第三十五話:魔都の仮面舞踏会、あるいは「決戦のちゃんこ」
帝都の夜を彩る、皇帝主催の祝賀パーティー。その華やかな舞台の裏側で、人類の運命を左右する二つのパーティーが、それぞれ「潜入」の準備を進めていた。
・・聖女の装いと「瞬速脱衣」の美学・・
教皇マッスル一世は、潜入用のドレス選定に余念がなかった。 「……女子力とは、つつましさ。あえて平均的な女性よりワンサイズ小さいものを着こなすことで、身体のラインを際立たせるのですわ!」
しかし、教皇の広背筋はドレスが想定するラインを遥かに凌駕していた。試着のたびに**「ブチブチィッ!」**という布地の悲鳴が響き、潜入前からドレスが爆辞して、自慢のエメラルドグリーンの下着がこぼれ出す。
さらに重大な制約があった。戦闘が始まった際、ルシウスの聖剣に「破魔の力」を付与するには、あの薄手の聖女ドレスに着替えなければならない。 「公衆の面前で下着姿を晒すのは乙女の名折れですが、戦場では一秒が命取り。ワンピースタイプなら、一気に脱ぎ捨てられますわね!」 教皇は、脱ぎやすさ(=破れやすさ)のみを追求した超タイトなワンピを無理やり身に纏った。
・・扶桑の「ふんどしドレス」・・
一方、扶桑パーティー側。西方の流行に疎い楓は、ドスコイ(♀)とバルト(♀)に衣装を任せたが、それが悲劇だった。 二人が選んだのは、扶桑の魂とドレスを強引に融合させた**「ふんどしドレス」**。胸元はサラシ、腰からはスリットが深く入り、そこから鮮やかな「赤いふんどし」が堂々と主張する。 「……いささか、恥ずかしいでござるな」 楓は頬を染めるが、扶桑出身ゆえに「ふんどしは正装」という感覚があり、そのまま着用してしまった。
・・激突! 皇帝の部屋の前で・・
パーティー当日。城内の豪華な回廊にて、二つのパーティーが鉢合わせた。
「止まるがいい、魔族の刺客め! そのような破廉恥な格好、まともな参加者のわけがないですわ!!」 教皇が、筋肉で今にも弾けそうなドレスの肩を震わせて叫ぶ。
「それはこちらのセリフでござる! ドレスを自らの肉体で破壊しながら進むなど、魔族の変身に失敗した成れの果てに相違ないッ!」 シオンが刀の鯉口を切り、ふんどしドレスを翻したドスコイ(♀)が前に出る。
「「そんな格好をしたやつが、まともな参加者であるはずがあるかっ!!」」 声は見事にハモった。勇者と侍、互いの「装いの異常性」を棚に上げた、不毛な勇者決闘が始まろうとしていた。
しかし、この騒動は最悪の形で実を結ぶ。皇帝(魔族)の諜報部隊は、廊下で揉める「下着が透けたマッチョ」と「ふんどし女」の報告を即座に上げ、彼らの正体は潜入開始一分でバレてしまったのである。
・・暴走のちゃんこ、そしてヤケ食い・・
会場内では、一足先に潜入していたドスコイ(♀)が暴走していた。 「……やはり、西方のご飯は物足りないわ。私が『ちゃんこ』を振る舞わねば!」 西方出身のくせに玄たちと行動していることで心まで東方の人間になったつもりのドスコイ。厨房から大鍋を持ち出し、豪華な食事コーナーの真ん中で炊き出しを開始。スタッフが慌てて止めに入るが、「美味しいから大丈夫!」と耳を貸さない。
バルト(♀)は、公爵家の嫡男としてこれが万死に値するマナー違反だと知っていた。しかし、彼は黙っていた。 (……これも愛。好きなように振る舞うドスコイを、そっと見守るのも愛……)
だが、当然ながら得体の知れない大鍋料理を口にする貴族などおらず、ちゃんこは放置された。ショックを受けたドスコイ(♀)は、 「……もういいですわ! こうなったら全部私が食べてやるんですから!」 と、会場の高級料理を片っ端からヤケ食いし始めるのであった。
