第五話:生徒会という名の「筋肉と脂」の聖域
演習場をクレーターに変えた翌日。リリーたちは宣言通り、カビ臭い地下書庫こと「第二図書室」の魔改造に着手していた。
「……ん。……紙は、不便。……全て、データ化」 ミリィが杖を振るうと、数万冊の古書が宙に舞い、次々と光の粒子に分解されていく。リリーが創造した中央サーバー**『アレスガイア・クラウド』**へと、一万年分の知恵がインプットされていく。
書庫の壁面には、大型のクリスタル・ディスプレイが埋め込まれ、Dクラスの生徒が魔力を流すだけで、求める知識がホログラムで投影される最新鋭の閲覧システムが完成した。
「これでよし。……さて、誰か来たわね」
リリーが振り返ると、そこには豪華な生徒会の腕章をつけた二人の男が、険しい表情で立っていた。
・・生徒会の「クズ」派閥・・
アレスガイア魔法学園生徒会。ここは真の秀才と、親のコネでねじ込まれたクズが同居する魔窟である。現れたのは、コネ派閥の筆頭格である二人だった。
一人は、生徒会副会長のバルト・フォン・ボルト。 名門ボルト伯爵家の嫡男であり、聖筋騎士団から「その大胸筋、神の彫刻の如し」とスカウトが来るほどの筋骨隆々な偉丈夫だ。
もう一人は、生徒会書記のドスコイ・ハリスン。 豪商の息子であり、最近アレスガイアで流行中の格闘技『SU・MO・U』のスカウトが来るほどの巨体。ガスト公爵令息のような締まりのない脂肪ではなく、岩のように硬い肉の層を蓄えた「動けるデブ」である。
そしてこの二人、実は学園公認(?)のホモでデキている。
「おい、Dクラスのゴミども。ここで何をしている」 バルトがピキピキと大胸筋を震わせながら威嚇する。 「ほう、見慣れぬ装置だな……。ドスコイ、これは何だと思う?」
「ドスコイ。……これは、生徒会が没収すべき不敬なマジックアイテムに相違ありません、バルト様」 ドスコイは横綱のような風格で四股を踏み、床を激しく揺らした。
・・筋肉と脂の愛の巣・・
二人はリリーたちの魔改造装置を眺め、その価値を即座に(私利私欲のために)見抜いた。
「バルト様……この装置があれば、我々の愛の交換日記も、高画質な動画で保存できるのでは?」 ドスコイが乙女のような瞳で副会長を見上げると、バルトはその厚い胸板でドスコイの巨体を優しく受け止めた。
「ああ、ドスコイ。その通りだ。この魔導端末を生徒会室……いや、我々の『秘密のトレーニングルーム』に持ち込めば、君の美しい四股踏みを一万の角度から録画できるだろう」
二人は周囲の視線も構わず、筋肉と脂を密着させて愛を語り合い始めた。リリー、ミリィ、モミジ、そして後方で控えていたアンナの四人は、あまりの光景に一歩後ずさる。
「……お嬢様。あの二人、精神汚染のレベルがガリとブタを超えていますわ」 「……ん。……不可視の、暴力。……直視、厳禁」
「ちょっと、そこの筋肉ダルマとドスコイ!」 リリーが我慢ならず声を上げた。 「それはDクラスのために私が作ったものよ。勝手に持ち帰るなんて許さないわ」
・・激突の予感・・
「はっ! Dクラスが我ら生徒会に口を出すか!」 バルトが制服を脱ぎ捨て、聖筋騎士団直伝のポージングを決めた。 「力こそが法! この筋肉の輝きに跪け!」
「ドスコイ! 私の突っ張りで、その細い体を王都の外まで弾き飛ばして差し上げましょう!」
ドスコイが腰を割り、本格的な『SU・MO・U』の構えに入る。 しかし、彼らはまだ知らなかった。自分たちが挑もうとしている少女が、かつて邪神を「食い込み」で沈めた勇者の姉であることを。
「……いいわ。その筋肉と脂、まとめて『再構成』してあげる」
リリーの指先に、魔改造(破壊的再建築)の光が灯る。
「その暑苦しい筋肉と脂、もっと『効率的』な形に変えてあげる」
