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第二話:魔改造へのカウントダウン

「一万五千年の研鑽を積んで、最初にするのがゴミ拾いなんて……泣けるべな」


モミジが溜息をつきながら、腐りかけた手すりを避ける。 Dクラスのオリエンテーション。それは、学問の殿堂に潜む「階級社会」の現実を突きつけるための、残酷なツアーであった。


一行を率いるのは、Dクラス担任のバルカス・グリム。 ボサボサの白髪に、染みのついた魔法衣を纏った初老の男だ。かつては優秀な宮廷魔導師だったらしいが、今では酒の匂いを漂わせ、死んだ魚のような目で生徒たちを見ている。


「……いいか、お前ら。分をわきまえろ。お前らは『余り物』だ。期待もされなきゃ、予算も出ない。それがこの学園のルールだ」


バルカスは投げやりな態度で、学内の「Dクラス専用施設」を紹介して回った。


・・階級社会の縮図:腐敗した施設・・


「ここが、お前らの使う**『第四演習場』**だ」


案内された場所は、草が生い茂り、的は朽ち果て、魔法の残滓が妙な悪臭を放つただの空き地だった。Aクラスが使う最新の障壁魔法が完備された第一演習場とは雲泥の差である。


続いて訪れた**「第二図書室(別名:地下書庫)」**は、カビ臭い地下室だった。並んでいるのはページが張り付いた古書ばかりで、ミリィが手を伸ばそうとすると、本の間からカサカサと「魔導ゴキブリ」が這い出してきた。


「……ん。……不潔。……知識の、墓場」 ミリィの瞳に、静かな怒りの火が灯る。


最後に訪れた**「Dクラス専用学食」**に至っては、もはや食文化への冒涜であった。 メニューは「謎の黒パン」と「具のない薄いスープ」のみ。テーブルはガタつき、窓ガラスにはヒビが入っている。そこからは、庭を挟んだ向こう側にあるAクラス専用の豪華な温室レストランで、エドワード王子やガスト公爵令息がステーキに舌鼓を打つ姿が見えた。


「国王陛下は、将来有望なAクラスにこそ国の宝を投資すべきと考えておられる。お前らドロップアウト組には、このボロがお似合いだ。文句があるなら実力で這い上がれ……まぁ、無理だろうがな」


バルカスが投げやりに背を向け、酒の匂いを撒き散らしながら立ち去った後、Dクラス一同には重苦しい沈黙が流れた。


しかし、その静寂を切り裂いたのは、耳を突き刺すような下卑た笑い声と、脂ぎった足音だった。


「おやおや、リリアーヌたぁん。そんなボロ雑巾のようなスープを眺めて、一体何を考えているのかなぁ?」


温室レストランのテラス席から、わざわざDクラス用のボロ学食まで降りてきたのは、ガスト・ポークミートであった。その後ろには、ガリガリの体を豪華な制服に包んだエドワード王子が、これ見よがしに銀のトレイを掲げた給仕を引き連れている。


「ハァ、ハァ……可哀想に。公爵家の令嬢が、こんな虫の這うような場所で家畜の餌を食べるなんて。……見てごらん、これが本物の『食事』だよ」


エドワード王子が指を鳴らすと、給仕がトレイの蓋を開けた。そこには、王家御用達の最高級肉を贅沢に使ったローストビーフと、希少な魔力水で育てられた色鮮やかな温野菜が、芳醇なソースの香りと共に鎮座していた。


「リリアーヌ、ミリィ……。僕の『お友達』になってくれるなら、このお肉をあげるよ? ああ、それとも僕の膝の上で、僕が直接あーんしてあげようか。……ハァ、ハァ、想像しただけで鼻血が……っ!」


エドワード王子は、リリーの絶壁な胸元を舐めるような視線で見つめ、ガタガタと震えながら一歩歩み寄る。隣ではガストが、自分の腹の肉を揺らしながら、脂ぎった手でフォークを弄んでいた。


「殿下、名案ですな! ヴァランタン公爵家は落ちぶれたわけではないが、学園内ではDクラスという身分……。我々に縋らねば、三年間ずっとそのカビの生えたパンを齧ることになりますぞ? さあ、早くその汚い制服を脱ぎ捨てて、我々の『特別室』へ来なさいな……。ぐふ、ぐふふふふ!」


二人の「ロリータ同盟」の熱気と、高級食材の香りが混じり合い、Dクラスの学食は吐き気をもよおすほどの悪臭(概念的な意味で)に包まれた。


リリーは、目の前に突き出された最高級ローストビーフを、一ミリも動揺せずに見つめ返した。その隣で、ミリィの瞳の温度が氷点下まで下がり、モミジが斧の柄を握る指から「ミシミシ」と不穏な音が響く。


「……ふぅ。お気遣いありがとう、エドワード殿下、ガスト様」


リリーは静かにティーカップ(ボロい陶器)を置いた。


「でも、結構よ。私たちは『自分たちの口に合うもの』を自分たちで用意する主義なの。……それから、殿下。そのお肉、火入れが甘いわ。あと三分、低温でじっくり熱を通すべきだったわね」


「な……っ、僕の好意を拒否するのか!? このDクラスの分際で!」


エドワード王子が屈辱に顔を真っ赤にし、ガストが「なんという高飛車! だがそこがいい……ッ!」と悶絶するのを無視して、リリーは仲間たちに目配せをした。


「帰りましょう。……アンナ、今日の夕食は『これ』よりも遥かに豪華なものをお願いね。明日からは、この学園の景色を少し、塗り替えさせてもらうわ」


「畏まりました、お嬢様。……ちょうど、一万年前の修行空間で熟成させておいた究極の食材が、亜空間冷蔵庫にございますわ」


リリーたちは、唖然とする「デブとガリ」を置き去りにして、優雅に背を向けた。 その背中には、翌日から始まる「魔改造」への静かな決意が宿っていた。


・・匠の決意・・


「……さて。ミリィ、モミジ、アンナ。どう思う?」


リリーが冷ややかな笑みを浮かべて尋ねる。彼女の背後には、怒り狂ったくまちゃん(透明化中)が邪気を放っていた。


「……ん。……一万年の、我慢。……限界」 「あだしの斧も、このボロい建物を一度更地にしてから建て直せって言ってるべ!」 「お嬢様。私が、この学食の厨房を『地獄』に変えて差し上げましょうか? それとも『天国』に?」


アンナが掃除道具(と、なぜか重機関銃のパーツ)を握りしめる。


「いいえ。今日のところは引き下がりましょう。でも、明日からの授業が始まったら……学園のすべての『ボロ』を、私たちの手で魔改造してあげるわ。学園長が腰を抜かして、Aクラスの生徒たちが泣いて土下座して『使わせてください』って縋り付くほどの、最高級の設備にね」


一万五千年のキャリアを持つ少女の瞳が、職人の輝きを放つ。 リリーたちが本気を出した時、学園の「予算」や「階級」といった概念は、近代建築学と超古代魔法の暴力によって粉砕されることになる。


アレスガイア魔法学園。 明日、この場所は「教育施設」から「リリーの実験場」へと変貌を遂げる。

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