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第六話:母の呼び出しと、禁断の「鑑定」事情

魔法と武術、二人の師匠に絞られる日々が始まって一ヶ月。 ようやく「身体強化」を無意識に維持できるようになった私に、一通の呼び出しが届いた。


「お嬢様、お母様がお呼びですわ。午後のティータイムをご一緒したいとのことです」


アンナにそう告げられ、私は少し緊張した。 公爵夫人——私の母、エレナ・ド・ヴァランタン。 彼女はこの広大な領地の政務や社交を切り盛りする超多忙な女性で、父との初対面の日も公務で不在にしていた。


記憶の中にある母は、私と同じ金髪を持つ、凛とした美女だ。 ……そして、抱きしめられた時に感じた、あの**圧倒的な平原(まな板)**の感触。


(……これからの俺の人生を占う、重要な面談になるな)


案内された私室で待っていたのは、書類の山に囲まれながらも、優雅に紅茶を啜る女性だった。


「リリアーヌ、こちらへ。顔を見るのは少し久しぶりね」


「はい、お母様。お呼び立ていただき光栄です」


私が完璧な淑女のカーテシーを見せると、母は少し驚いたように目を細めた。


「あら……。随分としっかりしたのね。ラグナ(父)から聞いてはいたけれど、魔法の才能が溢れ出しているとか。……その様子だと、10歳の『鑑定』を待つまでもなく、我が家は安泰かしら?」


母はそう言って私を隣に座らせると、愛おしそうに私の黄金の髪を撫でた。


「先生たちも驚いています。でも、私はただ、お父様やお母様のお役に立ちたくて……」


「ふふ、可愛いこと。でもね、リリアーヌ。鑑定でどんな結果が出ようと、あなたは私の自慢の娘よ。たとえ適性が『無』であっても、ヴァランタンの血が途絶えることはないわ」


母の言葉は温かいが、その視線はどこか遠くを見ているようだった。 この世界において「属性適性」は、その後の人生を決定づける残酷な宣告でもある。公爵家のような名門であればなおさらだ。


(……お母様、心配しないで。俺の体には、ハゲ女神の濃厚な加護が詰まってるんだ。適性がないなんて、ありえないから)


そんなことを考えながら母の隣に座っていると、ふと視線が彼女の胸元……もとい、タイトなドレスのラインに向いてしまう。


(……やっぱり、ない。凹凸が、ない。まるでお父様の鍛え上げられた大胸筋の方がまだ膨らんでいるんじゃないかというレベルだ。……ああ、絶望だ。俺の将来も、この平穏な平原のようになってしまうのか!?)


「あら、どうしたの? 私の顔に何かついているかしら?」


「い、いえ! お母様があまりにお綺麗だったので、見惚れてしまいました!」


「まあ、口のうまい子ね」


母は嬉しそうに私を抱き寄せた。 ……硬い。やはり、硬い。いや、もちろん女性的な柔らかさはあるんだ。あるんだけども、

・・・・・、


(……決めた。10歳の『精神と時間の部屋』が解禁されたら、最初の修行目標は『魔力による二次性徴の促進』だ。魔法でなんとかしてやる、絶対にな……!)


実はそんなことは不可能なのだがこの時の俺は希望を繋ぐことで絶望を感じずにいられたのだった。

この時の俺は母との穏やか(?)なティータイムを過ごしながら、心の中で新たな決意を固めるのだった。



▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽



お母様とのティータイムで将来の「発育」に危機感を抱いた私は、気分転換も兼ねて、初めての外出許可を勝ち取った。 目的は、領都の市場調査……という名の、初めてのお買い物だ。


「さあ、お嬢様。お出かけの準備が整いましたわ」


アンナと数人のメイドたちに伴われ、私は公爵家の紋章が刻まれた豪奢な馬車に乗り込んだ。外観はまるでお城の一部が走っているかのような重厚感だが……。


ガタンッ!! ゴツンッ!!


「っ……いたたたた……」


走り出した瞬間、私は現実を知った。 この世界の馬車、見た目の割に衝撃吸収能力が絶望的すぎる。 公爵家御用達の最高級サスペンション(おそらく魔導具的な何か)が搭載されているはずだが、石畳の振動は容赦なく私の小さな、そしてお風呂上がりに磨き上げられた繊細な尻を直撃した。


(……ケツが。俺のいたいけなケツが割れる! 16歳の頃は自転車のサドルなんて気にしたこともなかったのに、幼女の体はなんてデリケートなんだ!)


