第三十三話:国境の喧騒、あるいは「愛と筋肉の通行手形」
聖女マッスル一世による「乙女の精神攻撃」の前に、魔王軍女幹部のプライドは無残にも砕け散った。 彼女が吐き出した情報は、驚くべきものだった。魔王軍は寄生魔樹が王都を壊滅させると確信しており、まさか「除草」されるなどとは夢にも思わず、次の一手を欠いていたのだ。
「今こそ魔王の首を獲る好機ですわ。ルシウス殿、このまま帝国領へ潜入し、一気に帝都を目指しますわよ!」
勇者パーティーは、公的に発行された「冒険者証」を掲げ、国境を越える決断を下した。王国と帝国は表面上は戦争状態にあるが、中立を旨とする冒険者や行商人の往来までは止まっていない。それが唯一の潜入路であった。
一方、リリーたちは役目を終え、王都の学園へと戻ることに決めた。 「……本当に大丈夫? ルシウス。危なくなったら、すぐにお姉ちゃんを呼びなさい」 リリーが心配そうに弟の頭を撫でる。 「大丈夫だよ、お姉ちゃん。僕には聖女様(教皇)と、アストラル・バイナリの二人がついているから」 こうして姉弟はしばしの別れを告げ、ルシウスは帝国の深淵へと足を踏み出した。
・・国境の門:兵士の「誤解」と教皇の「献身」・・
数日後、帝国国境にある堅牢な関所。 鉄錆と汗の臭いが漂う兵舎の前に、絶叫が響いた。
「な、なんだあの変態はッ!? 止まれ、止まれと言っているッ!」
守備兵たちが槍を突き出し、教皇を包囲する。ラプンツェル級の金髪をなびかせ、エメラルドグリーンの下着を透けさせたマッチョな聖女。その姿は、帝国兵の理解を数万光年超えていた。
(……ふむ。わざわざ私を足止めするとは。なるほど、これが噂に聞く帝国の『汚職』というやつですわね)
教皇は、兵士たちが自分を通さないのは、難癖をつけて自分(聖女)の体を自由にさせるための「合図」なのだと勝手に解釈した。
「……よろしいですわ。民を救うのが聖女の務め。一人の兵士の欲を満たすことで、勇者一行が通れるのなら安いものです」 「おい、何をつぶやいて――あだぁっ!?」
教皇は問答無用で兵士の一人の首根っこを掴み、そのまま兵舎の中へと強引に引きずり込んだ。 「おいっ! 何を勝手に入ってるんだっ! 放せ!」 異変に気づいた別の兵士が慌てて追いかけるが、教皇は振り返り、艶然(?)たる笑みを浮かべた。
「あら、貴方も私がお望み? 順番をお守りなさいな、欲張りさん」 「ひっ、ひいいいいっ!!」
数分後、兵舎から抜け殻のようになった兵士たちが這い出してきた。教皇は乱れたドレスを整え、何事もなかったかのように関所を通る。兵士たちは恐怖のあまり、彼(彼女)らを検査することすら忘れて門を開けた。こうして教皇は、自らの身体(と筋肉の圧力)を自由に使わせることで、力技の入国を果たしたのである。
・・西の国境:痴話喧嘩の果てに・・
同じ頃、ルシウスたちよりさらに西側の国境線では、別の騒動が起きていた。
「ええいっ! どこまでついてくるつもりかっ! いい加減に帰れと言っておるだろッ!」 玄の怒声が荒野に響く。その後ろには、旅装束(フリル付き)に身を包んだドスコイ(♀)とバルト(♀)が、息を切らしながらも必死に食らいついていた。
「嫌ですわ! 玄様が魔王を討つというのなら、私がお背中を流す係として同行いたしますわ!」 「ドスコイが行くなら私も行きます! 愛は国境を越えるのですわ!」
まさに押しかけ女房。扶桑の勇者パーティーは、魔族よりも厄介なストーカーに悩まされていた。 その様子を冷めた目で見守っていた帝国の国境兵は、溜息をつきながら通行証にスタンプを叩きつけた。
「……おい、痴話喧嘩なら余所でやってくれんかね。入国は許可するから、さっさと行ってくれ。暑苦しくてかなわん」
「痴話喧嘩などではないわいッ!」 玄の叫びを余所に、シオンは「……西方の兵は、寛容でござるな」と、ちょんまげを撫でながら静かに帝国へと足を踏み入れた。
二つの勇者一行、ついに帝国潜入。 変態と侍、そして執念の女体化コンビが、魔の帝都で交錯しようとしていた。




