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第一話:世紀末の再来、あるいは死兆星の輝き

リリーたちがギルドを出て数分。王都の外周に差し掛かったところで、背後から猛烈な土煙と、耳を劈くような排気音が迫ってきた。


「ひゃっはーーーーー! 逃がさねえぜぇ! 汚物は消毒だぁーーーー!」


現れたのは、魔石を動力源とする魔道具のバギーやオートバイを乗り回す、総勢百名を超えるならず者集団――**『ズィード軍団』**である。


彼らはレムリアの復興に乗じて現れた悪徳貴族、**「ド・ゲス・ワルナ公」**と癒着し、新人冒険者や開拓村の住人を攫っては、お代官様と越後屋のような顔で奴隷売買を繰り返す、この界隈の癌であった。


「なんだとぉ? 俺の可愛い部下を壁の飾りにしたってのは、お前らか! ひゃっはー! ズィード様がお前らを特級奴隷として出荷してやるぜぇ!」


巨大な肩パッドにトゲ付きの鉄球を振り回す頭領、ズィードがリリーたちを包囲する。リリーは心底うざったそうにため息をついた。


「……ミリィ、モミジ。さっさと片付けなさい。時間の無駄だわ」 「……ん。一秒で終わらせる」


ミリィが杖を持ち上げ、因果改変の準備に入った、その時だった。


・・北斗の慈悲:謎の拳法家、降臨・・


「……止まるがいい、悪党ども」


荒野の彼方から、一人の男が歩いてきた。 上半身は裸。見事にビルドアップされた大胸筋と腹筋。アンソニー枢機卿や教皇が見れば「素晴らしいカットだわ!」と絶賛しそうな、彫刻のような肉体を持つ拳法家である。


「ひゃっはー! 誰だテメェは! 筋肉野郎は相撲部屋にでも行ってやがれ!」


ズィードが鉄球を叩きつけるが、男は静かにそれをかわし、哀しみを湛えた瞳でズィードを見据えた。


「このような幼き少女に多勢に無勢……。お前らのようなゴミに、明日を生きる資格はない……」


「ぬかせぇ! 死ねぇッ!」


「おわちゃぁぁぁーーーーーッ!!」


空気を震わせる鋭い咆哮。男の拳が、神速を超えた連撃となってズィードの全身を貫く。最後の一撃がズィードの頬に深くめり込んだ。


「……ふん。お前はもう、死んでいる」


「……ひゃ、ひゃっは……? な、なんともねえぜ……あ、あべしッ!!」


次の瞬間、ズィードの身体は内側から弾けるように爆発し、その巨躯は塵となって荒野に消えた。残された軍団員たちは「ひゃわああああ!」と悲鳴を上げて散り散りに逃げ出していく。


・・救世主との邂逅・・


静寂が戻った荒野で、男はリリーたちに向き直った。


「……怪我はないか、少女よ。この乱世、一人歩きは危ない。……む?」


男はリリーの瞳を見て、その奥に潜む「数百億年の執念」と「神格の残滓」に気づき、眉を動かした。


「……ただの子供ではないようだな。名は?」


「……リリー・ヴァランタンよ。助けてくれたのはありがたいけど、あいつらなら一秒後に消滅させる予定だったわ」


リリーは不敵に微笑む。どうやらこのレムリア、相撲やボディービルの他にも、とんでもない「格闘術」が根付き始めているらしい。


・・世紀末の同行者、あるいは剣なきケン・・


「けーーーーーん!!」


荒野に幼い少女の叫びが響き渡り、ボロボロのピンクの服を着た幼女と、おでこにゴーグルを乗せた少年が駆け寄ってきた。


「おいおい、ケン! 派手にやったな! ひゃっはー共がゴミのようだぜ!」


誇らしげに胸を張る少年、バット・キンゾク。そしてケンの服の裾をぎゅっと掴む少女、リン・リンリン。 その光景を目の当たりにしたリリーは、かつて田中太郎だった頃の記憶を激しく呼び起こされていた。


(……いや、これ思いっきり『北斗』じゃない。何なの? 徒手格闘の達人なのに名前が「ケン」って。おまけにあの格好、あの台詞……。ここ、魔神に滅ぼされかけた後のレムリアよね? 確かに終末世界感は似てるけど、方向性が違いすぎないかしら……?)


リリーはこめかみを押さえた。核の炎ではなく魔神の魔法によって荒廃した世界。だが、目の前の男からは、間違いなくあの「世紀末覇者」たちと渡り合えるだけの不穏な威圧感が漂っている。


・・強引なパーティ結成・・


「む。お前たち、ドワーフの地下帝国へ行くのだな」


ケンは、リリーが手にしていたギルドの依頼書を目ざとく見つけ、低い声で問いかけてきた。


「そうだけど、それが何か?」


「なら俺たちも目的地は一緒じゃん! ちょうど地下に用があったんだよ」


バットがニカッと笑いながら、当然のように話に乗ってくる。ケンは静かに頷き、その丸太のような腕を組んだ。


「……宿命が呼んでいる。ならば、俺たちも同行しよう」


「え? いやいや、必要ないんだけど? 私たちだけで十分間に合ってるし、そもそもあんたたち足が遅そうじゃない……」


リリーの拒絶など風に吹かれた砂埃ほども気にする様子はなく、ケンはゆっくりと、しかし確かな足取りでドワーフの領域を目指して歩き出した。


「なに、遠慮は無用だ。さあ、行くぞ」


「……ん。リリー、あの男、話を聞かないタイプ。……消す?」


ミリィが物騒な提案をするが、リリーはため息をついて首を振った。


「いいわ。一応、さっきのモヒカン掃除の恩もあるし……それに、あの男がどうやって岩山だらけの地下帝国を『おわちゃー』で突破するのか、ちょっと興味があるわ」


「オラも楽しみだべ! あのマッチョな兄ちゃん、強そうだべさ!」


モモジだけは呑気に喜び、リリーたちは渋々ながらも「世紀末一行」と共に、ドワーフの地下帝国へと続く暗い縦穴の入り口へと向かうのであった。


・・地下帝国の門:筋肉と火薬の洗礼・・


数時間の歩行の末、一行は地下帝国の巨大な岩の門へと辿り着いた。 しかし、そこで彼らを待っていたのは、かつての温厚な鍛冶屋集団としてのドワーフではなかった。


門の上に陣取ったドワーフたちが、蒸気機関で動く巨大なガトリング砲をこちらに向け、ドスの効いた声で叫ぶ。


「ひゃっはーーー! ここから先は立ち入り禁止だぁ! 汚物は……地下の肥やしにしてやるぜぇーーー!!」


「……ドワーフまで『ひゃっはー』になってるじゃない。……ケン、あんたの出番よ」


リリーは腕を組み、面白そうにケンの背中を突っついた。

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