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第二十四話:終焉の門と、最強の証明

「真・精神と時の部屋」に降り立ってから、実に一万数千年。 三人はもはや、存在自体が世界を揺るがす「特異点」となっていた。しかし、その彼女たちですら、地下ダンジョン一万階——通称「無への回廊」の深淵に潜む、ある存在の前では立ち止まるしかなかった。


・・モミジの敗北:物理の終焉・・


一番乗りで最下層に到達したのは、物理の極致を極めたモミジだった。 「だらぁッ! 薪にしてやるべ!!」 次元を裂く連撃、銀河を粉砕する質量攻撃。だが、そこに鎮座していた**「ソレ」**は、身じろぎ一つしなかった。


「……そのような児戯で、我の存在が揺らぐとでも思ったか?」


「ソレ」が指先を僅かに動かした瞬間、次元を裂くはずのモミジの斧が「ただの鉄屑」と化し、死の概念を忘れていた彼女の肉体に、一万年ぶりの「恐怖」が刻まれた。 「な、なんだべ……あだしの力が、通用しねぇ……っ!」 「ソレ」はあえてトドメを刺さず、這いずるモミジを見逃した。命からがら逃げ戻ったモミジは、震えながらリリーに告げた。「あれは……戦っていいもんじゃねぇべ」


・・リリーの挑戦:因果の無力・・


次に到達したのは、近代兵器と魔法を統合したリリーだった。 モミジの報告を受け、徹底的なシミュレーションを重ねた。過去・現在・未来の全座標で同時に爆発する「因果律崩壊核弾頭」を百発同時に叩き込み、並行世界の「ソレ」まで一掃する。


だが、結果は同じだった。 爆炎が晴れた後、無傷の「ソレ」が欠伸をしながらリリーを見つめていた。 「因果か。面白いが、我はその因果を書き換える『筆』そのものだぞ?」 どれだけ策を練ろうと、存在の強度が違いすぎた。リリーの科学的勝利も、魔法的改変も、神話の彼方に消え去った。


・・三人の共闘:神域の絶唱・・


そして数千年後。大図書館の全知識を読破し、森羅万象を掌中に収めたミリィが合流した。 三人、そして意識を持つぬいぐるみたち。彼女たちが辿り着いた結論は一つ。「倒すことは不可能。だが、その魂に我らの『意志』を認めさせるしかない」。


一万階、白銀の玉座。 リリーの号令と共に、全兵器・全魔法・全物理が同時に発動した。


「……マジカル・フォーメーション、フルドライブ!!」


ミリィが全宇宙の法則を書き換え、モミジが次元の断層で「ソレ」を固定し、リリーが全軍基地の戦力と禁呪を融合させた一撃を叩き込む。くまちゃんたちは背後で「頑張れー!」と応援しつつ、溢れ出る魔力を調整して彼女たちの精神を守る。


一万年の集大成。宇宙が産声を上げてから終わるまでの全エネルギーを一点に凝縮したような攻撃。 だが、「ソレ」は笑った。 「……素晴らしい。一万年という刹那で、よくぞここまで辿り着いた」


「ソレ」の手に、攻撃が全て吸い込まれていく。倒せない。消せない。復活すら必要としない絶対不変。 しかし、その攻撃を受けきった「ソレ」の眼差しは、冷酷な捕食者のそれから、好敵手を見守る守護者のそれへと変わっていた。


「……合格だ。お前たちの『意思』、確かに受け取った。一万年の孤独に耐え、己を磨き上げたその魂……我を従えるには十分である」


「ソレ」の姿が光に溶け、一つの「鍵」となってリリーの手に収まった。 それは、どんな絶対者であっても説得し、あるいはその力を自身の一部として行使できる「超越の証」。


「……勝った、のかしら」 「……ん。……たぶん、仲間になった」 「……もう、薪割りの必要はなさそうだべな」


絶対神であった一万階のボスが「超越の証」としてリリーの手に収まり、静寂が訪れた。

ダンジョンから出ると、真っ白な空間に、一万年かけて築き上げた「白亜の洋館」「大図書館」「巨大軍事基地」、そして広大な「海」が広がっている。


「……ん。……いよいよ、お別れ」


ミリィが名残惜しそうに大図書館の壁を撫でた。リリーもまた、前世の孤独な高校生時代よりも長く過ごしたこの場所に、胸が締め付けられるような感傷を抱く。


「ええ。でも、ここは消えるわけじゃないわ。……ミリィ、準備はいい?」


二人は既に神の領域に達した創造と時空の魔法を使いこなし、この部屋への再来も、あるいは現世での再構築も造作なく行える。だが、「今ここにあるもの」への愛着は別だ。 リリーとミリィは同時に手をかざし、無限の容量を持つ「神域収納」を展開した。


