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第二話:聖帝の孤独、あるいは愛を捨てたドワーフ

蒸気機関の轟音が響く地下帝国の巨大な岩門。ガトリング砲を構え、殺気立つドワーフたちの中心に、ひときわ巨大な肩パッドを装着し、金色のモヒカンを揺らす男が立っていた。ドワーフの長、サウザである。


「お前たちは何故、戦いの道を選ぶ? 先ほどのモヒカンたちと違い、お前たちから伝わってくるのは純粋な悪意ではない。何か事情があるはずだ……」


ケンが哀しみを湛えた瞳で問いかけると、サウザは自嘲気味に、しかし狂気を孕んだ声で笑い出した。


「事情だと……? ひゃっはー……いや、そんな軽々しい言葉で語れるものではない。……全ては、**『愛ゆえに』**だ」


・・サウザの過去:師との決別・・


サウザはガトリング砲の銃身を撫で、遠い目をして語り出した。 かつてこの地下帝国は、平和な機械文明を謳歌していた。しかし、あの魔神アビスの侵攻が全てを変えた。


「魔神兵の一撃だった。俺の師匠であり、鍛冶の全てを教えてくれたお師さんは、たった一撃で、致命傷を負わされた……」


崩れゆく工房の中で、瀕死の師匠はサウザに告げた。 『サウザよ……憎しみに支配されてはいかん。お前に、わが鍛冶の奥義を託す。……お前の手で、わしにトドメを刺すのだ』


「そんなこと、できるわけがない! だがお師さんは叫んだ。『早くせよ。もう長くはもたん、魔神の汚泥に魂まで汚される前に!』と……。わしは、わしは泣きながら、自ら作った槌で、お師さんを……」


サウザの拳が血が滲むほど握り締められる。


「苦しかった。胸が張り裂けそうだった。そして、わしは悟ったのじゃ。愛ゆえに、人は苦しまねばならぬ。愛ゆえに人は悲しまねばならぬ。ならば愛など、不要だ!」


サウザは天を仰ぎ、絶叫した。 「愛などという温い感情があるから、失う時に地獄を見る! 故に我らは門を閉ざした! 外の世界も、他人も、愛も、全て拒絶する『聖帝の城』としてな!!」


・・リリーの冷徹な一言・・


感動的で壮絶な過去語りに、バットやリンが涙を流す中、リリーは一人、冷めた目でサウザを見上げていた。


「……長いわね。要するに、お師さんを殺したショックで拗ねて、地下に引きこもって、挙句の果てにその肩パッドを流行らせたってこと?」


「リリーちゃん、空気読んで! 今いいところなんだから!」


バットが突っ込むが、リリーは止まらない。


「愛が不要だって言いながら、お師さんの形見のハンマーを大事そうに腰にぶら下げてるじゃない。矛盾してるわよ、聖帝さん。……ケン、あんたはどう思うのよ」


ケンは一歩前へ出た。その背後には、死兆星ならぬ、地下の燐光が不気味に輝いている。


「……サウザ。お前の愛、俺が深く刻んでやろう。退かぬ、媚びぬ、省みぬと言ったところで、お前の心は泣いている……」


「ぬかせぇ! 聖帝に逃げ道はない! 全員、蒸気の錆にしてくれるわッ!!」


サウザの合図と共に、地下帝国の防衛システムが火を噴こうとした。


・・聖帝の最期、あるいは愛に殉じたドワーフ・・


サウザの号令と共に、地下帝国の静寂を切り裂く轟音が響き渡った。 蒸気機関によって超高速回転するガトリング砲から、数千発の魔導弾が「愛」を否定する黒い雨となってリリーたちへ降り注ぐ。


「死ねぇッ! 聖帝の前に跪けぇッ!!」


だが、その死の嵐の中に、静かに歩み出る男がいた。 ケンである。彼は一切の怯えを見せず、無数に迫る弾丸を凝視した。


・・奥義:北斗二指真空破にししんくうは・・


「……哀しい男だ」


ケンが両手を翻すと、その指先が残像となって空間を埋め尽くした。 飛来するガトリングの弾丸を、一つ残らず人差し指と中指の二本で正確に摘み取っていく。


「ぬんッ!!」


ケンがその指先を弾くと、摘み取られた弾丸が「倍の速度」でドワーフたちのガトリング砲へと跳ね返った。


北斗二指真空破にししんくうは!!」


「ぬおおおおーーーーー!!?」


自らの放った弾丸が装置を破壊し、ドワーフたちが次々と吹き飛ばされていく。しかし、ケンは急所を外していた。死ぬべきなのは、もはやその魂が限界を迎えている男一人だと知っていたからだ。


・・聖帝の崩壊と、ぬくもり・・


「ば、馬鹿な……。聖帝の軍が……わしの愛を捨てた技術が……ッ!」


サウザは血を吐きながら、ふらふらと背後に聳え立つ「蒸気式聖帝十字陵ピラミッド」の階段を登り始めた。その頂上には、彼が唯一愛し、そして自らの手で屠った「なき師」の遺体が、機械仕掛けの祭壇に安置されていた。


一段、また一段と。崩れゆくピラミッドを登り切り、サウザは師の冷たい亡骸に縋り付いた。


「ふふ……ふふふ。愛深きゆえに、愛を捨てた……。だが、やはり……捨てきれなんだわ……」


サウザの瞳から、濁った涙が溢れ落ちる。彼は師の胸に顔を埋め、まるで幼子のようになりふり構わず泣きじゃくった。


「……お師さん。最後にもう一度だけ……あの頃のような、手のぬくもりを……」


満足げな、そしてあまりにも穏やかな微笑を浮かべ、サウザは師の隣で静かに息絶えた。


・・リリーの涙・・


その光景を見ていたリリーの頬を、一筋の涙が伝った。 彼女は田中太郎の記憶を持っている。前世で何度も何度も読んだ、あの伝説のシーン。それを現実レムリアで、しかもこれほどまでの熱量で見せつけられたのだ。


「……ううっ……うああああああん!! 聖帝様ぁぁぁ!!」


「えっ、リリーちゃん!? あんなに冷めてたのに、いきなり大号泣!?」


バットが驚愕するが、リリーは止まらない。北斗ファンとしての魂が、そして神格を捨てて「人の心」を取り戻したばかりの彼女の感性が爆発していた。


「だって……だって、あんまりじゃない! 愛を知りすぎて愛を捨てて、最後にお師さんのぬくもりの中で死ぬなんて……こんなの泣かない方が無理よ! 運営アフロヘーアの演出が良すぎるわよ、バカぁーーーッ!!」ここレムリアの神はセレナである。しかし、これには絶対あのハゲが関わっている。リリーは確信していた。


リリーは鼻水を垂らしながら、ミリィの服の裾で顔を拭いた。 魔神の脅威が去った後のレムリア。そこには確かに、理屈を超えた「漢たちの宿命」が刻まれていたのである。

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