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第二十二話:舞台崩壊、あるいは「災厄の覚醒」

第二試合においてBクラスを圧倒し、意気揚々と舞台を降りるDクラス。 特に騎士学園側の生徒たちは、これまで「足手まとい」だと思っていた魔法学園Dクラスの変貌――リリーの静かな魔力に導かれた一糸乱れぬ連携と、お姉様方の放つ高密度の魔法――に驚愕していた。


「信じられん……これが本当に、あの落ちこぼれのDクラスなのか?」 「ああ。まるで全員が、一流の宮廷魔導師に鍛えられたような身のこなしだな……」


勝利に沸く彼女たちを、リリーは穏やかに見守っていた。だが、その視線は時折、足元の地面を貫き、地底深くの「闇」へと注がれる。


・・生徒会の異変・・


一方、演習場の外縁では、理事長の命を受けた風紀委員長ゼクスが、血走った眼光で周囲を警戒していた。その要請を受け、生徒会役員たちもまた、各所に配置されている。


「……何か来るわ。空気が澱んでいる」 生徒会長のイザベラが呟いた、その時だった。


「……ッ!? な、なんですの、この胸騒ぎは!」 「お、お腹のあたりが、キュッとして……気持ち悪いわぁ!」


真っ先に異変を叫んだのは、女体化した副会長**バルト(♀)と書記のドスコイ(♀)**であった。 かつては鋼の精神(と筋肉)を持っていた二人だが、女子の体になったことで、魔力的な汚染や「負の気配」に対して、本能的な感受性が過敏になっていたのだ。


「地面から……地面の下から、ドロドロした、おぞましいモノが這い上がってきますわ!」 ドスコイ(♀)が豊満な胸元を押さえて蹲る。彼女たちの敏感な魔力受容体は、地底で爆発的に成長を遂げた『寄生魔樹パラサイト・ユグドラシル』の毒を、誰よりも早く察知した。


・・牙をむく魔樹・・


「全員、舞台から離れろッ!!」 ゼクスの怒号が響き渡った瞬間。


――ズ、ガガガガッ!!


演習場の中央、今まさに第三試合の準備が進んでいた巨大な魔導舞台が、内側から爆辞するように弾け飛んだ。 土煙を巻き上げ、地中から噴出したのは、赤黒い血管が脈打つ巨大な「根」の束である。


「な、なんだこれは!? 植物……なのか!?」 逃げ惑う生徒たち。本来、生徒の生命を守るはずの「身代わりの護符」が、魔樹の放つ瘴気に当てられ、パリンパリンと次々に音を立てて自壊していく。


『……ギ、ギギギ……ア、マリ……リス……』


魔樹の根の隙間から、昨晩理事長を葬った際の執念が混じった、おぞましい咆哮が漏れる。魔樹は、壇上に立つ「精神体のアマリリス」を本物と誤認し、その命を完全に食らい尽くそうと、演習場全域を覆い尽くさんばかりに触手を伸ばした。


・・守護と、賢者の眼光・・


「お嬢様、下がるべ! こいつはただの木じゃねえべ!」 モミジが大斧を構えてリリーの前に立ち、ミリィもまた無表情の中に鋭い殺気を込めて短剣を抜く。なお、普段では名前で呼ぶが学園では護衛としてお嬢様呼びをするように心がけている。たまに素で呼んでしまうのだが。


