第三十九話:更地からの戴冠、そして「自由な賢者」
筋肉が激突し、汗と執念が火花を散らした相撲対決は、両者が土俵の外へ同時にもつれ込むという大波乱の結末を迎えた。行司を務めた元女幹部が、陶酔しきった声で軍配を振る。
「勝者! に~しぃ~(西)……ま~すぅ~るぅ~(マッスル)!!」
だが、これに待ったをかけたのはドスコイ(男)本人だった。 「物言い(ものいい)ですわ! ……いえ、物言いです!」 そこから一時間に及ぶ大審議が始まった。築城に夢中で見ていなかったアリシアや、目を逸らしていた貴族、野次馬の帝国民までが「玄の勝ちだ!」「いやマッスルの足が残っていた!」と議論に加わり、本場扶桑のシオンや楓までもが「剣理に照らせば……」と口を出す始末。
収拾がつかなくなったその時、ドスコイが男らしく、かつ乙女の未練を滲ませて叫んだ。 「どちらか選ぶなんてできません! 一年間は約束通り玄様と、女に戻ったらマッスル様と添い遂げますわ!」
まさに「いいとこ取り」の提案。しかし、マッスルは「わたくし、女には興味ありませんの」と即答し、バルト(♀)も「男に戻った貴方を失いたくない!」とハンカチを噛む。愛の因果律がこじれにこじれたまま、決着は先送りとなった。
・・戴冠式と「小さすぎるメイド」・・
数日後、リリーの創造魔法によって帝都はかつて以上の輝きを取り戻した。新皇帝として即位するアリシアは、帝国と王国の末代に至るまでの友好を誓い、命の恩人であるリリーたちを戴冠式のゲストとして招待した。
当日、最高級の礼装が用意されたが、ここでも悲劇(?)が起きる。 教皇に用意されたのは紳士用の礼服だったのだ。 「なぜ! なぜフリルの付いた可愛いドレスではないのですかッ! 嫌、嫌ですわぁぁ!!」 憤慨する教皇。だが代わりのドレスはどれも大人びたデザインばかり。絶望に暮れる教皇の目に留まったのは、給仕のメイドたちの制服だった。
「あら……あちらの方が、ずっと可愛らしいですわね」 かくして、戴冠式には「一人だけ異様に筋肉質で、予備の中でも最小サイズを無理やり着込んだため、布地が悲鳴を上げているメイド」が紛れ込むことになった。
一方、玄は紳士服を完璧に着こなし、男に戻ったのになぜかドレス姿のドスコイ(男・お姫様役)をエスコートして周囲を戦慄させ、楓は西方の華やかなドレスに顔を赤らめ、それを見たシオンがドギマギするという、それぞれの正装を披露した。
・・唐突な卒業、そして三年の月日・・
戴冠式を終え、リリーの転移魔法で一瞬にして王都へ帰還した一行。扶桑パーティーとは王都で別れ、学園へ戻ったリリーを待っていたのは、精神体アマリリスからの衝撃的な通告だった。
「リリーよ。おぬしを特例で**『卒業』**扱いとする。真・魔王を封じるような存在に、教えることなど何もないからのぅ。むしろ、世界を救うために自由に動くが良い」
アマリリスの善意、そして「リリーのせいでDクラスが勝ってしまう」ことを恐れた保守派教師陣の満場一致の推薦。こうして、リリーの学園生活はわずか一ヶ月あまりで幕を閉じた。 (※これに対し、ガリとデブの二人は「ロリがいなくなるのは死活問題だ!」と血涙を流して抗議したという。)
・・エピローグ:三年の月日が流れて・・
公爵領に戻ったリリーたちの周囲から、かつてのドタバタが嘘のような、穏やかな時が流れた。
三年の月日が過ぎ――。 リリーは十八歳。しかし、その容姿は相変わらず愛らしい幼女のまま(一万五千年の修行の賜物か)。 ルシウスは十二歳。マントで前を隠さずとも、立派な少年の風格を漂わせる勇者へと成長していた。
「お姉ちゃん、今日も庭の草むしり(魔力の剪定)を手伝うよ」 「ええ、お願いね、ルシウス」
世界を壊せる加護を持ちながら、穏やかな日常を愛する賢者。 彼女の物語は、また新たな局面へと向かおうとしていた。
(第二章 学園編 完)




