第三話:爆裂お姉さんと、はじめての魔力爆発(物理)
顔合わせから数日後。 私の魔法家庭教師として、セレスティーヌ先生が公爵邸にやってきた。
「今日からあなたの導き手となります、セレスティーヌです。よろしくね、リリアーヌ様」
そう言って微笑む彼女を、私は食い入るように見つめてしまった。 三十代後半。大人の色気が漂うお姉さん……いや、お姉様だ。 タイトな魔導士ローブの上からでもわかる、その圧倒的な「豊穣の果実」。 (……素晴らしい。太郎(俺)のストライクゾーンど真ん中だ)
だが、視線を自分の胸元に落として、私は戦慄する。 (……待てよ。記憶を辿るとお母様はかなりの『控えめ』じゃないか。このままだと、俺の将来も絶壁の可能性が高い……。ハゲ女神、そこんとこ頼むぞマジで)
ちなみにお父様とは先日初顔合わせだったがお母様は普通に公爵邸で同居している。しかし、公爵夫人はなかなかに忙しいらしく、普段の俺の世話はアンナはじめメイドたちに丸投げ状態だ。
たまには会っていたよう(なお、俺の意識の覚醒はお父様初顔合わせの日であるが、それ以前の記憶もある)で、その時には普段会えない分も可愛がってくれるのだが、抱きしめられた際の感触はまな板だった。
「……様? リリアーヌ様?」 「あ、はい! よろしくお願いします、先生!」
「うふふ、可愛いわね。でも、魔法の道は険しいわよ?」 彼女の瞳に、ふと鋭い色が混じる。 セレスティーヌ先生は、帝国との戦争で足を負傷し、第一線を退いた天才魔導士だ。歩く際にわずかに杖を突くその姿は、歴戦の猛者としての説得力に満ちていた。
「まずは実力拝見といきましょうか。場所は演習場よ」
案内された公爵邸の演習場は、巨大なドーム状の魔法障壁に覆われていた。 「この障壁は公爵家が誇る最高級品。どんな大魔法でも、内側から破ることは不可能と言われているわ。……では、見本を見せるわね」
先生が杖を掲げる。その瞬間、空気が変わった。 彼女は魔法オタク、いや「魔法愛好家」としてのスイッチが入ったようだ。
「集え、焔の精霊。紅蓮の鎖となりて、理の檻を焼き尽くせ! 天を焦がし、地を穿つ、我が怒りの代弁者——《エクスプロージョン・ノヴァ》ッ!!」
(……うわぁ、詠唱が絶妙に中二病だ。でもカッコいい!)
ドォォォォォンッ!!!
鼓膜を揺らす轟音。視界が真っ白になるほどの爆炎。 演習場全体が激しく揺れ、あの「絶対に破れない」はずの障壁が目に見えて歪んだ。 これが宮廷魔導士・元首席の実力か。
「……はぁ、はぁ。……どうかしら? 魔法はイメージと詠唱の連動が不可欠よ。さあ、リリアーヌ様。あなたもやってみて。最初は魔法名を唱えるだけでも——」
「わかりました、やってみます!」
私は先生のマネをして、杖(練習用の短い枝みたいなやつ)を構えた。 頭に浮かべるのは、さっきの爆発。それから、前世で見た特撮映画の核爆発級のキノコ雲。 あのアフロ女神のベロチュー加護が、私の体内で熱くうずくのを感じる。
(えーと、詠唱は……)
「集え、焔の精霊。……紅蓮のタコとなりて、なんか凄い檻を焼き尽くせ! ……あ、間違えた」
緊張のあまり、後半の詠唱がめちゃくちゃになった。 セレスティーヌ先生が「あ、ダメよ! 暴発する——」と叫ぼうとした、その時。
「——《エクスプロージョン・ノヴァ》!!!」
ピキィィィィィィィィィンッ!!!!
音を置き去りにした光が、演習場を埋め尽くした。 先生の放ったものとは比較にならない、太陽が地上に降りたような純白の熱量。
バリィィィィィィィィンッ!!!
「えっ」 「嘘でしょ……!?」
乾いた音と共に、公爵家自慢の「絶対破れない障壁」が、ガラス細工のように粉々に砕け散った。 それどころか、爆風は演習場の外まで突き抜け、遠くに見える庭園の噴水を跡形もなく消し飛ばした。
沈黙。 降り注ぐ魔法障壁の破片が、キラキラと日光に反射している。
「…………詠唱、間違えたのに」 セレスティーヌ先生が、呆然と膝をついた。 「……無詠唱どころか、間違った詠唱で……しかもこの威力……。五歳児が、障壁を、ぶち破る……?」
「あの、先生? 大丈夫ですか?」
私が恐る恐る声をかけると、先生はガタガタと震えながら、血走った目で私を凝視した。
「リリアーヌ様……あなた、人間? ……いいえ、そんなことはどうでもいいわ! この魔力、この構成力! まさに魔法の神に愛された至宝よ!!」
いえ、私が愛されてるのはきっと魔法の神さまではありません。ハゲなのにアフロなおっさん女神ですっ!!
先生が、負傷した足のことなど忘れたような勢いで詰め寄ってくる。 グラマラスな胸元が目の前に迫り、私は鼻血を堪えるのに必死だった。
(……やばい。加護が効きすぎて、加減がわからん)
「明日からは寝る間も惜しんで研究よ! いいわね!?」 「あ、はい……」
こうして、俺の魔法修行は、予定を大幅に超えるスパルタ(魔法オタクの熱狂付き)になることが確定したのだった。