「……ん。……腐った、根っこ。……不快」


混乱に陥る演習場。生徒たちがパニックに陥り、Aクラスのクズたちが腰を抜かして震える中、リリーは一人、冷徹な瞳で魔樹の「核」を見定めていた。


「……やはり来たわね。でも、よりによって私の『お友達(Dクラス)』が楽しんでいる時間を邪魔するなんて……。少し、教育が必要なようね」


一万五千年の間、彼女が対峙してきた神話級の災厄に比べれば、この魔樹とて庭の雑草に過ぎない。リリーの手のひらに、銀色の小さな魔力の渦が巻いた。


・・王都崩壊の序曲・・


演習場を突き破った寄生魔樹パラサイト・ユグドラシルの牙は、学園という檻を優に超えていた。 王都アレスガイアの地下に張り巡らされた漆黒の根は、地脈を吸い尽くして肥大化し、市街地の至る所で大蛇のごとく地上へと這い出した。石畳を割り、建物を押し潰し、逃げ惑う民たちを無差別の触手が襲う。王都は一瞬にして、魔の植物に蹂躙される戦場へと変貌した。


・・出撃:新生勇者パーティーと、聖女の「初陣」・・


この未曾有の危機に、王都の防衛陣が即座に動いた。 近衛騎士団と宮廷魔導士たちは、国王と王城を死守すべく強固な結界を構築。冒険者ギルドからは、金級を含む練達の冒険者たちが街へと繰り出した。


そして、本来であれば魔王討伐への「身支度」の最中であった勇者パーティーもまた、無視できぬこの事態に立ち上がった。


「……準備はまだ完全ではありませんが、民の悲鳴を背にプロテインを飲むわけにはいきませんな」


大聖堂から現れたのは、もはや「教皇」の面影をどこかに置き忘れた聖女マッスル一世であった。 その身には、女神の加護(という名のファッションチェック)を満たした薄手の聖女ドレス。しかし、その下にはショッキングピンクの上下(ブラ&ショーツ)が透け、背中にはラプンツェルをも凌駕する超長髪の金髪ウィッグが、筋肉に満ちた背中で激しく揺れている。


なお、愛用のぬいぐるみは自室でお留守番だ。リリーのクマちゃんたちのように自立行動できるレベルには、教皇の「慈愛」が到達するにはまだ一万年早い。


「行くぞ、ルシウス殿。ボルダー殿、カイト殿!」


「……は、はい! 聖女(教皇)様!」 勇者ルシウスもまた、緊急時の特例として「女神のショーツ」を装備。その気恥ずかしさを破邪の力へと変換し、聖剣を力強く握りしめる。 元ミリィのパーティーメンバー、戦士ボルダーと斥候カイトも、教皇のあまりの変貌ぶりに目を逸らしつつ、実戦への緊張感で武器を構えた。


・・聖女の「断罪」・・


街を埋め尽くす魔樹の根。その一本が、大聖堂の入り口付近にいた赤子を守る母親へと振り下ろされようとした、その時。


「——乙女の慈愛、そして筋肉の正義を知りなさいッ!!」


ショッキングピンクの光を纏った教皇(聖女)が、空中高く跳躍した。 背中の金髪ウィッグを鞭のようにしならせ、鍛え上げられた拳に「破魔」の聖魔力を凝縮させる。


「『ホーリー・スクワット・プレス』!!」


轟音と共に、地上に現れた巨大な根が粉々に粉砕された。ドレスの裾が激しく舞い、透けたピンクの下着が戦場に不似合いな鮮やかさを放つ。


「魔樹よ、丁度良い。私のこの『女子力ポイント』を高めるための修行、その最初の供物として差し出してあげましょう」


教皇は、ラプンツェル級の髪をバサリと掻き上げると、壊滅しかけた王都を救うべく、ピンクの閃光となって突き進んだ。


その頃、学園の演習場。 「……ん。……おじ様。……派手。……趣味、悪い」 ミリィが遠くの市街地から上がる「ピンクの光」を感じ取って呟く。


「……お父様たちも来ているし、あまり派手なことはしたくないのだけれど」 リリーは、目の前で蠢く魔樹の本体を冷ややかに見据えた。


「ゼクス委員長。この植物、根絶には火力が足りないわ。……私が少しだけ『栄養剤』を混ぜてあげましょうか?」


リリーの指先に、王都を飲み込もうとする災厄すらも「ただの雑草」に変える、銀色の極大魔導が収束し始める。

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