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第十七話:神格の天秤と、筋肉のフロンティア

アレスガイアからレムリアへ。次元を越えた前代未聞の大引越しは、アフロヘーアの「妹思い(という名の強引な采配)」によって完了した。


本来、リリーとしては魔神アビスを完全に封印し、安全を確保してから家族を呼び寄せるつもりだった。しかし、神界の事情は待ってくれない。魔神に食い荒らされたレムリアは人口が激減し、主神セレナの神格は「信仰不足」で崩壊寸前だったのだ。


だが、アレスガイアから「規格外の変態……もとい、精鋭たち」が送り込まれたことで、レムリアの地に力強い活気が戻る。信徒の質(筋肉量と魔力)があまりに高かったため、セレナの神格は爆発的に安定し、相対的に魔神アビスの支配力が減退した。


「今が好機だわ。……魔神、あんたの不味いお食事タイムはここでお終いよ」


リリーは神としての光を纏い、魔神の本体が潜む北の果てへと飛び立った。


・・王都の静寂:勇者たちの「存在意義」・・


一方、レムリア王都。リリーが魔神の元へ向かったことで、勇者ルシウスは肩の荷を下ろした。


「姉さんが行ったなら、もう大丈夫だね」


最強の姉への絶対的な信頼。ルシウスたちは王都に留まり、吉報を待つことになった。しかし、ここで一つの疑問が浮上する。


「なあ、カイト……。俺たち、結局何のためにこの世界に呼ばれて、あんなに地獄の四股を踏まされてきたんだろうな?」


大男のボルダーが、すっかり逞しくなった自分の腕を見つめながら呟く。


「……知るかよ。俺たちが戦う前に、リリーさんが神になって全部片付けちまったんだからな。……まあ、おかげで命拾いしたと思うしかないだろw」


勇者パーティーの「何もしなかった」という平和な絶望。彼らの役割は、もはや魔神討伐ではなく「レムリア場所」を盛り上げる賑やかしへとシフトしつつあった。


・・邂逅:二人の「美」の求道者・・


王都の広場で、ついにあの二人が再会を果たした。 ブルーの下着に審判の羽織を掛けた教皇と、ピンクのフリルを靡かせながらポージングを決めるアンソニー枢機卿である。


「……教皇様。ついに、私もこの地に辿り着きました」


「アンソニーか。……アレスガイアを捨ててまで、私を追ってきたのか?」


アンソニーは深く頷き、太陽の光を大胸筋で反射させた。


「教皇様。私は、このレムリアにとどまります。……全てが片付いた後、貴方はアレスガイアに戻り、あちらを導いてください」


「あら、私も帰らないわよ?」


「……えっ?」


アンソニーのポーズが固まった。 「帰らない、とは……?」


「この国には、私が求めていた『ぶつかり合い(相撲)』と『自由な下着文化』があるわ。アレスガイアの堅苦しい大聖堂なんて、もうまっぴらよ。私はこの国で、ドスコイ女将と共に新たな道を歩むわ」


アンソニーは愕然とした。追いかけてきたはずの憧れの存在は、既にこの地の文化に染まりきっていたのだ。 だが、これはチャンスでもある。


「……そうですか。ならば、どちらの『美』がこのレムリアに相応しいか。……いずれ開催される『第一回ミスター・レムリア』の結果で、白黒つけようではありませんか、教皇様ッ!!」


「受けて立つわ。私の審美眼に、ピンクのフリルが勝てるかしら?」


レムリアに、新たな火種――**「ボディービル vs 伝統美(?)相撲」**の対立構造が生まれた。アンソニーの「一番手」への挑戦権は、筋肉のカットとオイルの輝きに委ねられたのである。


