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第二十八話:氷原の三つ巴、あるいは「絶望の乱戦」

勇者パーティーは大迷宮を驚異的な速度で踏破し、ついに第百十階層へと到達した。一日にしてこれまでの記録を大幅に更新するという、歴史に刻まれるべき快挙であった。


しかし、その先に待ち受けていたのは、快挙を絶望へと変える「神話の化身」であった。


・・第百十階層:神狼フェンリル・・


吹き荒れる猛吹雪の中、蒼白く輝く巨体が現れた。神話に語られる冬の災厄、氷狼フェンリルである。 先層のサイクロプスが「鈍重な破壊」なら、フェンリルは「神速の断罪」。その動きは氷の上であっても寸分の狂いもなくしなやかで、かつ一振りの咆哮と共に、氷晶のブレスや大規模な氷結魔法『絶対零度アブソリュート・ゼロ』を連発してくる。


「……ッ、ボルダー殿! 持ちこたえるのですわ!」 「ぐあぁぁっ! 冷たすぎて……盾が、腕に張り付いて……!」


『天駆ける双星アストラル・バイナリ』の二人も、フェンリルの容赦ない猛攻の前に深く傷つき、防戦一方。ルシウスの破邪の剣も、吹き荒れる吹雪に視界を遮られ、決定打を欠いていた。


「……もはや、これまで。一旦立て直さねば、全滅は免れませんわね」 教皇(聖女)は血の気が引いた顔で、懐から「パーティー緊急脱出用スクロール」を取り出した。王国の至宝とも呼べる、高価な転移魔道具である。


・・乱入する「災厄」・・


教皇がスクロールを起動しようとした、その時であった。 凍てついた大地が内側から爆ぜ、赤黒い脈打つ根が地表を突き破った。


「な……ッ!? 魔樹! なぜここに!?」


最下層まで逃げ込んだはずの寄生魔樹パラサイト・ユグドラシルが、勇者一行とフェンリルの戦いが生んだ膨大な魔力の波動に引き寄せられ、この階層へ「逆流」してきたのだ。


戦況は一瞬にして崩壊した。 ただでさえフェンリルに追い詰められていた一行の前に、王都を壊滅させかけた災厄が立ちはだかる。しかし、魔樹にとって、勇者一行も、縄張りを荒らされたフェンリルも、「等しく邪魔な栄養源」に過ぎなかった。


「ガアアアォォォォンッ!!」 フェンリルが己の領土を汚す汚らわしい植物に牙を剥き、大規模な氷結魔法を放つ。魔樹はそれに応じ、無数の触手を槍のように突き出し、狼の四肢を絡め取ろうとする。


「……三つ巴、ですわね。ですが、笑ってもいられませんわ!」


魔樹の触手が無差別に振り回され、ボルダーとカイトを吹き飛ばす。ルシウスを庇いながら跳躍した教皇であったが、その際、手にしていた脱送用スクロールが魔樹の放った鋭い小枝に弾き飛ばされた。


「ああっ! 私のスクロールがあぁぁ!!」


スクロールは吹雪の彼方、魔樹とフェンリルが激突する爆心地付近へと消えていった。 脱出手段を失い、傷ついた勇者パーティー。そして、神話の狼と地底の災厄が殺し合う、狂気の氷原。


「……ルシウス殿。……もはや、やるしかありませんわ。死ぬ気で、覚醒の『扉』をこじ開けなさい!」


教皇はショッキングピンクの下着が透けたドレスを翻し、ラプンツェル級のウィッグを拳に巻き付け、覚悟を決めた。


・・深淵の終焉と、最悪の「凱旋」・・


第百十階層、氷原の三つ巴は、もはや生存を賭けた地獄と化していた。


教皇マッスル一世の指先から、脱出用スクロールが零れ落ちる。それを追う暇もなく、神狼フェンリルの氷晶ブレスと、魔樹の狂乱した触手が交差する。 『天駆ける双星アストラル・バイナリ』の二人、ボルダーとカイトは度重なる衝撃に耐えきれず、ついに意識を失い崩れ落ちた。


「……ッ、ボルダー殿! カイト殿!!」


教皇もまた、満身創痍であった。激戦の中で聖女ドレスはズタズタに引き裂かれ、もはやその身を包むのは**ショッキングピンクの上下(ブラ&ショーツ)**のみ。露出した鋼のような筋肉が、極寒の冷気に晒され湯気を上げている。


一方、勇者ルシウスもまたボロボロであったが、彼には「女神の加護」があった。装備している女神のショーツは、アフロヘーアが丹精込めて(?)作り上げた聖遺物であり、いかなる災厄の牙も通さない絶対不可壊の逸品。ゆえに、彼は半裸ながらも「大事な部分」だけは鉄壁の守りを見せていた。


・・奇跡の決着・・


もはや全滅かと思われたその時、奇跡が起きた。 リリーが仕込んだ「除草剤」が、ついに魔樹の核を完全に掌握したのだ。


「ギ、ギギギ……アッ、アアアァァァッ!!」


魔樹が断末魔の叫びを上げ、その巨大な根がのたうち回る。その最後の一振りが、正面で牙を剥いていたフェンリルの眉間を深々と貫いた。 神話の狼は、宿敵と共に氷原に沈み、魔樹もまた内側から枯死し、灰へと還っていく。


「今ですわ……!」


教皇は、雪に埋もれかけていた脱出スクロールを奇跡的に掴み取った。


「ルシウス殿、二人を掴みなさい! 女神よ、我らをお導きあそばせーーッ!!」


まばゆい光が極寒の深淵を包み込んだ。


・・王都の「絶句」・・


王都、大迷宮の入り口。 そこには、勇者パーティーの帰還を信じるギルド関係者、王国騎士団、そして多くの民衆が詰めかけていた。


「出たぞ! 転移の光だ!」 「勇者様だ! 勇者様が帰ってきたぞ!」


歓喜の声が爆発し、人々はゲートへと駆け寄る。光の中から現れたのは、確かに魔王討伐の希望、勇者ルシウスと仲間たちであった。


しかし、その姿が露わになった瞬間。 王都の熱狂は、文字通り凍りついた。


そこにいたのは、傷ついた仲間を抱え、堂々と胸を張って立つムキムキマッチョな大男。頭にはラプンツェル級の金髪ロンゲウィッグ。そして、その身に纏っているのは、ドレスの残骸すら消え去った**「ショッキングピンクの上下」のみ**であった。


その隣では、これまたショーツ一枚の勇者少年が、恥ずかしそうに剣を杖にして立っている。


「……皆さん、ただいま戻りましたわ。魔樹は……剪定いたしました」


教皇がいつもの聖女スマイル(ただし顔は筋肉モリモリ)を浮かべた、その時。


「へ、…………変態だーーーーーッ!!!!」


誰のものとも分からない、魂からの叫びが広場に響き渡った。 「聖女」として送り出したはずの教皇が、下着姿のピンク色モンスターとして帰還した事実に、民衆は絶望と恐怖、そして深い困惑に包まれた。


「変態って……失礼ですわね。これこそが、最先端の『聖装』というものでしょう?」


教皇の呟きは、逃げ惑う人々の怒号にかき消されていった。 王都の危機は去った。だが、教会の名声と、ルシウスの少年としての尊厳には、魔樹以上の深い爪痕が刻まれることとなったのである。

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