「持っていけるものは全部持っていくわよ。食材が湧き出る冷蔵庫も、この大図書館の全蔵書も、弾薬が自動補充されるF-35もイージス艦も……一つも残さないわ」


巨大な軍事設備や建物が、吸い込まれるようにリリーの魔力の中に消えていく。それは引越しというよりは、一つの「世界」を懐に収めるような光景だった。


そこへ、鍵の姿から実体化した「一万階のボス」が、重厚な声を響かせた。


「……リリーよ。我だけではない。この地下一万階、百の階層を護り続けてきた守護者ボスたちも連れて行くが良い。奴らもまた、貴殿らの強さに惹かれ、仕えることを望んでいる」


一万階のボスを筆頭に、地竜を赤子扱いするレベルの神話級モンスターが百体。最弱とされる百階のボスでさえ、現世の魔王を凌駕する実力者たちだ。 リリーは苦笑した。 「……少しオーバーキルな気もするけど、魔王の背後には『邪神』がいる。万全を期すべきね。みんな、来なさい!」


リリーが指を鳴らすと、百体の守護者たちが漆黒の影となり、リリーの影の中へと溶け込んでいった。


地下一万階のボスを配下に従え、全ての準備は整った。だが、リリーは扉を前にして一度足を止めた。


「……ねえ、二人とも。この部屋で過ごす最後の夜よ。明日は一万年ぶりの本番。今夜は思いっきり羽を伸ばしましょう」


「……ん。……賛成。……最後の晩餐」 「異論はねぇべ! 最後にリリーの美味い飯を腹一杯食ってから行くべ!」


一万年の思い出が詰まった白亜の館。リリーは「究極の冷蔵庫」から、前世の記憶にある最高級和牛のステーキや、山盛りの高級寿司、そしてキンキンに冷えた極上シャンパン(ノンアルコールだが魔力で酔える特製)を並べた。 意志を持った「くまちゃん」「ねこちゃん」「ひよこちゃん」も、自分たちのサイズの椅子に座り、小さなフォークを器用に扱って食事を楽しむ。神域を揺るがす戦いを終えた後の、信じられないほど平和な食卓。


食事の後は、三人が愛した大浴場へ。 湯気に包まれた空間で、三人は一万年の労をねぎらうように、互いの体を洗いっこする。


「モミジ、本当に……一万年経っても、ここの発育だけは『暴力』ね」 リリーが、モミジの背中を流しながら、その脇から溢れ出す圧倒的な質量を横目で見て溜息をつく。 「自分じゃ見えねぇから分からねぇけど、リリーのそのツルツルした肌も、あだしは好きだべ。……ほら、洗ってやるべ」


モミジの柔らかい手がリリーの未熟な胸元をなぞる。リリーは、かつて男だった自分の魂が、この一万年で完全にリリーという少女に染まりきったことを、そのドキドキする鼓動で再確認していた。 ミリィは無表情のまま、二人の間に滑り込み、リリーの華奢な肩に顎を乗せる。 「……ん。……平原、落ち着く。……山は、酔う」 「ミリィまで失礼だべ!」


最後の一晩、三人は一つのベッドに潜り込んだ。 くまちゃんとねこちゃんは、リリーとミリィの「絶壁」という名の安息地でスヤスヤと眠り、ひよこちゃんはモミジの深い谷間に埋もれて、幸せな窒息(悶絶)を繰り返している。 「……おやすみ。明日は、世界を驚かせましょう」


・・翌朝:神話の降臨・・


翌朝、修行空間に昇る擬似太陽の光を浴び、三人は身だしなみを整えた。 もはや迷いはない。彼女たちが纏うのは、一万年の修行を経てミリィが完成させた究極の戦闘服、通称「マジカル・フォーメーション」。


リリーは、プラチナピンクを基調とした、物理と魔導の両面を完璧に防御するフリルドレス。武器は持たず、自身の拳と近代兵器、そして全知の魔法を武器とする。 ミリィは、紅玉の杖を大切に収納し、新たに手に入れた虹色に輝く宝玉の神話杖を携え、星の海を纏ったような紺碧のローブをなびかせる。 そしてモミジは、一万階の秘宝、神金属オリハルコンを鍛え上げた巨大な双刃斧ラブリュスを肩に担いでいた。


「準備はいい? 私たちの、アレスガイアを。……この世界を、取り戻しに行きましょう」


リリーが扉を開けた瞬間。 一万年の静寂が破れ、外界の「爆音」と「熱気」が三人を包み込んだ。 時は一分前。崩れゆく司令官館の瓦礫の中から、神の如き威圧を纏った三人が、ついに戦場へと舞い戻る。

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