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第二十五話:深淵への逃亡と、極寒の聖戦

数々の尊い犠牲——殉職した騎士たちの魂、勇者の誇り、そしてアレントの「英雄のケツ」という名の尊厳、さらには王都の空を舞い続けたショッキングピンクの残像——それら全ての混沌を経て、ついにリリーの「除草魔導」がその真価を発揮した。


王都を蝕んでいた魔樹の根は、もはや再生の力を失い、ゼクスの消滅魔法や教皇の打撃によって次々と灰へと還っていく。新たな魔物の発生も止まり、街にはようやく安堵の吐息が漏れ始めた。


しかし、寄生魔樹パラサイト・ユグドラシルは、最後の最後で狡猾な悪あがきを見せた。


「……逃げたわね。地下の『大迷宮ダンジョン』へ」


リリーが冷ややかな視線を地面へと向ける。魔樹は自らの本体を切り離し、王都の地下深く、未だ全貌の知れぬ前人未到の未踏破ダンジョン——百階層以上は確実とされる深淵へと潜り込んだのだ。


・・勇者パーティー、深淵へ・・


「学園の被害が甚大じゃ。わしらはここを離れるわけにはいかぬのう」


精神体のアマリリスが、半壊した校舎を見上げて嘆息する。 ゼクスや教師陣、そしてリリーたち学園組は、傷ついた生徒たちの救護と、瓦礫の山と化した敷地の復旧に追われていた。魔樹の息の根を止める役目は、王都に留まっていた「勇者パーティー」に託されることとなった。


「魔樹を追います。それが、聖女として選ばれた私の、そして勇者の使命ですから」


教皇(聖女)マッスル一世が、金髪ロンゲをバサリと翻して宣言した。


・・聖女の試練:氷点下の女子力・・


王都の地下ダンジョンは、潜れば潜るほど気温が低下する魔の空間である。 灼熱のフロアであればまだ救いもあったが、不運にも魔樹が逃げ込んだ先は、見渡す限りの氷原と雪原が広がる「氷晶階層」であった。


「……ッ! お、おのれ魔樹め、卑怯な場所を……!」


そこに、ガチガチと歯の根を鳴らしながらも、一歩も引かずに進む影があった。 聖女マッスル一世である。 彼女が纏っているのは、女神への信仰(女子力ポイント)を稼ぐための「薄手の聖女ドレス」。断熱効果など皆無に等しく、吹き抜ける極寒の風が、鍛え抜かれた大胸筋を容赦なく冷やしていく。


その隣では、勇者ルシウスがさらに過酷な状況に置かれていた。 彼は緊急時につき「女神のショーツ」という聖遺物を装備しているが、その特性を最大限に引き出すために、上半身はほぼ裸。つまり、極寒の雪原をショーツ一枚で疾走する少年という、公爵家の跡取りとしてはあまりに不憫な姿であった。


「ル、ルシウス殿……! 心を燃やすのです! 筋肉を震わせ、発熱させるのですわ!」 「は、はい……聖女様……! 寒すぎて、逆に熱くなってきました……!」


背後でボルダーとカイトが「あれはもはや何の修行なんだ……」と死んだような目で防寒具に身を包んで続く中、ショッキングピンクの下着を透かせた聖女と、聖なるショーツの勇者は、氷の迷宮を爆走する。


魔樹が待ち構える最下層まで、あと何階あるのか。 彼らの情熱(体温)が尽きるのが先か、魔樹を剪定するのが先か。 アレスガイアの命運を賭けた、もっとも「目に毒」なダンジョンアタックが始まった。


・・瓦礫の中の「救出」と、歪まぬ変態たち・・


勇者パーティーが極寒の迷宮へと消えていった頃、王都魔法学園では、生存者の捜索と瓦礫の撤去が急ピッチで進められていた。


リリー、ミリィ、モミジの三人は、崩壊した講堂の付近で、土砂に半分埋もれた「ある二人の人物」を発見した。


「……あ。……いた。……あの二人」 「……お嬢様、これ、本当に掘り起こすべきだべか? このまま埋めておいた方が、世界のためになる気がするべ」


モミジが巨大な斧を杖代わりに、苦い顔で足元を指差した。そこにいたのは、ゼクスの放った突風によって空の彼方へ吹き飛ばされ、魔樹の根の崩壊と共に墜落した生徒会副会長**バルト(♀)と書記のドスコイ(♀)**であった。


二人は魔力切れと落下の衝撃で意識を失っており、その「聖域スカート」は先ほどの突風の余韻か、あるいは墜落時の衝撃か、依然として無防備に捲れ上がったままであった。


「……一瞬、見なかったことにしようかと思ったけれど」 リリーは深いため息をつき、頭を押さえた。 「これでも一応、生徒会の役員だものね。ここで見捨てたら、後でアマリリス理事長に何を言われるか分かったものじゃないわ。……ミリィ、二人を安全な場所へ」


「……ん。……不本意。……運ぶ」


ミリィが渋々、二人を無造作に担ぎ上げようとした、その時だった。


・・執念の変態、現る・・


「待たれよッ!! その尊き乙女たちの救護、我らにお任せいただきたい!!」


瓦礫の山を爆走し、猛烈な勢いで現れたのは、先ほどアレントのケツで目を覚ましたはずの**デブ(ガスト)とガリ(エドワード)**であった。


彼らの顔には、アレントのケツの跡が赤々と残っていたが、その瞳には再び「使命感」という名の不穏な光が宿っていた。


「リリー様! 殿下と私は、先ほどの悲劇(野郎のケツ)を経て、真実の愛に目覚めました! 乙女のピンチを救うことこそ、我ら騎士に課せられた聖なる義務!」


ガストが鼻息荒く、バルト(♀)たちの前へ立ち塞がった。


「その通りだ! バルト様とドスコイ様の心身を癒すのは、同じ志(?)を持つ我らが相応しい! 拙僧エドワード、彼女たちの乱れた衣類を整え、隅々まで異常がないか確認する所存でござる……もとい、所存だッ!」


「……絶対に、下心しかないわよね」 リリーの冷ややかなツッコミを、二人は華麗にスルーした。


「さらにリリー様! 貴女方もさぞやお疲れでしょう! 私の公爵家に伝わる最高級の滋養強壮薬と、殿下特製の『癒やしのハグ』で、手厚く、それはもう手厚く救護させていただきたいッ!!」


「……ん。……消去。……決定」 ミリィの手のひらに、静かな殺意を込めた魔力の球体が収束し始める。


「いいですか、お二人さん」 リリーが、いつになく「本物」の笑みを浮かべて二人の肩に手を置いた。 「救護はプロ(医療班)に任せなさい。あなたたちがこれ以上動くと、私の『除草剤』を直接あなたたちに撒くことになっちゃうけれど……いいかしら?」


一万五千年の知識と経験を秘めた賢者が放つ、絶対零度の威圧。 デブとガリの背筋に、勇者ルシウスが味わっている以上の寒気が走り、二人はその場に直立不動で凍りついた。


学園の復旧はまだ始まったばかりだが、リリーは確信していた。 魔王の脅威よりも、この学園に巣食う「変態」という名の害虫を駆除する方が、あるいは骨が折れるかもしれない、と。

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