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第三十二話:凍土の異変、あるいは「賢者と魔族の邂逅」

王都魔法学園の校舎は、リリーとミリィの規格外な魔法によって、瞬く間に外見上の修繕を終えていた。あとの備品調達や運営の調整は、生き残った教師陣とアマリリスが「学園の問題」として処理すべき領分。


「……暇ね。せっかくの休校ですもの、少し遠出をしない?」


リリーの提案により、彼女とミリィ、モミジ、そして世話係のアンナの四人は、大陸北方に位置する**「辺境伯領」**を訪れていた。そこは魔王の版図に近く、冬の気配が一年中漂う険しい土地だが、リリーにはある「予感」があった。


・・枯れゆく大地・・


一行は街道を外れ、人気のない雪原を進む。学園内という「公の場」を離れた今、彼女たちの間にはリラックスした空気が流れていた。


「……なぁ、リリー。見てけろ、このあたりの木々、なんだかおかしいべ」


モミジが巨大な斧を杖代わりに、灰色の森を指差した。学園では「お嬢様」と呼び丁寧な口調を崩さない彼女だが、プライベートでは「真・精神と時間の部屋」で共に過ごした戦友としての素が出る。


「……ん。……魔樹の毒、じゃない。……もっと、冷たい。……悪意」


ミリィが雪の上に膝をつき、枯れた根に手を触れる。リリーの「除草剤」は王都の魔樹を根絶したが、ここにあるのはその余波ではない。何者かが、意識的に大地の魔力を簒奪している形跡であった。


「アンナ、周囲に生存者の気配はある?」 「いえ、お嬢様。……ですが、この先に村があったはずです。偵察して参ります」


アンナがメイド服の裾を翻し、音もなく雪原へと消える。数分後、彼女は険しい表情で戻ってきた。村の跡地を魔王軍の先遣隊が占拠し、この枯死現象を「調査」しているという。


「リリー、どうするべ? 完全に黒だべな、あいつら」 「ええ。私の庭(学園)を荒らした『雑草』の出どころ、突き止めておく必要があるわね」


・・魔族との接触・・


村の広場。禍々しい角と黒い甲冑に身を包んだ魔族たちが、奇妙な魔導具を地面に突き立てていた。


「……閣下! 大地の枯渇度は目標値に達しました。魔王様が仰っていた『苗床』として、これ以上の場所はございません」


彼らが調査していたのは、魔樹の種を植え付けるための「土壌」の選定であった。


「……なるほど。あのアレスガイアの騒動、あなたたちが黒幕だったわけね」


静かな声が、吹雪を割って響いた。 魔族たちが一斉に振り返る。そこには、豪奢な防寒コートを纏い、退屈そうに首を傾げるリリーの姿があった。


「な……貴様、何者だ!? 人間の小娘がなぜここに――」 「質問に答える必要はないわ。掃除の時間よ」


リリーの言葉を合図に、モミジが前に出る。その瞳には、学園での「お嬢様の護衛」としての顔ではなく、一人の戦士としての獰猛な光が宿っていた。


「リリー、こいつら、オラがまとめて薪にしてやるべ!!」


ドォォォォン! と雪原を蹴り、モミジが巨大な斧を振り下ろす。その一撃で、魔族が設置した調査魔導具は粉々に粉砕された。同時に、ミリィも虚空から短剣を取り出し、影のように敵の懐へ潜り込む。


「……邪魔。……消す」


辺境の雪原に、銀色の魔力と黒い殺気が激突する。 王都の勇者が到着するよりも早く、一万五千年前の賢者一行が、魔王軍の先導者たちとの「最初の清掃」を開始した。


・・激闘の雪原、そして「変態尋問」の幕開け・・


魔族のリーダーが咆哮と共に、禍々しい紫の種子を大地に叩きつけた。


「死ね、人間ども! 芽吹け、狂瀾の魔樹――『黒曜コクヨウ』ッ!」


瞬間、凍てついた大地から黒い棘を持つ触手が爆発的に噴出した。王都の魔樹をより戦闘に特化させた変異種である。


「リリー、下がってろ! ミリィ、行くべ!!」 「……ん。……合わせる」


モミジの巨大な斧が触手を叩き割り、その隙間を縫ってミリィの短剣が魔樹の核を削る。アンナは馬車と荷物を守るべく後方で待機しているが、前線の三人の動きはもはや常人の目では追えない。


リリーは指先を動かし、銀色の魔力糸で魔族たちの動きを封じようとしていた。 (……瞬殺するのは簡単だけど、この子たちから情報を聞き出さないとね。でも、生かさず殺さずの加減って本当に面倒……)


賢者ゆえの「手加減」に苦戦し、戦闘が長引いていたその時。雪原の向こうから、不自然なほど鮮やかなショッキングピンクのオーラが猛スピードで接近してきた。


・・勇者の介入と「拮抗」・・


「——そこまでですわ、魔の眷属ども!!」


空を裂いて飛来したのは、ラプンツェル級のウィッグをなびかせた聖女マッスル一世。そして、マントで前を隠しつつも鋭い踏み込みを見せる勇者ルシウスであった。


「お姉ちゃん!? なぜここに……っ、いや、今は目の前の敵だ!」


ルシウスの聖剣と、魔族リーダーの黒剣が激突し、火花が散る。 リリーたちが「手加減」に苦労する一方で、勇者パーティーの実力は魔王軍の精鋭とちょうど「拮抗」していた。それゆえに、彼らの戦いは一進一退の熱い攻防となり、最終的にボルダーの盾による拘束と、教皇の『ホーリー・関節極め』によって、魔族たちは完全に無力化された。


・・恐怖の「乙女尋問」・・


戦闘が終わり、雪原には捕縛された魔族たちが転がされていた。その中には、ひときわ鋭い殺気を放つ女幹部の姿もあった。


「……ふん。生け捕りにしたところで何も喋りはせん。さあ、殺せ!」


女幹部が毅然と言い放ったその時。 視界を遮るように、ショッキングピンクの影がゆっくりと彼女を見下ろした。


「殺す? いえいえ、そんな物騒なことはいたしませんわ。ただ、貴女の中に眠る『女子力』と『筋肉の慈愛』を呼び覚ますだけですの」


教皇はエメラルドグリーンの下着をチラつかせながら、しなやかな指先で女幹部の顎を持ち上げた。


「……な、何よ、その格好は! 恥ずかしくないの!?」 「恥? これは女神様への捧げ物。さあ、正直にお話しなさい。魔王城の構造と、次の計画を。さもなければ……貴女のその甲冑を、もっと『フリフリでキュートな聖女服』に着せ替えてあげますわよ?」


教皇の手には、どこから取り出したのか、レースとリボンが過剰に付いた予備の聖女服が握られていた。


「こ、この変態めっ! ……くっ、殺せ! 殺してえぇぇぇ!!」


女幹部の絶叫が極寒の辺境伯領に虚しく響き渡る。 リリーは、教皇の「尋問」という名の精神攻撃を眺めながら、モミジと顔を見合わせた。


「リリー……あのおじ様、相変わらずだべな」 「……ええ。でも、口を割らせるには、私の魔法より効果的かもしれないわね」


リリーたちと、ピンクの聖女。 相まみえた二つのパーティーは、予想外の形で魔王軍の情報を剥ぎ取り始めた。

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