「お嬢様? 顔色が優れませんが、車酔いでしょうか?」


心配そうにアンナが顔を覗き込んでくる。その豊かな胸元が馬車の揺れに合わせて……いや、考えるのはよそう。今は尻の生存確認が先だ。


馬車はやがて、活気に満ちた領都の中心街へと差し掛かった。 窓の外には、異世界ファンタジーそのものの光景が広がっている。 立ち並ぶ石造りの店、漂ってくる美味そうな焼き肉の匂い、そして——。


「(……あれが、冒険者ギルドか!)」


街の中心部、一際大きな建物に剣と盾を交差させた紋章が掲げられていた。 日頃からラノベを愛読していた俺にとって、そこは聖地と言っても過言ではない。


(今はまだ5歳の公爵令嬢。冒険者登録なんて夢のまた夢だが……いつか「精神と時間の部屋」で鍛え上げたら、偽名を使ってここに登録しに来てやる。そして『え、その可憐な見た目でランクS!?』みたいなベタな展開をやってやるんだ……!)


そんな妄想に耽っていると、馬車が信号(のような魔導具)で一時停止した。 ちょうどその横を、一組の冒険者パーティーが通り過ぎていく。


前衛らしき重装の戦士、弓を背負った身軽なスカウト、そして杖を持った魔導士。 彼らは使い込まれた装備を身に纏い、実戦の緊張感を漂わせていた。 ふと、その中の魔導士の少女と目が合う。


彼女は一瞬、豪華な馬車の窓から顔を出している私の姿を見て、驚いたように目を見開いた。 黄金の髪、碧い瞳、そして公爵令嬢の気品——。 彼女は眩しいものを見るかのように目を細め、小さく会釈をして去っていった。


(……かっこいい。やっぱり、あっち側の世界に行きたいなぁ)


「お嬢様、もうすぐお目当ての魔導具店ですわ。今日はどのようなものをお探しですか?」


「……そうね。まずは、街の空気を楽しみたいわ」


私は冒険者たちの背中を見送りながら、上品な微笑みをアンナに返した。 公爵令嬢としての窮屈な生活も悪くないが、やはり私の魂は「自由」と「力」を求めている。


この初めての外出は、私に「外の世界」の眩しさを教えるとともに、修行へのモチベーションを爆発させるきっかけとなったのだった。



▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽



冒険者パーティーの最後尾を歩く少女——魔法の聖地、魔導連邦アイリス出身のミリィは、歩みを止めずに思考を巡らせていた。 15歳という成人の年齢に達しながら、その容姿は幼く、ぶかぶかのローブに身を包んだ姿は迷子の子供のようにも見える。だが、その手には身長を超えるほどの、深紅の魔石を冠した古色蒼然たる魔導杖が握られていた。


「……ん。今の……」


ミリィは無口で、言葉を「ん」という短い音から始める癖がある。感情の起伏に乏しいその瞳が、先ほどすれ違った金髪の少女——リリアーヌが消えた角をじっと見つめた。


「ミリィ? どうかしたか?」


リーダーの戦士が声をかけるが、彼女は「ん、なんでもない」とだけ返し、再び歩き出す。 だが、その内面はかつてないほどの驚愕に支配されていた。


(……ありえない。あんな小さな器に、どれだけの魔素マナを詰め込めば、あんな高密度の光を放つ?)


ミリィの故郷、アイリスでもあんな「バケモノ」は見たことがない。 少女の周囲の空気は、彼女の意志とは無関係に、まるで深海のような圧力で震えていた。本人が隠しているつもりでも、熟練の魔導士であるミリィの目には、彼女が歩くたびに世界そのものが書き換えられていくような異様さがはっきりと見えていたのだ。


(……おまけに、あの身体操作。ただの令嬢じゃない。魔力で肉体を編み直している。……ん、あの子は、きっと……この国の特異点)


ただ馬車に座っていただけのリリアーヌではあったが、ケツを守る為に無意識に揺れに対応すべく身体操作を行っていた。それは通常ではとても感じ取れない(おそらくセレスティーナでも気付かない)レベルの魔力操作であったが、それによってもたらされた身体操作を彼女は見抜く。


さらにミリィは、自分と同じ「平原(まな板)」の気配をその少女から感じ取り、無意識に親近感……いや、それ以上のシンパシーを抱く。


(……ん。いつか、また会う。その時は……もっと近くで、あの魔導の深淵を見てみたい)


ミリィは杖を握り直し、静かにパーティーの後を追った。 公爵邸に潜む「黄金のバケモノ」の噂が、冒険者の世界に届く日は、そう遠くないかもしれない。

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