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第四話:魔力測定と歪んだ美学の衝突

オリエンテーション期間も終盤。今日は、生徒たちの基礎能力を測る「魔力測定」の日である。


教室内には、Dクラス担任のバルカスが面倒そうに置いた、巨大な水晶の魔道具「魔導反応計」が鎮座していた。本来はAクラス用の最新型が用意されるはずだが、ここに置かれているのは継ぎ接ぎだらけの旧式だ。


「……ん。……測る。……ミリィも、やりたい」 ミリィが珍しく興味を示し、一歩前に出る。しかし、それを遮ったのはバルカスだった。


「おい、待て。そこの付き添い。お前らはあくまで護衛だ、生徒じゃない。……それに、そんな折れそうな体で魔力があるとも思えん。特にその、まな板みたいな胸……。魔力ってのは生命力の象徴だ。そんな絶壁じゃ、スズメの涙ほども出やしねえよ。やるだけ無駄だ、引っ込んでろ」


バルカスが鼻で笑い、ミリィの華奢な体を侮辱したその瞬間——。


「「貴様ぁぁぁ!! 今、なんと言ったぁぁぁ!!」」


教室の扉を蹴破らんばかりの勢いで乱入してきたのは、ガリ王子のエドワードと、デブ公爵令息のガストだった。


・・ロリータ同盟、正義の鉄槌・・


「殿下!? ガスト様!? なぜDクラスに……」 驚くバルカスを無視し、二人は教師の前に立ちはだかった。


「バルカス……! 君は今、この世で最も神聖な『美』を侮辱した。ミリィたんのその、無駄を一切削ぎ落とした滑らかな平面! それこそが、穢れなき少女の象徴であり、我ら同盟が守るべき聖域なのだ!!」 エドワードがガリガリの指を突きつけ、ガストが脂汗を飛ばしながら続く。 「左様! 絶壁こそが正義! 慎ましき起伏こそが至高! 貴様、正座しろ! いますぐそこで正座して、己の審美眼の無さを女神に詫びるのだ!!」


王族と公爵令息の権圧に抗えず、バルカスは教室の隅で情けなく正座させられた。


「殿下、お待ちください! それなら、あちらのモミジとかいう娘のような、豊満な体付きの方が生命力に溢れているのでは……」 バルカスが必死に反論し、教室の後方で控えていたモミジを指差した。


だが、二人の反応は冷酷だった。 「……フン、あれか。牛のような無骨な肉の塊など、論外だ」 「殿下の仰る通り。あのような暴力的な膨らみ、我らの繊細な画廊には一ミリも必要ありません。目障りなだけですな」


その瞬間、教室の温度が絶対零度まで下がった。 けなされた当人のモミジは「あだし、牛だなんて言われたの初めてだべ……」とショックで斧を落としそうになっている。 しかし、それ以上に殺意を放ったのは、リリーとミリィだった。


「……ミリィ。今、私たちの親友を『肉の塊』って言ったわよね、あの二人」 「……ん。……不可逆的消滅。……確定」


・・測定:崩壊する旧式・・


殺意を魔力に変換し、リリーは無言で「魔導反応計」の前に立った。 「……測ればいいんでしょ? 測れば」


リリーが指先を水晶に触れさせた、その刹那。


ドォォォォン!!


爆発音と共に、旧式の水晶が粉々に砕け散った。それだけではない。装置に蓄積されていた魔力が逆流し、バルカスが正座していた床が陥没。さらには、ミリィをバカにしたガリとデブの「ロリータ同盟」の二人も、衝撃波で教室の外へと吹き飛んでいった。


水晶が粉々に砕け散り、静まり返った教室にリリーの声が冷たく響いた。


「あら、計測不能かしら? 基準が低すぎてお話にならないわね」


正座したまま腰を抜かしたバルカス教師、そして吹き飛ばされて廊下の壁にめり込んでいるエドワード王子とガスト公爵令息。そんな惨状をよそに、リリーはミリィとモミジに視線を送った。


「バルカス先生。装置を壊したのは悪かったけれど、測定ができないなら、次は『魔法実技』の屋外授業に移るのでしょう? ちょうど体も温まってきましたし、行きましょうか」


バルカスはガタガタと震えながら頷くしかなかった。彼は、自分の教え子が「歩く戦略兵器」であることを、ようやく本能で理解し始めていた。


・・魔法実技:初級魔法の「解釈違い」・・


一行がやってきたのは、雑草の生い茂るDクラス専用の第四演習場だ。 バルカスは震える手で杖を構え、遠くにあるボロボロの木製の標的を指差した。


「い、いいか……まずは初級の『ファイア・ボール』だ。精神を集中し、小さな火の玉をイメージして標的に……」


「……ん。……火の玉。……太陽、でいい?」 ミリィが淡々と問いかける。


「なっ、太陽!? 何を言っている、もっと小さく……」


バルカスの制止を聞く前に、ミリィが指先を空に向けた。 瞬間、演習場の空気が一変する。周囲の酸素が急速に吸い上げられ、ミリィの指先には、直視すれば網膜が焼けるほどの超高熱、超高密度の「プラズマ球」が凝縮されていた。


「……ファイア・ボール。……極大マキシマム


放たれたそれは、火の玉というよりは、地上に降臨した「小太陽」そのものだった。 標的の木材が燃える暇もなく分子レベルで蒸発し、そのまま演習場の防護結界に激突。学園が誇る特級結界が、ガラスのようにパリンと乾いた音を立てて砕け散った。


「ひ、ひぎぃぃっ! 結界が、学園の最高級結界がぁぁ!!」


バルカスが頭を抱えて地面に伏せる。爆風で背後の森の木々がなぎ倒され、演習場には巨大なクレーターが穿たれていた。


・・復讐の火炎:リリーの「挨拶」・・


「あらミリィ、やりすぎよ。そんな風に『熱』を広げたら、掃除が大変じゃない」


リリーが一歩前に出る。彼女の視線は、まだ廊下から這い出し、こちらを「ハァハァ」と見つめているガリ王子とブタ公爵に固定されていた。


「次は私の番ね。……『ファイア・ボルト』」


リリーが放ったのは、火の矢。しかしそれは、ただの炎ではない。一万年の修行で開発した、魔力を超高圧でレーザー状に収束させた「指向性エネルギー兵器」である。


「食らいなさい。……親友を『牛』と呼んだ罰よ」


閃光が走った。 火の矢は、目標である標的を貫通したあと、その背後にいたエドワード王子の髪の毛数本と、ガスト公爵令息が持っていた「秘密のスケッチブック」をピンポイントで狙い撃った。


「あ、あつぅぅい! 僕の秘蔵の百合スケッチがぁぁ!!」 「殿下、私の『お着替え覗き見(想像図)』も、も、燃えておりますぞぉぉ!!」


二人の股間を僅か数センチで掠め、背後の岩山を真っ二つに溶断したレーザー。 リリーは、驚愕で白目を剥いているバルカスに向かって、優雅にスカートの裾を持ち上げた。


「先生。Dクラスの演習場、少し『風通し』が良くなりすぎましたわね。……アンナ、ここも魔改造リフォームのリストに入れておいてちょうだい」


「承知いたしました、お嬢様。まずはこの不快な『ガリとデブ』を排除するための、自動迎撃タレットの設置から始めましょうか」


後方で控えていたモミジも、斧を肩に担ぎ直してニカッと笑った。 「だべ! 牛の突進がどんなに怖いか、今度はあだしが教えてやるべ!」


こうして、Dクラスの最初の実技授業は、演習場一区画の消失と、王族・貴族の「精神的去勢」という衝撃的な結末で幕を閉じた。

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