声をかけた。
「そろそろ出てこいよ。探り合いはやめよう。」
優真のその言葉に、林の中から人影が現れた。
その人影の正体は、美少女転校生、川島杏奈だった。
次回投稿予定:4/10(日)
(早まる可能性あり)