一方学園ではルシウスを心配するあまり、千里眼の魔法を発動させて見守っていたリリーたち。
「……リリー。……あいつら、絶対失敗するべな」モミジが、静かに呟いた。
・・破砕の変身、そして「狂瀾の舞踏会」・・
ドスコイ(♀)の暴走は、魔族側にとって願ってもない好機となった。
高級フォアグラから七面鳥の丸焼きまで、会場の料理を文字通り「山」のように平らげたドスコイ(♀)は、かつての男時代を彷彿とさせる……いや、それを遥かに凌駕する重戦車のような体躯へと膨れ上がっていた。
「……ふぅ。お腹いっぱいですわ。……あら? 何だか体が、重くて動けな……」
その瞬間、影が動いた。 ドスコイを囲むように、給仕に化けていた魔族の親衛隊が、禍々しい魔剣を抜き放つ。 「食い溜めが最期の晩餐となったな、侵入者め!」 殺気がドスコイの喉元に迫る。だが、彼女は動けない。文字通りの「重荷」が、彼女の機動力を奪っていた。
・・聖女、爆辞変身・・
一方、会場の入り口付近でも異変が起きていた。 教皇マッスル一世の我慢は、すでに限界を超えていた。
道中の激闘と、先ほどのシオンとの小競り合いにより、タイトな潜入用ドレスはすでに布切れも同然。エメラルドグリーンの下着が公衆の面前で「こんにちは」をしている破廉恥極まりない姿に対し、高潔な帝国の貴族たちは「見てはいけない深淵」を察知し、一斉に目を逸らしていた。
「……これ以上、乙女の恥を晒し続けるわけには参りませんわッ!!」
教皇は大きく息を吸い込み、全身の筋肉に最大級の負荷をかけた。 「はぁぁぁぁぁぁッ!! 聖女・開眼!!」
凄まじい肉体の膨張に伴い、残っていたドレスの繊維が弾丸のような速度で四散する。教皇は一瞬にして「全裸に近い状態」を経由し、空中で広げた薄手の聖女ドレスへと、マッハの速さで袖を通した。
「……ふぅ。脱ぐ手間が省けましたわ。これぞ、効率的な女子力ですわね」
・・勇者共闘:皇帝の寝所へ・・
廊下で火花を散らしていたシオンとルシウスは、教皇の放った「筋肉の輝き」と、会場から立ち昇る魔族の殺気を同時に感じ取った。なお、この諍いの元となった女性陣?たちは二人を残して先に会場入りしていた。ボルダーとカイトの二人も会場に入っていたようだ。
「……シオン殿と言ったか。どうやら、僕たちは敵を間違えていたようだ」 「……左様でござるな。あちらの『光る御仁』が味方だというのなら、拙者の眼力もまだまだでござる」
二人は言葉短く頷き合った。共通の敵は、この奥に座す偽りの皇帝。 「「行くぞッ!!」」
勇者の聖剣と扶桑の銘刀が、同時に魔族親衛隊の包囲網を切り裂いた。
・・阿鼻叫喚の幕開け・・
斬首作戦は、奇しくも魔族側の先制攻撃によって「なし崩し的」に開始された。
「ぎゃあああああッ!? なんだあの化け物は!」 「服が……服が爆発したぞ!」 「逃げろ! 勇者と魔族の殺し合いだ!!」
魔族ではない無関係な招待客たちは、教皇の変身という視覚的暴力と、突如として始まった血生臭い戦闘にパニックを起こした。銀食器が床に散らばり、高価なワインが血のように絨毯を染める。
悲鳴と怒号が渦巻く中、ルシウスは聖剣を強く握りしめた。 「……ルシウス殿! 先陣は拙者が務めるでござる!」 シオンの放った最初の一撃――扶桑剣理『断罪の雷』が、皇帝の部屋の重厚な扉を粉々に粉砕した。
阿鼻叫喚の舞踏会は、今、人類と魔族の最終決戦へと姿を変える。




