第二十六話:再編の光、そして家族の帰還
要塞を包囲していた魔王軍の先遣隊が「消滅」したという報は、瞬く間に全戦線へと波及した。 各地でぬいぐるみたちの蹂躙に遭い、さらに要塞から放たれた正体不明の「鉄の鳥(F-35)」による超精密爆撃を受けた魔族軍は、恐怖に突き動かされるように撤退を開始した。
「……陛下。ドワーフ王。約束通り、要塞は返還します。……ここはもう、我々には必要ありませんから」
リリーは呆然と立ち尽くすドワーフ王にそう告げると、全避難民を「神域収納」に一時的に収容するという、空間魔法の極致を見せつけた。 アレスガイア一行が目指すのは、ただ一つ。かつての故郷だ。
・・王都再生:神の御業・・
魔族に蹂躙され、瓦礫の山と化していた王都アレスガイア。 その中心に降り立ったリリーとミリィは、静かに手を取り合った。
「……ん。……一万年の、成果。……見せる」 「ええ。私たちの国を、元通り……いえ、それ以上にしましょう」
二人が魔力を解放した瞬間、王都全体がまばゆい光の繭に包まれた。 「——時空回帰・万象創造」 崩れた石材が空に舞い、意志を持つかのように組み上がっていく。黒煙は浄化され、枯れた噴水には清らかな水が満ち、数週間前に破壊されたはずの王城が、かつての姿そのままに——いや、一万年の審美眼によってさらに壮麗な姿で現世に再臨した。
続いて一行は公爵領、辺境伯領へと転移。そこでも同様の奇跡を振るい、戦火の傷跡を数分で消し去っていった。
・・国境の外交:森の守護者たちへ・・
一方、東の国境付近。 追撃を逃れるために「獣人国」と「エルフの大森林」へと足を踏み入れていたラグナたちは、各国の長からの詰問を受けていた。
「いかに緊急時とはいえ、武装したままの侵入は宣戦布告と見なす」
鋭い眼光の獣人王と、弓を構えたエルフの長老。一触即発の事態に、鼻血を拭ったラグナが必死に事情を説明しようとしたその時、空からリリーの声が響いた。
「——お父様を、いじめないでくださる?」
空を割って降り立つ、プラチナピンクのドレスを纏った愛娘の姿。 リリーは神の如き威圧を微かに放ちつつ、各国の長へ向けて一万年で培った「圧倒的な格言」と「近代的な利権(特産品の輸出約束)」を提示した。神のごとき強者の提案を断れる者はいない。獣人とエルフの長たちは、冷や汗を流しながら「緊急事態ゆえ不問とする」と即座に理解を示した。
・・家族の再会:最強の天敵・・
公爵領。 完全に復興し、前よりも美しくなったヴァランタン公爵邸の正門で、ついにラグナは愛する妻子と再会した。
「リリアーヌゥゥゥッ!! 私の天使、私の宝物、私のアメジストォォォ!!」
ラグナは大剣を投げ捨て、弾丸のような速さでリリーに駆け寄ると、彼女をこれでもかと抱きしめた。 「お父様、苦しいわ! ひゃっ、お髭が痛い、痛いですよお父様!」
一万年の修行を経て、どんな魔法も物理攻撃も通用しなくなったリリーであったが、父の「剛毛な髭」によるジョリジョリ攻撃だけは回避できなかった。リリーは涙目でジタバタと暴れる。
そこへ、母エレナが優しく微笑みながら、一人の赤子を抱いて近づいてきた。 「貴方、この子も見てあげてくださいな。貴方の息子……ルシウスですよ」
ラグナの動きが止まった。最前線での戦いが続き、出産にも立ち会えなかったラグナにとって、これが息子との初対面であった。 「おお……おお……。ルシウスか。リリアーヌに似て、なんて可愛いんだ……」
ラグナはリリーを片腕で抱いたまま、もう片方の手で恐る恐るルシウスを抱き上げた。娘を溺愛する彼だが、命を懸けて守り抜いた血脈の証に、その目には熱い涙が浮かぶ。 「ようこそヴァランタン家へ。パパだぞ、ルシウス。……ジョリジョリ」 「ギャァァァッ!」 赤ん坊のルシウスもまた、父の髭の洗礼を受け、元気な泣き声を上げた。
その光景を横で見守っていたミリィとモミジが、思わず口端を上げた。
「……ん。……次元裂きも、因果改変も効かないリリー。……なのに、パパの髭でダメージ」 「……全くだべ。一万階のボスより、あのパパの方がリリーにとっては最強の天敵なんじゃないべが?」
二人の冗談に、周囲のメイドやバラン、そして意識を持つぬいぐるみたちも笑いに包まれた。 亡国の危機は去り、アレスガイアは今、かつてない平和と力を手に入れたのである。
だが、リリーは知っていた。 帝国の玉座で震えている魔王、そしてその背後に潜む邪神が、このまま引き下がるはずがないことを。
「……さあ、お父様。続きは美味しいお茶を飲みながらにしましょう」
リリーは父の胸の中で、静かに北の空を睨んだ。 反撃は、まだ始まったばかりだ。




