episode.1
どこかの誰かは言っていた。
「空は一つに繋がっている」と。
そうだとするならば、
真上に広がるこの青空のように、
二つに別れた僕等の道も、
いずれ一つに、繋がるのだろうか・・・。
改札を出ると、茹だる様な陽射しが照りつける。周りでは会社へと急ぐサラリーマン達が、額に滲んだ汗をハンカチで拭いながら、足早に歩いている。
「いい天気だな。」
煌々と輝く太陽の光を掌で遮りながら、水無月優真は、眩しそうに目を細めて空を見上げた。
頭上には、雲一つない青空が広がっている。既にかなりの気温だが、今日は一日暑くなりそうである。
「何じじくせぇこと言ってんだよ。」
優真の独り言に対して、返事が返ってきた。その声に後ろを振り返ると、仙道健司が苦笑いを浮かべながら立っていた。
「いや・・・夏だな、と思って。」
「当たり前だ。いまは7月だぞ。夏真っ盛りだ。おまけに今年は例年より3割増の暑さを絶賛提供中だとさ。」
健司は暑さを嫌がる様に、恨めしい目で太陽をちらっと見た。
切れ長の目に少し茶色がかった髪、中性的な印象を与える優真とは対照的に、アシンメトリーに伸ばした真っ黒の髪から覗く健司の目は大きく丸い。
「とりあえず行くか。」
健司がそう言うと、駅から続く生徒たちの流れにのって、二人は歩き出した。
二人が通うのは星稜北高校。この星稜市には星稜北高校の他に、駅を挟んでちょうど逆側にある星稜南高校、さらにいくつかの私立高校が存在する。
比較的都心から近いわりに、公園など緑が多い星稜市は、近年人気が上がっていた。それに伴い、駅前の開発も進んでおり、大型デパートや複合レジャー施設が立ち並ぶ。
星稜高校はそんな駅前の繁華街を抜けた住宅地の奥にある。優真と健司は頬を流れ落ちる汗を拭いながら、学校へと向かった。
ーーー
教室に入ると、半分ぐらいの生徒が既に登校しており、それぞれ朝の雑談を楽しんでいた。
優真と健司のクラスは1年C組。入学直後の席替えで優真が窓際の一番後ろ、健司がその前と、たまたま席が前後になり、意気投合して以来、いつも二人で行動している。
比較的キレイな顔立ちと、スラっとした出で立ちから二人とも女子生徒から密かに人気が高いが、社交的な健司とは対照的に、人によっては冷たく感じてしまう優真の雰囲気に、入学してから半年たった今も、クラスメートですら、優真と話すのが憚れてしまうという、微妙な距離感を作っていた。
「今朝のニュース見たか?」
席に座ると、窓際に背を持たれかけて横向きに座った健司が話しかけてきた。
「・・・いや、見ていない。」
荷物を机の上に起きながら座った優真が答えた。
「また犠牲者だとよ。今度は上半身が細切れにされていたらしい。下半身は無傷だったにもかかわらず、だ。」
健司が話しているのは、最近この星稜市で連続しておきている惨殺事件のことだ。
まだ7月が始まって1週間ほどだというのに、今月に入ってからもう既に3人が犠牲となっていた。
事件が始まった先月から数えると、計5人目の犠牲者となる。
「警察が調べたけど、あまりにも鮮やかな切れ口に、出血が全くない状態で、いまだ凶器すら特定できてないらしい。」
毎回死体は似たような状態で発見されるが、その度に細切れにされる場所が違っていた。
「やっぱりあれか、異能人?ってやつだっけか。人間の中に人間じゃねーやつが混じってんのかね。」
「はっ、あほらしい。そんな戯言信じてるのか?」
優真は健司の言葉を鼻で笑い飛ばし、窓から校庭を眺めた。
始業時間が近づいたため、歩いて行く生徒はまばらになっていた。
「どっかの週刊誌に書いてあったぜ。“特殊な能力を操る異能人現る“ってな。」
この連続殺人事件の殺害方法があまりにも現実離れしているため、週刊誌が面白がって様々な記事を書いていた。そして何の成果もあげられていない警察に対する批判も高まっていた。
「・・・漫画の読みすぎだ。」
「まっ、そりゃそうか。そんなやついたら、今頃日本は大騒ぎになってるっつーの。」
欠伸混じりに健司がそう言ったと同時に、担任の教師が入ってきた。
「ホームルーム始めるぞ〜」
出欠簿を広げる教師を一瞥したあと、優真は再び窓から空を眺めた。
「“異能人“・・・ね。」
優真の心とは裏腹に、雲一つない青空が広がっていた。
さて、いよいよ連載を開始しました。
拙い文章かと思いますが、物語の登場人物とともに成長していけたらと思います。
温かい目で見守ってやってください。