第十三話:爆裂・薪割り大会! モミジ、真の姿へ
アレスガイアの地に、春の訪れと共に恒例の「行事」がやってきた。
魔法学園と騎士学園、二つのエリート校が合同で行う伝統儀式。それは高貴な身分であればあるほど忘れがちな、王国の基盤を支える平民たちの生活——「林業」「漁業」「農業」——を身をもって知るための三連大会である。
「……薪割り大会、だべか?」 モミジが、肩に担いだ愛斧を軽く回しながら目を輝かせた。
・・貴族の力と、代理の特権・・
「ええ。貴族の務めは民を守ること。そのためには民の苦労を知らねばならない……というのが建前ね。実態は、上級生が護衛や家人の『暴力的なまでの実力』を誇示して、新入生を威圧する場にもなっているけれど」
リリーが解説する。この大会、生徒本人の参加はもちろん、護衛や家人の「代理参加」が認められている。むしろ、「有能な部下を揃えていること」も貴族の強さの証とされ、各クラスは最強の代理人を用意してこの日に臨むのだ。
「農業は秋、魚釣りは冬のマグロ漁が本番。まずはこの時期、山から切り出した丸太を冬の備えのために割る『薪割り大会』が、両校合同で開催されるわ」
・・演習場に集う「筋肉」と「斧」・・
演習場には、山のように積み上げられた巨大な丸太と、それを取り囲む生徒たちの熱気が渦巻いていた。
「おいおい、魔法学園のDクラス。まさか、そのちっこい護衛の娘を出すつもりか?」 騎士学園の生徒たちが、相変わらずの不遜な態度で笑う。彼らの背後には、騎士学園Aクラスの代理人として、聖筋騎士団から派遣された「予備役の巨漢騎士」たちが、丸太のような腕を組み、凄まじい威圧感を放って立っていた。
一方、昨日ゼクス委員長の「正義」を物理的に目の当たりにして失神していたガリ王子とブタ公爵も、独房から(掃除の継続を条件に)一時釈放され、見学席に陣取っていた。
「ハァ、ハァ……殿下、見てください。モミジたんのあの、健康的なふくらはぎ……。薪を割るたびに揺れるであろう、あの『牛のような』肉体……ッ!」 「……ガスト、静かに。今はゼクス委員長の『あの姿』を思い出さないように集中しているんだ。……でも、モミジに全力で振り下ろされる斧になりたいという気持ちは否定できないな」
二人の変態が鼻血を流し始めた頃、イザベラ会長の開始の合図が響いた。
「これより、薪割り大会を開始します! 制限時間内に、最も多くの薪を美しく、かつ正確に割ったクラスを勝者とします!」
・・モミジ、解禁・・
「……お嬢様。あだし、やっていいべか?」 「ええ、モミジ。手加減なんてしなくていいわ。山を一つ更地にするつもりでいきなさい」
「了解だべ!!」
モミジが一歩前に出た。彼女の手にあるのは、リリーが魔改造を施した一万年物の特注大斧。 騎士たちの巨漢が、重い斧を振りかぶり「フンッ!」と丸太を割っていく中、モミジは構えすらしなかった。
「……身体強化・『山神降臨』」
ドォォォォォン!!
モミジが斧を一閃させた。 それは「薪を割る」という概念を超えていた。あまりの速さと衝撃波により、目の前にあった数百本の丸太が一瞬で縦に、均一に、寸分狂わず「真っ二つ」に裂け、その破片が演習場全体に綺麗な山となって積み上がった。
「…………え?」 騎士学園のエリートたち、そして巨漢の騎士たちが、斧を構えたまま石化した。 彼らが一本の丸太に苦戦している間に、モミジは瞬き一つする間に、その場の全ノルマを終わらせてしまったのだ。
演習場に静寂が訪れる。モミジが軽く斧を一振りしただけで、騎士学園が誇る巨漢騎士たちが数時間がかりで挑むはずだった丸太の山が、一瞬にして完璧な「薪」へと姿を変えていた。
「……あれ? もう終わりだべか? ちょっと物足りないべ……」 モミジが拍子抜けしたように首を傾げたその時、演習場の奥から「ほっほっほ」と、鈴を転がすような笑い声が響き渡った。
・・理事長の「在庫処分」・・
「案ずるな、モミジ。割るべき薪なら、腐るほどあるぞえ」
宙から舞い降りたのは、アマリリス理事長だ。彼女が手にした扇子をパチンと開くと、空中に巨大な魔導門が出現した。そこから、演習場を埋め尽くさんばかりの、さらに巨大で、節だらけの「魔導大樹」の丸太が次々と吐き出されていく。
「な、なんだあの量は……! 騎士学園が十年かかっても消費しきれないぞ!」 アレントが絶望的な声を上げる中、理事長は不敵に微笑んだ。
「のう、リリアーヌ。あの娘がいる間に、この先数年分……いや、妾の代で使う薪をすべて割らせておこうと思っての。……モミジや、これら全てを片付けたら、今夜は妾の特選、アイリス産の最高級霜降り肉を好きなだけ振る舞ってやろうぞ」
「……!! 肉……っ! お嬢様、あだし、本気出すべ!!」
肉という言葉に、モミジの瞳が「野獣」の輝きを帯びた。 そこからはもはや大会ではなく、**「自然災害」**であった。モミジの振るう大斧が残像となり、衝撃波が演習場を揺らす。薪が割れる音はもはや爆音と化し、一万五千年の研鑽を積んだ「薪割りの神」の超絶技巧により、飛散する木片すらも芸術的な山を形成していく。
・・聖域の揃い踏みと、床下の阿鼻叫喚・・
「……ん。……モミジ、速い。……肉の、力。……すごい」 ミリィがリリーの隣で、無表情ながらも少しだけ羨ましそうに呟く。
リリー、ミリィ、そしてその間に挟まれるようにして観戦する理事長。 偶然にも、学園が誇る「三大幼女」が再び等間隔に並び、モミジの勇姿を見守る形となった。
「ぐ、ぐはぁぁぁぁッ!!」
見学席の最前列で、ガリ王子のエドワードが血を吐きながら天を仰いだ。 「……ガスト。……見えるか。モミジたんの、あのバイオレンスなまでの躍動感。そして、その背後に並ぶ、三つの尊き聖域(幼女)。……今なら死ねる。……いや、死んではいけない! あの三人の間に挟まって、薪と一緒に割られたい……ッ!」
「殿下! 言葉を慎みなさい! ……しかし、私も同感ですぞぉぉ! あの理事長閣下の『のじゃ』という響き、リリアーヌたんの『凛とした』佇まい、そしてミリィたんの『虚無』の美! これらが同時に視界に入る。……もはや、神の祝福以外の何物でもありませんな!」
二人の変態は、ゼクスの「教育的指導」による精神的ダメージを、この光景だけで急速に自己修復していた。むしろ、あまりの尊さに耐えきれず、二人は互いの肩を組み、涙を流しながら「ロリ……最高……」と呻き、再び泡を吹いて卒倒した。
「……お嬢様。あの二人、今すぐ割られた薪と一緒にボイラー室へ放り込んできてもよろしいでしょうか?」 アンナの静かな問いかけに、リリーは苦笑いを浮かべるしかなかった。
結局、その日のうちに学園の今後三十年分に相当する薪が、すべて完璧な規格で生産された。モミジは約束通り、理事長が用意した「牛一頭分」の霜降り肉を完食し、騎士学園の生徒たちは「魔法使いの護衛は、化け物しかいないのか」と、深い絶望と畏敬の念を抱くことになったのである。




