第五話:魔法の真理と、未来への期待
「いい、リリアーヌ様? 魔法とは『願い』ではなく『構成』よ」
先日のド派手な爆破演習とは打って変わり、今日のセレスティーヌ先生は眼鏡をクイと押し上げ、知的で厳格な「教師」の顔をしていた。 演習場の片隅に用意された黒板を前に、先生の講義が始まる。
「世界には魔素が漂い、私たちの体内には魔力がある。これに属性や形を与えるのが『魔法陣』であり、その起動スイッチが『詠唱』。そして大規模な術式を固定し、詠唱を代替するのが設置型の魔法陣ね」
私は小さめの机に座り、熱心にノート(羊皮紙)を取る。 (……なるほど。プログラミングや化学反応に近いな。魔力という燃料を、詠唱というコードで、魔法陣という回路に通して発力させるわけだ)
「先生、質問です! 属性にはどんな種類があるんですか?」
「良い質問ね。一般的には火、水、風、土、光、闇の『六大属性』。それから特殊な『無属性』があるわ。通常は一人一つ、適性がある属性の魔法を学ぶのが効率的よ。……ちなみに私は火、風、土の三属性適性。これでも天才って呼ばれてたのよ?」
先生が少し自慢げに胸を張る。そのたびに「豊穣の果実」が揺れ、私の視線も揺れる。 (トリプルで天才か。……じゃあ、もし全部使えたら神様レベルってことか?)
「先生、魔法のランクについても教えてください」
「ええ。初級から始まって中級、上級、最上級……その先には伝説級や神話級があると言われているわ。普通の魔法使いなら中級を使えれば一人前。最上級を操る宮廷魔導士でも、一発放てば魔力切れで気絶することもあるわね」
先生は淡々と語るが、その口調が少し重くなった。
「そして『禁呪』。これは難易度ではなく、その『性質』で分類されるわ。精神操作や、死ぬまで消えない業火……。人道的に許されない魔法のことね。……もちろん、魔物や奴隷への隷属魔法のように、法で許されたものもあるけれど」
(……奴隷への魔法が合法。ファンタジーの闇の部分だな。16歳の俺としては、ちょっと抵抗がある設定だ……)
「ところで先生。私の『適性』はいつわかるんですか?」
「10歳になる年の1月、王都の大聖堂で鑑定が行われるわ。そこで一生が決まると言っても過言ではないわね。適性がない属性は、一生かけても初級をフル詠唱で出すのがやっと。だから魔法士は、他人が作った高価な『魔法スクロール』を買い込むのよ」
「スクロール、高いんですか?」
「ええ。初級でも冒険者が数日依頼をこなしてやっと買えるくらい。上級以上なら家が建つわ。……まあ、公爵家なら山ほど備蓄があるでしょうけどね」
先生はクスリと笑ったが、私は内心でニヤリとしていた。 (適性がなくても努力でなんとかなる。……そして俺には『あの部屋』がある。10歳までに全属性を極めて、無詠唱で禁呪クラスを連発する美少女……。うん、浪漫しかないな!)
講義が一段落したところで、先生がいたずらっぽく微笑んだ。
「さて、座学ばかりでは退屈かしら? 午後はバラン先生の『物理訓練』が待っているわ。リリアーヌ様、昨日の筋肉痛は大丈夫?」
「……う、お手柔らかにお願いしたいです……」
私は昨夜のメイドさんたちによる「揉みほぐし」を思い出し、少し頬を赤らめながら、ペンを置いた。 魔法の真理は少しずつ見えてきた。次は、このひ弱な幼女の体をどう鍛え直すか。 16歳の太郎としての知識と、5歳児の無限の可能性。 その融合が、どんなバケモノ(美少女)を生み出すのか。私は楽しみで仕方がなかった。
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午後の演習場。 そこには、昨日と同じく岩のようにそびえ立つバラン先生が待っていた。
「さあ、お嬢さん。まずは外周を三周だ。昨日より少しだけペースを上げるぞ」
「三周……!?」
5歳の短い足で、この広大な演習場を走るのは拷問に近い。一周もしないうちに息が上がり、膝が笑い始める。 (クソっ、やっぱり心臓も肺も筋肉も、圧倒的に足りない……! このままじゃ、強くなる前に過労死するぞ)
バラン先生は腕組みをしながら、涼しい顔で私を見ている。その「強者の余裕」が、私の16歳の男としてのプライドに火をつけた。
(……待てよ。さっきセレスティーヌ先生に習ったじゃないか。魔力は『構成』だ。なら、体内の魔力を筋肉や神経に流し込んで、直接ブーストをかけることはできないのか?)
普通、そんな「身体強化」は上級の騎士が何年もかけて習得する高度な技術だ。だが、今の私には余るほどの魔力と、前世のアニメやゲームで得た「内部から肉体を強化する」という明確なイメージがある。
私は走りながら、体内にある熱い塊——女神の加護(ベロチューの残り香)を感じ取った。 それを足の筋肉、そして肺の細胞一つ一つに薄く、だが強固にコーティングするように広げていく。
「——っし!」
シュンッ!
私の体が、自分でも驚くほどの軽さで地面を蹴った。 景色が後ろに飛んでいく。
「な、なんだと……!?」
バラン先生の驚愕の声が聞こえる。 私はそのまま風を切って走り抜け、あっという間に三周を完走した。息一つ乱れていない。
「お嬢さん……今、何をした? その体の使い方は、まさか『魔力付与』……いや、肉体そのものを強化したのか!?」
「えへへ、ちょっと魔力を足に集めてみたんです」
私はあざとく首を傾げて見せた。5歳児の特権だ。 バラン先生は絶句し、私の足元をまじまじと見つめている。
「馬鹿な……。それを教えるのは、早くても十歳を過ぎ、魔力操作に習熟してからだぞ。それを独学で、しかも走りながら……」
バラン先生は驚きを通り越し、少し引きつった笑いを浮かべた。 「……おいおい、公爵閣下。あんたの娘は、魔法だけでなく武の道でも『化け物』かもしれんぞ」
(しめしめ、これで訓練の効率が上がる。身体強化を極めれば、この幼女の体でも大人と対等以上に戦えるはずだ)
魔法の才能に続き、武術の才能までも(強引に)開花させ始めた私。 セレスティーヌ先生は「研究対象」として、バラン先生は「最高の原石」として、二人の師匠の目がさらにギラギラと輝き始めた。
こうして、俺のリリアーヌとしての修行生活は、五歳児の常識を遥かに超えた領域へと足を踏み入れたのだった。




