第十二話:最高神の爆笑、あるいは「魔神という名の特異点」
アフロヘーアの髪型を「強制アフロ」に上書きしたリリーの神権は、驚くほど強固だった。自らの容姿を「美しくない」と忌み嫌う女神が、必死にスキンヘッドのカツラを被り直そうとしても、アフロの弾力によってカツラがポーンと跳ね返されてしまう。
「ああああ、もう嫌よ! 早く戻しなさいな、このクソ賢者ぁぁ!!」
「嫌よ。そのファンキーな姿こそ、今の貴女にぴったりだわ」
涙を拭い、ハゲ頭のまま冷たく言い放つリリー。そんな二人の前に、神界の空間が歪み、見たこともない密度の「神気」が溢れ出した。
・・最高神の介入:アフロへの賛辞・・
「……ぶっ、ははははははははは!!!」
天地を震わせるような爆笑と共に現れたのは、神界の頂点に君臨する最高神であった。 彼はアフロヘーアの爆発した頭を見るなり、神としての威厳をかなぐり捨てて腹を抱えて笑い転げた。
「面白い! 創造神アフロヘーアをここまで弄べるとは! よもや新米の神が、これほどまでの度胸と搦め手を持っているとはな。リリーと言ったか、お主、気に入ったぞ!」
「最高神様……笑いすぎですわ……」
アフロヘーアが涙目で訴えるが、最高神はリリーの「格上の概念を一時的にでも上書きした知略」を高く評価した。彼は笑い止むと、スッと真剣な眼差しをリリーに向けた。
・・魔神の正体:邪道の果てに至った者・・
最高神は、リリーが追っている「魔神」の異常性について語り始めた。
「リリーよ、お主が戦おうとしている魔神は、レムリア(アフロヘーアの妹神、良識ある美少女神)の世界を蹂躙した存在だ。……あやつは本来、我らと同じ『魔法の神』であった」
最高神の見立てによれば、その魔神は本来、神格を下げるはずの「邪道」に堕ちることで、逆に神格を爆発的に高める未知の術理を見出したのだという。
「以前お主たちの前に現れた邪神などは、神のなり損ないに過ぎん。だが、その魔神は創造神すら超え、今や我ら最高神でも滅ぼすことが困難な領域に達しておる。……レムリアがルシウスを召喚したのは、姉への嫌がらせという側面もあったが、それ以上に、自らの世界が魔神に食い尽くされるのを止めるための、文字通りの最終手段だったのだ」
・・神格強化のヒント:滅ぼせぬなら封印せよ・・
最高神は、リリーの細い肩に手を置いた。
「今の段階で、お主が魔神を力で上回り、滅ぼすことは不可能だ。邪道を極めたあやつの因果はあまりにも深く、重い。……だが、道はある」
最高神が与えたアドバイス、それは**『因果改変による永久封印』**であった。
「魔神そのものを消し去るのではなく、魔神が存在する『時間』と『空間』の因果を捻じ曲げ、宇宙のどこにも属さない『虚無の檻』に閉じ込めるのだ。そのためには、お主の神格をさらに高め、相手の理を一時的にでも停止させる術式を構築せねばならん」
リリーはハゲ頭のまま、深く頷いた。滅ぼせないなら、存在そのものを「なかったこと」にして隔離する。数百億年の修行で因果律を弄んできた彼女にとって、それは最も得意とする分野の延長線上にあった。
「……分かったわ。魔神が魔法の神なら、私はその魔法の『前提』を書き換える神になってやるわよ」
「よい心がけだ。ではリリー、まずはそのアフロの姉を実験台にして、封印術の基礎を磨くがよい」
「ちょっと最高神様ぁぁ!? 妹に続いて最高神様まで、私をいじめて楽しいの!?」
最高神の励まし(?)を受け、リリーはハゲ頭を光らせながら、神界でのさらなる高次元修行へと身を投じる。一方、レムリアの世界では、魔神の影がルシウスの背後にまで迫り、聖剣がかつてないほどの警告音を鳴らしていた。
・・封印の檻、あるいは「神界(地獄?)の姉妹喧嘩」・・
