第二十一話:極東の叛逆者、あるいは「神無き島国・扶桑」
王都アレスガイアが模擬戦の熱狂と、地底に潜む「寄生魔樹」の脅威に揺れていた頃。 世界の境界線を越え、獣人の国やエルフの森をさらに東へ——地球の太平洋にも匹敵する広大な大海原を隔てた世界の裏側に、孤高の島国があった。
その名は、「扶桑」。
ここはかつて、女神アフロヘーアが説く「女装と筋肉の美学」に激しい忌避感を抱いた者たちが興した国家である。女神が「だらしない身体」「美しくない脂肪」と切り捨てた相撲取り(力士)たちの肉体。しかし、それは血の滲むような稽古と食練によって築き上げられた、不屈の精神の結晶であった。
「自堕落な者と、精進を重ねる力士を同列に扱う女神など、我らには不要!」
そう叫び、女神の加護を捨てた彼らは、独自の八百万の神々を信じ、自然界の理を武器に変える独自の文明を築き上げたのである。
・・異端の技術と文化・・
扶桑の文化は、アレスガイアのそれとは根本から異なる。 男子は元服すると、誇り高き**「ちょんまげ」を結い、男女共に下着は「ふんどし」を基本とする。女子は胸に「サラシ」**を巻き、その上に和装を纏う。
戦闘においても、魔法に代わり、万物の呼吸を斬る**「侍」、闇を駆ける「忍者」、そして自然や冥界の力を操る「法術」や「陰陽術」**が主流だ。
特に、法術の奥義**『百鬼夜行』**は、地獄の門を一時的に開き、数千、数万の屈強な鬼を現世に呼び出す禁忌の技である。一度発動すれば、召喚者ですら制御不能となり、最短でも十分間、敵味方の区別なく金棒が振り回される地獄絵図が展開される。
・・旅立ちの「扶桑勇者パーティー」・・
この国の中枢に鎮座する巫女が、その千里眼で大陸を蝕む「魔王」の存在を捉えた。その予言を受け、扶桑の王は精鋭を送り出す決断を下した。
侍:シオン(24歳) 「……ふむ。西方の風、いささか生臭うござるな」 漆黒の着流しに二振りの刀を差し、ちょんまげを凛と結った扶桑最強の剣士。 「拙者の名はシオン。女神の加護という名の『なまくらな盾』、この刀で断ち切れるか、試させてもらうでござるよ」
くノ一:楓(かえで・19歳) サラシをきつく巻き、機動性を重視した忍装束を纏う。 「シオン殿、また悪い癖が出てござるよ。我らの任務はあくまで魔王の首。……でも、あの『変態女神』の鼻をあかすのは、あだしたちも同感でござる」
法術師:玄(げん・40歳) 巨大な数珠を首にかけ、鬼火や鎌鼬を操る僧兵。 「ガッハッハ! アレスガイアでは『SU・MO・U』なる紛い物が流行っておると聞く。ふんどしの締め方も知らぬ軟弱者どもに、本場の『突き出し』を食らわせてやるわい!」
「……さて。準備は整ったでござるか。いざ、日の出ずる国より、日の沈む大陸へ。参るでござる!」
シオンが鯉口を切ると、鋼鉄の装甲船が東の果てから静かに滑り出した。
一万五千年の修行を積みまさに最強ともいえる賢者リリー、女装筋肉の聖女教皇、そして極東から来る「拙者」と「鬼」。 魔王という共通の敵を前にしながらも、文化と美意識が激突する「もう一つの勇者パーティー」が、今、荒波を越えて西方へと突き進む。




