第二十三話:継承の胎動と、歪んだ祈り
リリーの指先から放たれた銀色の魔導「除草剤」。それは地脈を伝わり、魔樹の神経系を焼く猛毒となって広がり始めた。しかし、王都全域に根を張った巨大な災厄を根絶するには、その薬理効果が末端に行き渡るまで最低でも一時間は必要だ。
「……一時間か。少し軽く見積もりすぎたかしら」
予想していた以上の魔樹の生命力にリリーが眉をひそめる間にも、魔樹は自らの死を本能的に察知し、狂暴な延命措置を開始した。
・・樹木型モンスターの氾濫・・
魔樹は、本来ならば退治不能の概念的存在であるはずの自分に対し、明確な「死の気配(枯死)」を突きつけてきたリリーの魔力に恐怖した。その防衛反応として、魔樹は自らの根からトレントやマッド・ウィローといった樹木型モンスターを爆発的な勢いで排出し始める。
演習場は一瞬にして魔物の森へと変貌し、一年生のみならず、観戦していた上級生や教師陣も武器を手に取り、死に物狂いの乱戦に突入した。その中心で、アマリリス(精神体)は透明感のある美しい魔力を振るい、次々とトレントを塵に還していく。
「ほっほ! 枯れゆく前に、わしの教え子たちの肥やしになるが良いぞえ!」
生前の実力には及ばぬものの、その戦闘技術は依然として別格。しかし、敵の物量に押し切られつつあるゼクスと生徒会たちには、さらなる過酷な試練が訪れていた。
・・ゼクス、継承の解放・・
「ぐ……ッ! まだだ、まだ終わらせん!!」
押し寄せるトレントの群れに、ゼクスの呼吸が荒くなる。アマリリスから全霊を賭して継承された「力」。本来ならば師と同等の戦闘能力を発揮できるはずだが、人間族であるゼクスの器では、アマリリスの数千年分の経験と膨大な魔力を一度に受け止めることは不可能だった。
アマリリスは、ゼクスの身が崩壊せぬよう、継承した力に重い「鍵」をかけていた。それは危機に直面するたび、少しずつ解禁される仕組みだ。おそらく一生をかけても、彼女の域に至ることは叶わぬほど、その継承は偉大で重い。
しかし、今。生徒たちの悲鳴と、師が守ろうとした学園の危機が、その鍵の一つを強引に引きちぎった。
「おおおおおぉぉぉッ!!」
ゼクスを中心に、黄金色の突風が吹き荒れた。解禁された魔力の奔流は暴風となり、周囲にいた魔物をなぎ払う。
「ああっ!? ちょっと、なんですのこの風はぁぁーッ!!」 「スカートが! 私たちの聖域があぁぁ!!」
その突風に巻き込まれたのは、女体化した副会長バルト(♀)とドスコイ(♀)であった。二人のスカートは無慈悲にも捲り上げられ、ショッキングピンクの下着を白日の下に晒しながら、彼女たちは空の彼方へと吹き飛んでいった。
・・迷える仔羊たちの「邪教」・・
「……はっ! 夢か……それとも……」
吹き飛ばされたバルトとドスコイが、運命的に(あるいは不幸にも)着地した先。そこには、魔樹の触手に怯えながら逃げ惑っていたデブ(ガスト)とガリ(エドワード)がいた。
彼らの目の前に、空から舞い降りる美女二人のパンチラ。 それは、恐怖に支配されていた彼らの脳内に、誤ったニューロンの結合を引き起こした。
「……見えた。殿下、見えましたな……」 「ああ……。間違いない。この災厄、この魔樹……これこそが女神様の新たな『贈り物』だったのだ!」
彼らの瞳から恐怖が消え、陶酔しきった狂気が宿る。二人は襲いかかる魔樹の根に対し、逃げるどころか恭しく跪き、深く頭を下げた。
「ああ、偉大なる魔樹よ! あなたが暴れれば暴れるほど、世界にはパンツが舞い、新たな女体が生まれるのですね!」 「どうか、私に……私にさらに美しき乙女をお与えください! 」
災厄を「女神の奇跡」と勘違いした変態たちの祈りが、戦場にさらなるカオスを招き入れる。一方その頃、下界を見守っていた女神がその光景を遠目に見つけ、額に青筋を立てていた。
「……あの二人、今度のお仕置きのメニューを倍にしなきゃね・・・」




