第三十一話:二つの勇者パーティー、北へ
王都アレスガイアの空は、雲一つない快晴。 ついにこの日、人類の命運を背負った勇者パーティーが、魔王討伐の旅へと出立した。
「……長きにわたる聖女修行、見事であった。マッスル一世、そしてルシウス、この大陸の明日を頼むぞ」
国王の厳かな見送りを受け、王城の重厚な門が開く。城下町の通りは、彼らの勇姿を一目見ようとする民衆で埋め尽くされ、地を揺らすような歓声が上がっていた。
・・勇者の装いと「真の女子力」・・
先頭を行く勇者ルシウスは、聖遺物を装備した勇ましい姿だが、町中ということもあり、戦闘時以外は重厚なマントを前方に回して「大事な部分」を慎重に隠していた。九歳にして、彼はすでに「見せて良いものと悪いもの」の境界線を、痛いほど理解していたのだ。
対して、隣を行く聖女マッスル一世は、実に鮮やかであった。 新調された薄手の聖女ドレスから透けて見えるのは、眩いエメラルドグリーンの上下下着。
(……毎日ショッキングピンクでは、替えを持っていない不潔な女と思われ、女子力が下がりますわ。今日はこのエメラルド、明日はブルー、明後日はパープル……。私のクローゼットに死角はありませんわ!)
特筆すべきは、これらが教皇のための特注品ではないということだ。 「男の体に合わせて作られたものなど、甘えに過ぎませんわ。市井の乙女と同じものを着こなしてこそ、真の女子力が磨かれるのです!」 という信念のもと、彼は女性用の既製品を、その強靭な筋肉で強引にフィットさせていた。まさに命がけのファッションである。
一行は、ルシウスの両親であるヴァランタン公爵夫妻の馬車と共に、まずは北にある公爵領、そしてその先の辺境伯領を目指して、順調に街道を北上し始めた。
・・西の都の焦燥と、休学届・・
一方、西の港町ベネツィーア。 王都から届いた「勇者一行、出立」の報に、扶桑の侍シオンは焦燥の色を浮かべていた。
「……先を越されたでござるか。魔王の首を異国の者に取られては、扶桑の武門の恥。我らも即刻、北へ向かうでござるよ!」
シオンたちは、なおも足元に縋り付いて「弟子入りをぉー!」と叫ぶドスコイ(♀)を華麗に無視し、馬を飛ばした。だが、ドスコイ(♀)とバルト(♀)の愛の執念は、シオンの想像を絶していた。
「バルト! 私たち、学園には戻りませんわよ! 今こそ休学届を出す時ですわ!」 「ええ、ドスコイ! あの素敵な筋肉(玄様)を追って、大陸の果てまで共に参りましょう!」
後日、魔法学園の執務室。 アマリリス(精神体)の手元に、二通の「無期限休学願」が届けられた。
「ほっほっほ……。若いというのは、実に羨ましいことじゃえ。愛のために学業を捨てるとは、わしの若い頃には考えられん情熱よのう」
アマリリスは微笑みながら、その願書を受理した。 近頃の彼女は、一日の終わりに魔法陣へ戻る直前、その日に起きた出来事を「日記」に書き記すようになっていた。朝目覚めたとき、昨日の記憶は消えていても、文字を追えば「知っている」状態にはなれる。
日記の最新のページには、こう記された。
『本日、生徒会の二人が恋の逃避行へ。そして王都の勇者が北へ発った。……リリー、あの子の行く先が、どうか光に満ちたものでありますように』
王都の「変態聖女」と、極東の「実直な侍」。 二つの勇者パーティーが、それぞれの正義(と欲望)を胸に、魔の潜む北方へと進撃を開始した。