リリーの指先から放たれたのは、物質の定義を書き換える禁忌の魔導**「事象再構成」**の光だった。
「ぬおっ!? なんだこの光はぁぁ!」 「ドスコイィィ! 目が、目がぁぁぁ!」
図書室を飲み込むほどの激しい閃光。バルトの咆哮とドスコイの地響きのような叫びが重なり合い、やがて光は一点に収束していった。
静寂が戻った図書室。 そこには、先ほどまでの「筋肉ダルマ」と「動けるデブ」の姿はどこにもなかった。
・・究極の「再構成」:二人の美女・・
「……あ、あれ? 声が……高い?」
最初に声を上げたのは、バルトだった。 かつて聖筋騎士団をも驚かせたその大胸筋は、リリーの手によって**「全てを魅了する爆乳」**へと再構成されていた。筋肉で太かった首筋は白く細くなり、ウエストは折れそうなほどにくびれ、隆起していた広背筋は滑らかな肌の曲線へと変化している。そこにいたのは、燃えるような紅い髪をなびかせる、超絶スタイルの美女だった。
「バ、バルト様……? 貴方、なんというお姿に……」
隣でへたり込んでいたドスコイもまた、変貌を遂げていた。 岩のような脂の層は、男性を夢中にさせる**「極上のマシュマロボディ」**へと置換された。相撲取りのような面影は消え、少しおっとりとした垂れ目の、包容力溢れるぽっちゃり美少女になっている。デブ専とまではいかないが、男子生徒が「一度抱きついたら離れたくない」と列をなすであろう、絶妙な肉付きである。
「ド、ドスコイ……お前、そんなに可愛かったのか……?」 バルト(♀)が、自分より少し背の低くなったドスコイ(♀)の顎をクイと持ち上げる。
「バルト様こそ……その豊かな膨らみ、もはや聖筋騎士団のスカウトどころか、王妃候補に選ばれてもおかしくありませんわ……」
・・ホモの絆 vs 生物的限界・・
二人はお互いの手を取り合い、見つめ合った。 しかし、ここで残酷な現実が牙を剥く。
二人は生粋の「ホモ」であった。 バルトは硬い筋肉と男臭さを愛し、ドスコイは巨大な体躯と男の重圧を愛していた。
「……待て。ドスコイ、お前は女になった。今の僕には、お前の『股間の金星』が感じられない!」 「バルト様! 私もです! 貴方のあの大胸筋の『硬さ』が、今は柔らかいクッションのようではありませんか! これでは、私の相撲愛が……ホモとしての矜持が満たされない!」
絆は本物だ。愛も本物だ。 だが、性癖がそれを許さない。 二人の美女(元ホモ)は、お互いの美しすぎる姿に驚愕しつつも、かつて愛した「硬い肉」と「脂ぎった肌」を求めて悶絶し始めた。
「ハァハァ……愛している、愛しているのに、勃……いえ、疼かないのよドスコイ!」 「そんな……! 精神は求め合っているのに、肉体が拒絶するなんて!」
リリー、ミリィ、モミジの三人は、地面をのたうち回る二人の美女を冷ややかな目で見下ろした。
「……ん。……自業自得。……新しい、地獄」 「あだし、なんだか複雑な気分だべ。あんなに綺麗になったのに、中身があれじゃ台無しだべな」
アンナは手際よく二人の「アフター(事後)」の姿を写真魔道具に収めながら、「生徒会のスキャンダル、高く売れそうですわ」と黒い笑みを浮かべていた。
「さあ、装置の没収なんてバカなことはもう考えられないわよね? さっさとその『新しい自分』に慣れる修行でもしてきなさいな」
リリーが追い打ちをかけると、二人は泣きながら、揺れる胸と揺れる肉を抱えて図書室を走り去っていった。
この事件は、後に「図書室の怪談」ならぬ「図書室の受肉」として語り継がれ、生徒会内に激震を走らせることになる。一方、コネ内定のガリ王子とブタ公爵は、この変貌した元ホモの二人を見て、新たな「性癖の扉」を開きかけるのであった。




