第十六話:アレスガイア大移住、あるいは筋肉の輸出
・・さらばアレスガイア、新天地レムリアへの降臨・・
神界の片隅で、絶叫するアフロ(姉)を「永久アフロ固定の檻」に封印し続けたリリー。その甲斐あって、ついに上位神すら拘束しうる**『因果封印術式』**が完成した。
「……よし、これでルシウスを救いに行けるわ」
しかし、神となったリリーの前に、高次元の絶対的な「制約」が立ち塞がる。神は他者の領地に土足で踏み入ることはできない。レムリアの世界へ降臨するには、その世界の主神である妹神セレナの**「眷属神」**として再登録する必要があったのだ。
檻の中でアフロを揺らすアフロヘーアは、新米神リリーに不敵な笑みを浮かべていた。
「いいわ、リリーちゃん。元はと言えば私が勇者ちゃんと貴女を切り離したのが原因(召喚を防げなかった)。なら、こうしましょう! アレスガイアの『ヴァランタン公爵家』や貴女の仲間、まとめてレムリアへ移住させちゃえばいいじゃない!」
「……移住? 私が言うならまだしも、貴女がそんなことを?」
「そうよん! 妹のセレナの世界は魔神のせいで人口がスカスカ。そこにアレスガイアの『規格外な住人』を送り込むのは、防衛力の強化にもなって一石二鳥だわ! それに、あっちに強力な信徒が増えれば妹の神格も安定する。……お詫びのしるしに、ルシウスちゃんもリリーちゃんも、正式に妹に差し上げますわ!」
こうして、リリーが承諾するよりも先に、アフロヘーアはアレスガイア全土に響き渡る**「神の宣告(強制引っ越し案内)」**を飛ばしたのである。
・・アンソニーの決断:信仰と筋肉のフロンティア・・
アレスガイアの大聖堂。ピンクのフリルを纏い、鏡の前で広背筋をチェックしていたアンソニー枢機卿は、脳内に直接響くアフロヘーアの声を聴き逃さなかった。
「……アフロヘーア様。今、なんと? 勇者ルシウスが、異世界レムリアなる地から帰らないとおっしゃいましたか?」
『ええ、そうよん。向こうは今、力のある人間が足りなくて困ってるの。アンソニーちゃん、あんたはどうする?』
アンソニーは沈黙した。彼にとってアフロヘーアは唯一絶対の信仰対象。しかし、アレスガイアには愛しき教皇(ブルー下着の御仁)がおり、いつまでたっても二番手。
「……私を、そのレムリアなる地へ送っていただくことは可能でしょうか?」
『あら。でもアンソニーちゃん、レムリアに行ったら信仰の対象は私じゃなくて、妹のセレナ(と、その眷属のリリー)になっちゃうわよ? それでもいいの?』
アンソニーは一瞬悩んだ。しかし、彼の筋肉が、より困難な道――「未開の地での布教」を求めてパンプアップを開始した。
「……構いません。新たな地で、一から『美と筋肉の教え』を広める。これぞ筋肉の求道者に相応しきやりがい! 我ら聖騎士団、喜んで移住いたしましょうッ!」
アフロヘーアは「あら、あっさり裏切られた気分だわん」と思いつつも、妹のためにアンソニーたちの転送パスを構築し始めた。
・・ヴァランタン公爵家、動く・・
同時刻。公爵邸ではミリィとモミジがアフロヘーアからの「神託(リリーからの伝言含む)」を受け取っていた。
「ん、アレスガイアを捨てる……。リリーが新しい世界の神になるというなら、私も付いていく」
ミリィは不敵に微笑み、杖をしまう。
「オラも同じだべさ! 急な引っ越しだげど、リリーとルシウスがいるなら、そこがオラたちの家だべ! さっさと荷物まとめて、異世界の魔物たちにアレスガイアの斧を拝ませてやるべッ!」
モミジは迷うことなく、自慢の斧を担いで光の渦へと足を踏み入れた。
・・レムリアに迫る「魔の手」・・
レムリア王国。ドスコイがSU・MO・Uで国を盛り上げているその中心地に、突如として空から巨大な光の柱が降り注いだ。
「な、なんだべ!? 空から変な奴らが降ってきたべッ!」
新弟子のボリスたちが驚愕する中、光の中から現れたのは――
「……ハッ! 素晴らしい熱気! これがレムリアの土俵ですか! しかし、少し『筋肉のカット』が甘いようですわね!」
ピンクのフリルを閃かせ、ポージングを決めながら降臨したアンソニー枢機卿と、その背後に控える武装筋肉集団であった。
レムリア王国。 SU・MO・Uによる物理的衝撃に加え、今ここに**「ボディービル」という名の審美的魔の手**が忍び寄る。 後に「レムリア場所」と「ミスター・レムリア(筋肉美大会)」が同時開催され、国中の衣装がフリルとオイルの匂いに包まれることになるのは、もはや時間の問題であった。
・・レムリア降臨:新しき神の息吹・・
こうして、リリーはアフロヘーアの眷属から、妹神セレナの第一眷属神へと転籍。眩い光の柱と共に、彼女はついに異世界レムリアの地に降り立った。
その瞬間、レムリア全土に清涼な神気が吹き抜けた。 ドスコイ部屋でちゃんこを食べていた力士たちも、王女から逃亡中のルシウスも、一斉に空を見上げた。
「……この、懐かしくて暴力的な魔力は……リリー姉さん!?」
ルシウスが叫ぶ。その背後には、神としての威厳を纏い(ハゲのカツラは潔く脱ぎ捨てた)、凛とした姿で浮かぶリリーの姿があった。
「お待たせ、ルシウス。……もう、どこにも行かせないわよ」




