第三十八話:帝都の夜明け、あるいは「残された希望と新たな恋の火種」
更地と化した帝国城跡地に、朝日が差し込んだ。 皇帝が魔族であったという衝撃的な事実は、生き残った帝国貴族や民衆の間に波紋を広げた。パーティー会場で討伐された魔族の死骸が、その証左である。人々は帝国の未来を救った勇者たちに感謝を捧げたが、同時に、かつて「賢帝」と慕われた本来の皇帝が、既に魔族の手によってこの世を去っていたことを知り、深い悲しみに沈んでいた。
そんな静寂を破るように、積み上がった瓦礫の山が崩れ、一人の影が這い出してきた。
「……あ、あの時の熱い抱擁、そして言葉にできないピンクの情熱……。私、目が覚めましたわ」
それは、聖女(教皇)の苛烈な尋問と抱擁を生き延びた、魔族の諜報部隊女幹部であった。彼女の瞳には、かつての冷酷な殺意はなく、代わりに教皇への狂信的な「心酔」の光が宿っていた。
・・奇妙な四角関係の勃発・・
「聖女様! 私を貴女様の侍女として、末端に加えてくださいましッ!」
平伏する女幹部に対し、教皇はエメラルドグリーンの下着を震わせて首を振った。 「お断りですわ。わたくしは今、乙女。女同士の愛など、扶桑の玄様が仰るように『破廉恥』の極みですもの。……それに、今のわたくしの好みは、もっとこう……」
教皇の視線は、女体化の呪いが解け、男の肉体を取り戻したドスコイへと向けられた。 ドスコイは現在、男に戻ったことによるサイズアップで、着用していた「ふんどしドレス」が見事に弾け飛び、布切れ一枚のような状態で玄の隣に立っている。
「……あら? よく見れば、その隠された筋肉(脂肪の下に)、その腰つき。素晴らしい男気ではありませんの。ドスコイ殿、貴方、わたくしの教え子(生贄)になりませんこと?(その脂肪から隠された筋肉を解き放って差し上げますわ)」
「待たれよ! ドスコイはわしと衆道の契りを交わしたばかり! 乙女(教皇)といえど、横恋慕は無作法というもの!」
玄が太い腕を広げてドスコイを庇い、教皇と激しく火花を散らす。 「何ですって? 筋肉の慈愛に性別など関係ありませんわよ!」 「否! 武士の情け、そして相撲の絆は不変なり!」
一年限定の男の姿となったドスコイを巡り、教皇(乙女)と玄(男)による、世にも奇妙な争奪戦の火蓋が切られた。
・・地下牢の遺産:皇女「アリシア」・・
そんな混沌とした大人たちを余所に、リリーとミリィは淡々と瓦礫の撤去作業を行っていた。 「……リリー。……あそこ。……動いてる」
ミリィが指差した地下への亀裂。瓦礫をどけると、そこから一人の少女が這い出してきた。 透き通るようなプラチナブロンドの髪に、星を散りばめたような瞳。弱冠八歳ほどの、人形のように愛らしい少女。
彼女の名は、アリシア・ヴァン・アレスガイア。亡き賢帝の孫娘であり、帝国唯一の正統な継承者であった。
「……貴方がたが、おじい様を殺した化け物を……たおしてくれたのですか?」
アリシアは、皇帝が魔族に入れ替わった際、その違和感に唯一気づいてしまった聡明な少女だった。それゆえに地下牢に幽閉されていたのだが、皮肉にもその地下構造が、更地と化した城の崩壊から彼女の命を守ったのである。
「アリシア様! ご無事でしたか!」 生き残った貴族たちが、希望の象徴である彼女の生還に歓喜し、跪く。
「……ん。……可愛い。……守る」 ミリィが珍しくアリシアに歩み寄り、泥のついた頬をそっと拭った。リリーもまた、幼いながらに帝国の重責を背負うことになった少女を見つめ、静かに魔力を練る。
「さて……更地になっちゃったものは仕方ないわね。アリシア、貴女の新しいお城、私が少しだけ『創造』してあげましょうか?」
賢者の気まぐれな提案により、更地となった帝都に、新たな歴史の礎が築かれようとしていた。
・・創造の槌音と、筋肉の抱擁・・
更地となった帝都の中央で、リリーが優雅に杖を掲げた。 「更地のままじゃ、この子の寝る場所もないわね。一万五千年の修行で得られた建築センスも取り入れつつ……少し本気で作り直してあげるわ」
リリーの銀色の魔力が大地に染み込み、巨大な魔法陣が幾重にも展開される。地中から巨石がせり上がり、分子レベルで再構成された素材が、物理法則を無視して白亜の城塞へと組み上がっていく。その光景は、帝国貴族たちにとって神の業にしか見えなかった。
だが、その劇的な復興劇のすぐ側で、人類の尊厳を試すような**「もう一つの決戦」**が幕を開けていた。
・・聖女vs法術師:愛と筋肉の土俵・・
「ドスコイ殿の『一年間の所有権』、このわたくしが筋肉の慈愛をもって勝ち取らせていただきますわッ!」 「笑わせるな! ドスコイは既に拙僧と衆道の誓いを立てた仲。女子の横恋味など、扶桑の神が許さぬわ!」
教皇と玄。二人の巨漢が、瓦礫を円状に並べて作られた仮初めの土俵を挟んで対峙した。 行司を務めるのは、教皇に心酔しきった魔族の元女幹部である。彼女はどこから調達したのか、ボロボロになった軍旗を軍配代わりに掲げ、鋭い声を上げた。
「……両者、構えて! 見合って……はっけよい、のこったぁーーーッ!!」
――ドゴォォォォンッ!!
爆鳴と共に、二つの巨大な肉塊が正面から衝突した。 玄は扶桑の伝統的な腰の入りで押し込もうとするが、教皇はエメラルドグリーンの下着を限界まで食い込ませるパンプアップでこれに応戦する。
「……あら、いい弾力ですわね、玄様! まるで使い古した薬研のような渋い筋肉……嫌いじゃありませんわッ!」 「ぬぅぅぅッ! お主のその、粘りつくような肉の圧力……! 貴様、本当におなごか!?」
二人の取り組みは、もはや相撲というより、ガチムチの漢(一人、自称乙女)による**「究極の抱擁」**であった。互いの汗が飛び散り、筋肉と筋肉が擦れる音が、周囲の避難民たちの悲鳴をかき消していく。
・・観戦者たちの狂乱・・
「あ、あああああ……ッ!! 素晴らしい……! 素晴らしいですわぁぁぁ!!」
この光景に最も当てられていたのは、バルト(♀)であった。 愛するドスコイが男に戻り、その彼を巡って最強クラスの男たちが肉体言語で語り合う。抱き合う漢の姿は生粋のホモにとっては刺激が強すぎた。魔導カメラがないことをこれほど呪ったことはない。バルトは血走った目を見開き、毛穴の一つ一つから発せられる蒸気までをも脳内に焼き付けようと、瞬き一つせず凝視し続けていた。
一方、当のドスコイ(男)は、自分のために争う二人を見て、 「……玄様、頑張ってください。でも教皇様のあの三頭筋も、捨てがたい魅力がありますね……」 と、一人で相撲の技術論的な観点から分析を始めていた。
「……リリー。……あっち、もう放っておいていいべか?」 「ええ、モミジ。関わったら負けよ。私たちは、アリシアのためにお城を完成させましょう」
白亜の魔導城が天高くそびえ立つ背景で、筋肉の怪鳥音が響き渡る帝都。 魔王を倒した後の世界は、平和という名の「混沌」に満ち溢れていた。