最高神から授かったヒントを元に、リリーは即座に**『因果封印術』**の構築を開始した。練習台に選ばれたのは、もちろん「強制アフロ」のままのリリーの主神、アフロヘーアである。
「ちょっとリリー! 私を鳥籠のような光の檻に閉じ込めて、一体何を……きゃああ! 中が全面鏡張りで、どの方角を見ても自分のアフロ姿しか見えないわッ! どんな精神的苦痛なのこれ!?」
「格上を封じるには、対象の『意識』を一点に拘束して、理の回転を止める必要があるのよ。貴女の場合、その不本意な髪型への執着が一番の『錨』になるわ」
リリーは冷徹に、檻の因果率をさらに強固に締め上げていく。格上の神を完全に封じるには至らないが、それでもアフロヘーアの神力を一時的に「内側」へ封じ込めることには成功していた。
・・妹神の降臨:名前は「セレナ」・・
そんな地獄のような特訓(?)が行われている神界の一角に、一人の女神が舞い降りた。 アフロヘーアとは対照的に、透き通るような銀髪をなびかせ、清楚で知的な雰囲気を纏った美少女――アフロヘーアの妹神、セレナである。
「……ぷっ、ふふふ! お姉様、その頭、もしかして流行の最先端なんですの? 似合いすぎていて、妹として誇らしいですわ!」
「セレナ!? 貴女まで私を笑うの!? この新米神に言いつけて、貴女も同じ目に合わせてあげるわよッ!」
「お断りしますわ。私はリリーさんの味方ですもの」
セレナはリリーに丁寧な挨拶を交わすと、檻の中で暴れる姉を無視して、本題を切り出した。彼女の住まう世界「レムリア」を滅ぼさんとする魔神。その忌まわしき過去についてである。
・・魔神の正体:堕ちた下位神の執念・・
「リリーさん、貴女が追っている魔神……彼はかつて、私の世界で海と嵐を司る下位の神でした。……名は**『アビス』**。アレスガイアでいうポセイドンのような、本来なら地上の生命体が逆立ちしても勝てない強大な存在だったのです」
かつてアレスガイアに現れたポセイドンは、玄の『百鬼夜行』による地獄の鬼の介入という、世界の理を外れた力によって辛うじて撃退できた特異例に過ぎない。本来、神という存在はその階級を問わず、絶対的な力を有している。
「アビスは、私のような創造神に仕えることに満足していませんでした。彼は、神格を飛躍的に高める『おぞましき方法』を見つけてしまったのです」
「……おぞましい方法?」
リリーが問い返すと、セレナの表情が曇った。
「神は通常、世界の調和や信仰によって格を上げます。ですが彼は、**『自らが管理する世界の全生命、その魂の可能性を全て喰らい、負の因果として自身の神核にマージする』**という禁忌を犯しました。……世界一つをまるごと『餌』として消費することで、創造神すら超える、邪悪な万能感を手に入れたのです」
・・リリーの決意・・
魔神の強大さは、一つの世界を「捕食」して得た犠牲の重さに比例していた。 アレスガイアを、ルシウスのいる世界を。魔神はそれらを「次の食事」として狙っている。
「……世界を喰って神格を上げたのなら、私はその『食欲』ごと、永遠の空腹に封じ込めてあげるわ」
リリーはアフロヘーアを閉じ込めた檻の強度を、さらに一段階上げた。 セレナから語られた魔神アビスの過去。それは同時に、彼が「元は下位の神であった」という、封印術を適用するための唯一の足がかり(属性の起源)でもあった。
「セレナ、感謝するわ。……ハゲ女神、貴女はもう少しその檻の中で、自分のアフロと向き合っていなさい」
「リリー! 戻りなさい! 私をこのまま置いていくなんて、神罰ものよーーーッ!!」
姉の叫びを背に、リリーはセレナと共に、魔神封印の鍵となる「原初の術式」を求めて、神界のさらなる奥地へと向かう。