・・魔神の元へ:一万五千年と数百億年の執念・・


その頃、魔神アビスの領域。 急激に神格を上げたセレナの波動と、リリーの接近を感じ取り、魔神がその巨大な顎を開いた。


「……来たか、小娘。私を封印できると思っているのか?」


「思ってないわ。……やるのよ。理屈じゃないの、これは『姉の意地』なのよッ!!」


リリーの指先に、神界で磨き上げた究極の封印術式が収束する。 世界の存亡をかけた、神と魔神の最終決戦。その戦いの衝撃で、王都のちゃんこ鍋がひっくり返らないことを祈るばかりであった。


・・理の闘争、あるいは聖なる抱擁・・


魔神アビスの本体と対峙したリリー。その戦いは、地上の生命体が想像する「剣と魔法の激突」とは、あまりにもかけ離れたものだった。


火花は散らず、地響きも起きない。ただ、周囲の「存在の意味」が絶え間なく書き換えられ、宇宙の法則そのものが奪い合われる、静寂にして苛烈な因果律の闘争。


「……くっ、アフロで練習した時とは、抵抗の重みが違いすぎるわ……!」


リリーが編み出した封印術式は、確かに魔神の因果を捉えていた。しかし、アフロを実験台にしていた時は「アフロを固定する」という明確な執着を核にできたが、魔神アビスは無数の世界を喰らった負の概念の集合体。その根源を一点に縛り付けるには、リリー一人の神格では、あと一歩、決定的な重みが足りなかった。


・・女神セレナの介入:信徒たちの祈り・・


(リリーさん……一人で背負わないでください。今の私には、守るべき民が、そして貴女を信じる者たちの想いがあります)


その時、リリーの視界が清らかな白銀の光に包まれた。 妹神セレナである。アンソニー枢機卿や公爵家の面々、そしてレムリア全土の民が捧げた爆発的な「信仰」の力により、彼女の神格はかつてない高みに達していた。


セレナはリリーの背後からその手を取り、自身の神気を封印術式へと注ぎ込んだ。アフロの姉とは違い、慈愛に満ちた「正統派の女神」の加護が、荒れ狂う魔神の因果を力強く、優しく押さえつけていく。


「……これなら、いけるわ!! 因果封印:『永久不変の檻』ッ!!」


「おのれ……新米の神と、滅びかけの女神ごときにィィ!!」


魔神アビスは怨嗟の声を上げながら、世界のどの時間軸にも属さない「虚無の狭間」へと吸い込まれ、その存在定義を永久に凍結された。


・・田中太郎の休息・・


魔神の気配が完全に消え、レムリアの空に真の静寂が戻った。 リリーは膝をついた。数百億年の修行と激闘。神になってもなお、結局一人では成し遂げられなかったという微かな悔しさが胸をかすめる。


しかし、そんな彼女を、セレナが背後からそっと抱きしめた。


「ありがとうございます、リリーさん。貴女が来てくれなければ、この世界は本当に終わっていました」


「……セレナ様……」


柔らかい質感、清らかな香油の匂い、そして混じり気のない慈愛。 リリーは、かつて自分が「田中太郎」という名の平凡な高校生だった頃の記憶を、ふと思い出した。あの殺伐とした日常や受験闘争の果てに、一度でいいからこんな「美女神に包まれる幸福」を味わいたいと願っていたのではないか。


(……ああ、最高。アフロから乗り換えて、本当によかったわ……)


リリーは現世の執着を全て投げ出し、その聖なる抱擁に身を委ねた。神としての威厳はどこへやら、今の彼女はただの「頑張った女の子」の顔をしていた。


・・神界:アフロの絶叫・・


その頃、神界の「アフロ固定の檻」では、アフロヘーアがモニターを叩き割らんばかりの勢いで暴れていた。


「ちょっとぉぉぉ!! リリーちゃん、何その顔! 私が二回も特大の加護べろちゅうを授けてあげたのに、妹に抱きしめられただけでそんな蕩けた顔をするなんて! 薄情者! 筋肉泥棒! べろちゅう返してちょうだいッ!!」


姉の叫びは空虚に神界へ響き渡るが、レムリアに平和をもたらした新米神と美女神の美しい絆(と、若干の田中太郎的欲望)を邪魔する者は、もうどこにもいなかった。

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