第三十話:真の漢、そして聖剣降臨
女神アフロヘーアが告げた「五年の猶予」が、いま最後の一秒を刻もうとしていた。
世界中の漢、亜人、さらにはリリーが儀式の合間に捕獲してきた上位魔物までもが例のショーツを試着したが、結果は全滅。北の空は不吉な紫色に染まり、空間がひび割れて邪神の巨大な腕が這い出そうとしている。
「……終わったべ。世界中の股間を試して、誰も『真の漢』じゃなかったなんて……」 モミジが巨大なラブリュスを握り直し、絶望に肩を落とした。 九歳になったルシウスは、九年分の英才教育(主に筋肉と女装)により、その辺の騎士が束になっても敵わないほど強くなっていたが、肝心の「聖剣」がなければ邪神を滅ぼすことは叶わない。
「……ん。……撤退準備。……異次元へ、逃げる?」 ミリィが無機質な瞳で空を仰いだ、その時だった。
・・勇者の決意・・
「……待って。まだ、試していない漢が一人いる」
凛とした声が響いた。 誰もが振り返った先には、九歳になったルシウスが立っていた。幼いながらも、その瞳には女神の神託を背負い、五年の過酷な修行に耐え抜いた者の、揺るぎない覚悟が宿っていた。
「ルシウス!? お前はまだ子供だぞ! しかも、このショーツは……」 父ラグナが叫ぶが、ルシウスは首を横に振った。
「パパ、お姉ちゃん、ミリィ、モミジ。僕は勇者だ。この五年間、みんなが僕のために世界中を回ってくれた。この聖剣を呼べるのは、僕しかいない」
そう告げると、ルシウスは祭壇に鎮座する「至高のショーツ」に手を伸ばした。 リリー、ミリィ、モミジは、ルシウスの小さな背中に、これまで自分たちが守ってきた幼い弟の姿ではなく、真に世界を救うべき「勇者」の姿を見ていた。
ルシウスは、神聖な儀式を執り行うかのように、ゆっくりとその小さなシルクの布地に足を通した。
・・ショーツ、穿くべし・・
「——勇者召喚、フル・アクセス!!」
ルシウスが魔力を解放した瞬間、大聖堂はかつてない黄金の輝きに包まれた。 彼の鍛え抜かれた、しかしまだ幼い肢体に、例のショーツが完璧にフィットする。中央のリボンが、まるで勝利の勲章のように誇らしげに揺れた。
面積の足りない布地から溢れ出るのは、肉体的な「一物」ではない。それは、邪神から世界を守るという「勇者としての意志」、そして、家族や仲間への「慈愛」、そして何より、たった一人でこの重すぎる運命を背負い、五年もの間「真の漢」を目指し続けた、その魂の「屹立」であった。
『……あら、合格よ。……完璧な食い込みだわ、ルシウスちゃん!』
空から女神の興奮した声が響いた。 その瞬間、王都の地下深く、あるいは世界の記憶の彼方から、一筋の閃光がルシウスの元へ飛来した。
「……これが、聖剣……!」
ルシウスの手の中に、白銀に輝く「破邪の聖剣」が収まった。ショーツを穿きこなし、真の漢としての「魂の形」を示したことで、ついに勇者の力が覚醒したのである。
・・聖剣の輝きと邪神の沈黙・・
大聖堂を突き抜け、天を貫く聖なる光。 それは世界中のショーツ試着会場に伝播し、全ての漢たちの股間を神々しく照らし出した。 降臨しかけていた邪神は、あまりの光の眩しさと、ルシウスが放つ「ショーツの完成度」に圧倒され、思わず腕を引っ込めた。
「な、なんなのだ……この、魂を抉るような気高い食い込みは……!?」
邪神の失笑は、いまや恐怖へと変わっていた。 聖剣を掲げたルシウス、その横に立つ、神々しく微笑む姉リリー。その後ろには、ねこちゃん、ひよこちゃん、くまちゃんを抱えたミリィとモミジ。
「さあ、お掃除の時間よ、ルシウス。……邪神さん、聖剣を掲げたこの子を、殺せるかしら?」
人類は、ついに神をも凌駕する「答え」に辿り着いた。アレスガイアの、そして全宇宙の運命を賭けた最終決戦が、いま、最高のポージングと共に幕を開ける。




